03/04. 疑惑の視線(2)
「どうするの、カッタ?」
リリウが、心配そうに聞いてきた。
彼女も、考えていることはいっしょみたいだ。
「どうするも何も、ここは、直接確認してみるしかないだろ」
問題になっている旅人が、仮にイェルクさんだったとしても、それですぐ、彼が危険な相手になるわけじゃない。
けれど、その可能性がある以上、コーソ村の平穏のため、ひいてはナコタ村の安全のために、牧師として尋ねてみる必要があるんだ。
「いやぁ、なははははっ」
件の相手は、気の優しい村のみんなと共に、気楽な笑顔を見せている。
そんな彼を問いただすため、俺が近づこうとすると、
「カッタくん、リリウちゃん、フィンネちゃん」
教会堂の方から、マルセラ姉さんが歩いてきた。
「姉さん」
意気込んでいた俺だけど、不意のことに、思わず足が止まった。
「村の方が、子供たちのおやつを用意してくれたみたいでね、それをいただきに来たの」
「ああ、うん、そっか」
大人たちが休憩中なんだから、当然、向こうもそうなるよな。
「……あれ?」
そっけなく返したつもりはないけど、やっぱり、どこか気の抜けた返事になってしまったみたいで、
「私、何か変なこと言っちゃったかな?」
マルセラ姉さんは、不思議そうに首をかしげていた。
「いや、違う、そうじゃないんだ。ただ、ちょっと気になることがさ」
俺に続いて、
「さっき、この村を訪ねてきた人間がいてね」
「そいつが、もしかしたら――ってことなのよ」
リリウとフィンネが、ものすごくさっくりと伝える。
もちろんマルセラ姉さんには、ウダロたちのこと、コーソ村のこと、ムーボやトスロたちとの一件について、昨日の夕食時に話している。
けれど、今日ここまでの経緯がわかっていない姉さんは、やっぱり詳細が把握できないみたいで。
「何なに? 仲間外れにしないで、ちゃんと私にも教えてよぉ」
隠し事をされているような気分になったのか、腕を軽く振りながら訴えてくる姉さん。
その言動に、少し離れた村の人たちが反応。
それとなく、俺たちの方に視線が向けられた。
すると、
「んっ!?」
周りにつられるようにしてこちらを見ていたイェルクさんが、驚愕した様子で、目を強く開いた。
「おやカッタくん、姉弟ゲンカかい?」
「ダメだよ、仲良くしなくちゃ」
「「「「「あははははっ」」」」」
どうやら誤解してはいるけれど、村の人たちは、いつもと変わらず和やかにしている。
だから今、普通じゃない出来事が起きた――なんてことはない。
厄介なタキシムや、先日のチノセパリックのような魔族なんて、どこを探しても確認できない。
いたって平和な午後の時間なんだ。
なのにイェルクさんは、お気楽だった笑顔から一転、
「…………」
ある種の緊張感を漂わせる表情に変わっていたんだ。
何かがおかしい。
詳しいことは、もちろんわからない。
けれど俺の中で、イェルクさんに対する疑念が、さらに大きくなったことだけは間違いなかった。
「もう、ケンカじゃないですよ」
困ったような素振りのマルセラ姉さんが、村のみんなに伝える。
「ただ、カッタくんたちが、何だか――あら、そちら、お客さんですか?」
姉さんも、見慣れない顔に気づいたみたいだ。
ゆっくりと、イェルクさんを含む輪の中に入っていく。
「ああ、そうなんだよ」
「こちら、旅人のイェルクさん」
「カッタくんと同じく牧師の方でね、とてもおもしろい人なのよ」
まるで長年の友人かのように、突然の来訪者を姉さんに紹介する村の方々。
一方、そのイェルクさんは、どこか節目がちになっていた。
「そうですか――ようこそナコタ村へ、イェルクさん。私は、マルセラといいます」
「……どうも」
姉さんの呼びかけにも、彼の歯切れは悪い。
「牧師、なんですか?」
「ああ、一応」
「私、幼い頃は教会の施設で暮らしていて。だから牧師の方には、何かとご縁があるんです」
「そ、そうか」
イェルクさんはここまで、姉さんと視線を合わせていない。
「ねぇイェルクさん、聞いてよ。マルセラちゃんはね、あのケルギジェを倒した聖剣士なのよ」
「王国の英雄が、今は我が村で暮らしているんだ。俺たちも鼻高々ってわけよ」
「や、やめてくださいよ、英雄だなんて……」
「「「「「あははははっ」」」」」
成し遂げた偉業と、その地位を称える村のみんなと、戸惑う姉さん。
明るい笑い声が響く中でも、その流れに、イェルクさんが乗ることはなかった。
聖剣士としてはとにかく、普段は少し抜けている姉さん。
けれどもさすがに、周囲の雰囲気からは浮いて見える彼の態度に気づいたみたいで。
「あ、あの……私は確かに聖剣士ですが、本当に、そんなたいそうな人間じゃありませんから。どうか、気楽に接していただけると助かります」
その、あまりに仰々しい肩書きに引かれてしまったと、姉さんは思ったんだろう。
イェルクさんに、謙虚な弁解をしていた。
しかし彼は、
「…………」
うつむき加減のまま、特に言葉を返すこともない。
やっぱり、あの人は何か――。




