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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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03/05. 疑惑の視線(3)

「……あれ?」


 沈黙を守る相手に、いぶかしさを感じたのかもしれない。

 のぞき込むように近づきながら、マルセラ姉さんが呼びかける。


「あの、イェルクさん」


 そこで、初めて彼は、姉さんと向き合った。


「どこかでお会いしたこと、ありますか?」

「……いや、そんなわけないだろう」


 一瞬の間と、端的たんてきな否定。

 どこか意を決したように、イェルクさんは答えていた。


「「「「「ん?」」」」」


 彼と姉さんのやり取りに、村のみんなは、少し置いていかれたような表情。


「そうですよね。イェルクさんが牧師ということなので、きっと誰かと勘違いしてしまったんだと思います。気にしないでくださいね」

「……俺が、いくら牧師とはいえ、聖剣士であるお嬢ちゃんと関わりを持つなんてことはない――そうだろ?」


 イェルクさんのそれは、まるで確かめているようだった。

 念を押すように。

 そして、間違いないことをはっきりさせるみたいに。


「え、あ、はい……す、すみません、変なことを聞いてしまって」


 威圧的な印象すら受けるイェルクさんの発言に、姉さんは申し訳なさそうに返した。


 和やかな雰囲気が、かすかにひりついた――ように見えた直後、


「いやぁ、まさか俺が、あの聖剣士と直に会えるなんて。旅もしてみるもんだ――なははははっ」


 イェルクさんはまた、あの妙に社交的な雰囲気に変化する。


「何より、こんな美人のお嬢ちゃんが、王国を乱したケルギジェを討った英雄とは、いやはや驚いた――なははははっ」

「で、ですから、そんな英雄だなんて……」

「いいじゃないの、お嬢ちゃん。誇りなさい、誇りなさい。そして、もっと胸を張りなさい――でへへ♪」


 なっ!?

 あの人、姉さんの胸をスケベな目で――くそっ。

 俺は、すぐさま動き出す。


「君は、すでに多くを得ている。まだ若いんだから、将来性もバッチリだ。だから、とにかく胸を張りなさい。いついかなる時も、胸を、強く前に、ぐっ、ぐぐっと――お、おい、見えないじゃないか!?」

「見えなくていいんですよ、イェルクさん」


 マルセラ姉さんの胸を――もとい、マルセラ姉さんの尊厳を守るため、俺は素早く割って入った。


「……ちっ、またお前か」


 エロエロオヤジが、忌々いまいましそうに吐き捨てる。

 姉さんの前に立っている俺が、心底じゃまらしい。


「姉を、変な目で見ないでください」

「お前な、先に言えよ、姉ちゃんが聖剣士ならさ」


 まるでこちらに落ち度があったみたいに、イェルクさんが訴えてきた。

 ここまでの流れで、俺とマルセラ姉さんが姉弟きょうだいだってことは、一応伝わっているらしい。


「そんなこと、俺は聞かれていませし、そもそも、あなたに言う義理はありませんよ」

「か、カッタくん……」


 言葉の強い俺に、背中の姉さんは少し慌てていた。


「ど、どうしたのさ、カッタくん?」

「い、イェルクさんは、村のお客さんなのよ」

「何か気に触ったのかい? お互い牧師同士なんだし、そういう意味でイェルクさんは君の先輩だ。仲良くした方がいいと思うぞ」


 周りにいる村の方々も、それとなく俺をなだめようとしている。

 きっとみんなには、俺がイェルクさんにいちゃもんをつけているように見えるんだ。


 もちろん俺は、彼とケンカをしたいわけじゃない。

 リリウや姉さんに対する言動には目をつぶるとしても、村のみんなほどは、この人のこと信用してはいない――ただ、それだけだ。


 とはいえ、穏やかな午後の一時が、俺のせいで、いくぶん刺々しくなったのは確かだ。


 その空気を感じとったのか、


「なははははっ、そうかそうか」


 何とも大げさに、イェルクさんが笑い出す。


「まったくカッタは、お姉ちゃんが大好きなんだな。シスコン、シスコン。なははははっ」

「えっ!? い、いきなり何を言っ――」

「いいじゃないか、姉弟愛。恥ずかしがることはない。素晴らしい。なははははっ」


 話の流れを直角に曲げてきたイェルクさんに、俺は戸惑ってしまう。


 けれど彼はおかまいなしに、馴れ馴れしくも俺の肩に手を回してきたんだ。


「はいはい、わかったわかった。カッタにとってマルセラは、ものすごぉーく大切な、自慢のお姉ちゃんってことだな。なははははっ」


 何をどうわかっているのか、俺には全然わからないが、勝手に納得し始めたイェルクさん。


 すると、


「何だ、そういう話だったのか」

「私、急にカッタくんが入ってきたもんだから、てっきり」

「カッタくんにとってマルセラちゃんは、もちろん自慢のお姉さんだろう。それをイェルクさんにも伝えたかったんだな、うん」


 俺からすれば強引な展開なのに、村の方々は、そういうこととして受け入れていた。


 しかも、


「もう、カッタくんったら♪ みんなの前でなんて、お姉ちゃん、恥ずかしくなっちゃうよ――うふふ」


 後ろのマルセラ姉さんまで、すっかり丸め込まれていた。


「お姉ちゃん大好きなカッタくんのこと、お姉ちゃんも大好きだよ」

「ね、姉さん、今はそういう話じゃな――」

「え、カッタくん……お姉ちゃんのこと、もしかして好きじゃないの?」

「あ、いや……そ、そういうわけじゃないけど」


 悲しそうな姉さんに、俺は口ごもってしまう。


「好きだよね、カッタくん?」

「だ、だから、それは――」

「お姉ちゃんのこと大好きだよね、カッタくん?」

「そ、そりゃ……す、好きだけどさ」


 本心だけど、半分は仕方なく答えた俺。


 ちらりと確認すると、いまだに俺と離れようとしないイェルクさんの、何とも腹立たしいニヤニヤ顔が。


「ほほぉーぅ」


 してやったりと言わんばかりに、俺をからかうような目をしていた。


 くそう。


 どうして俺は、この人の前で、こんな罰ゲームみたいな発言をしなきゃならないんだ。


 しかも周りのみんなは、まるですべてを理解しているみたいに、こちらを見ながら『うんうん』とうなずいているし。


 完全にペースを乱された俺は、もはや本題を切り出せなくなっていた。


 うなだれるしかない俺に、ここまでの流れを見守っていただろうリリウとフィンネが、あきれた感じで近づいてくる。


「もう、カッタってば」

「いきなり飛び出したと思ったら、何で肩なんか組まれてるのよ」


 仕方ないだろ、こうなっちゃったんだからさ。


 そんなこんなで、いろいろなことがうやむやなまま、


「なはっ、なははははっ」


 イェルクさんの笑い声は、一段と強く響いていた。

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