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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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03/06. そういうの、ちょっとうれしいかも

 俺の家、日暮れ前。


「はじめまして、ようこそナコタ村へ。私は、この村の村長の娘、アミカといいます。牧師さまとは親しくさせてもらっているんですよ」


 アミカちゃんが自己紹介。

 子供たちにつきっきりだった彼女は、例のエロエロオヤジとは、今ここで初対面だった。


「これはこれは、ていねいに。俺はイェルク、旅の牧師だ。しばらく、この村で世話になりたい」

「あいにく父は不在ですが、ゆっくりしていってくださいね」

「村長の娘にそう言ってもらえるとは、いやはやありがたい。よろしく頼むよ、アミカ」


 彼としては、一応まともな受け答え。

 できるなら、はじめからそうしてくれ。


 夕食の準備をしながら、それとなく二人の様子を確認していると、


「ねぇ、カッタ」


 心配そうにリリウが聞いてくる。


「いいの、この家に連れてきちゃって?」

「仕方ないだろ」


 半分投げやりに、俺は答える。


「ナコタで過ごすって言っている以上、あの人を無理に追い出すわけにはいかない。かといって、村の誰かの家に泊まってもらうのも、ちょっと違うだろ? そう考えると、ここで面倒をみるしかないんだよ」


 マイペースなスケベオヤジではあるが、具体的に、何か悪さをしでかしたわけじゃない。


 宿屋のない集落では、地域の長、あるいはそこを管轄する牧師が、訪れた旅人をもてなすのが慣習とされているし、例のごとくこの家は、ずいぶんと部屋が余っている。

 行くあてのない人を迎えるために、日頃から、その手の準備もしているからな。


「どういうわけか、ナコタのみんなには気に入られている。とりあえず、今はお客さんとして扱うさ」

「まぁ、カッタがそう言うなら、あたしは受け入れるけど」


 どことなく不満そうだが、リリウは納得してくれたみたいだ。


「例の件は、夕食後にでも尋ねてみるよ。俺としても、そこははっきりさせたいしな」

「うん、じゃあ任せる」


 コーソ村に興味を示していたという、謎の旅人――それが仮にイェルクさんなら、ムーボや、あのトスロたちとつながっている可能性が出てくる。

 この国には、悪い魔族と組んで悪事を働く人間もいるだろう。

 そういう相手には、牧師として、しっかりと対応しなければならない。


 とはいえ俺も、さすがにそこまでの話になるとは考えていない。


 ムーボやトスロたちは、とにかく好戦的な魔族だった。

 その彼らの仲間だとしたら、集落の代表者を呼びつけた上で滞在許可を求める――なんて回りくどいことはしないはず。

 この前のチノセパリックみたいに、いきなり乗り込んできて暴れ出しそうなものだ。


 だから少なくとも、あの魔族たちとの接点は薄い――そう考えてもいいんじゃないか。


 イェルクさんは、自らを牧師だと言った。


 もちろん牧師は聖職者。

 俺がそうなれているかどうかは別にしても、この国では一応、周りからの尊敬を集める立場だとされている。


 その点を利用して、たとえば田舎の村なんかでは、偽者にせものが牧師を名乗って悪事を働く――という話も伝え聞く。

 都市部には、エリート牧師が多く在籍しているけど、地方では、このナコタのように、一つの集落に一人の牧師ということもめずらしくない。


 田舎だと、その集落外の情報にうとくなる。

 優秀な牧師でも、悪知恵を持つ偽物にだまされちゃったりするんだ。


 つまり、自称牧師の旅人を、無防備に信頼するわけにはいかない。

 俺は、ナコタの教会堂を預かっている。

 だから、警戒心が強くなるのも仕方がないんだ。


 そういうわけで最初は、あの人が本当に牧師かどうか、正直半信半疑だった。

 ちょっとした昼間の言い合いは、俺が彼を怪しんでいたことが、少し表に出てしまった結果なのかもしれない。


 だが、それなりに冷静になってみると、おそらくイェルクさんは本物の牧師なんだろうって、今はそう思っている。

 彼がうそつきじゃない根拠も、自分なりには見つけられたしね。


 まぁ細かいことは、あの人から聞き出せば済むことだ。


「村民は優しい。宿にも飯にもありつける。まったく、いい村に寄れてよかったぜ、なははははっ」


 当の本人はすっかりくつろいだ様子で、テーブルの椅子についている。

 あれくらい図太くないと、旅人にはなれないのかもしれない。


「しかも、この家、やたらかわいいお嬢ちゃんが多いしな」


 テーブルの周りには、もちろん姉さんとフィンネもいる。

 イェルクさんは、その二人を含めて言っているんだろう。


「ダークエルフのリリウとフィンネ、姉のマルセラ、それにこのアミカ――みんな、将来が楽しみな美人さんばかりだ」


 具体的に何の将来なのか、あの人の口からだから疑いたくもなるけれど、深くは追求しないことにしよう。


 聞き耳を立てていた俺に、イェルクさんが声をかけてくる。


「いいなぁカッタ、うらやましいぜ、なははははっ」

「…………」


 考えてみれば、この家には今、四人もの女の子が出入りしているんだ。

 夜、アミカちゃんは自宅に帰るけれど、それでも三人が、あのスケベオヤジと一つ屋根の下になるわけで……う、うーん。


「リリウ」

「何?」

「お前、今日からは、部屋の鍵をしっかり閉めて寝ろよ」


 一瞬、俺が何を伝えているのか、わからない様子のリリウだったけど、


「……もしかして、心配してくれてる?」


 察してくれたのか、きょとんとしながら確認してきた。


「何だよ、悪いか?」


 まぁリリウなら、そういう場合、火の魔力フレイツで黒こげにしちゃうだろうけど、一応な。


 姉さんやフィンネにも、あとで忠告しておこう。


「ううん、悪くない……悪く、ないよ」


 そこで、不自然に視線を外したリリウ。

 食器をいくつか手にすると、そのまま俺に背を向けてしまう。


「カッタ」


 みんなのいるテーブルの方へ行くのかな――と思った瞬間、


「あ、ありがとね。そういうの、ちょっとうれしいかも」


 小さな声でつぶやいて、振り返ることなく、そそくさと離れていった。

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