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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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03/01. 村は祭りの準備中

 緑草祭りょくそうさい本番が近づいてきた。


 コーソ村を訪れた日の翌日である今日は、ナコタ村全体が、朝から騒がしい。


 それもそのはず。

 あっちでもこっちでも、当日に向けた準備が進められているからだ。


 まずは教会堂。


 ガーシュ建国の物語を演じる子供たちの衣装合わせが、ただいま絶賛行われている最中。

 女の子もいるため、牧師である俺も立ち入り禁止だ。

 小さくても、レディはレディだからね。


 中を見ることはできないけど、どんな状況かは、なんとなく想像できた。

 裁縫さいほうが得意な村の女性たちの声が、かすかに聞こえてくるからだ。


 『これを着て、それを履いてね』

 『君はこれ、あなたはあっちの上着よ』

 『あら、ちょっと大きいね……まってて、おばさんがすぐ直すから』


 慌ただしくも活気ある彼女たちの声が、絶え間なく村に響く。


 たぶん幼い彼らは皆、衣装担当のおばさま方に、着せかえ人形よろしくこねくりまわされているんだろうな。


 たまに『あれ、これって誰の衣装だったかな?』と、困惑したマルセラ姉さんの様子も伝わってくるけど……頼むよ、姉さん。


 子供たちは、アミカちゃんのアドバイスを受けながら、演劇の練習を毎日頑張っていた。

 展開も演出もすっかり頭に入っているみたいで、今や立派な舞台役者なんだとか。


 うん。

 彼らの活躍が、本当に楽しみだ。


 次は、各家庭の台所。


 料理に自信のある女性の皆さんが、それぞれに分担しながら下ごしらえを始めていた。

 緑の匂い、香ばしい香り、塩気のある湯気が漂い、空腹を刺激する。

 リリウも、どこかのお宅におじゃまして、準備の手伝いをしているんだ。

 俺も、あとで顔を出さないとな。


 最後は村の広場。

 当日の会場になる場所だ。


 ここでは、俺を含めた男性陣が、一生懸命に汗を流している。


 木槌きづちの音が響くのは、演劇の舞台を造っているから。

 体力自慢の男性を中心に、子供たちが輝けるステージを組み立てているんだ。


「ギィ」

「ギィギ」

「ギギィーッ」


 我らが村の男性チームには、もう彼らマサンも含まれている。

 丸太、角材、石などを、チームワークよく運んでくれていた。


 一方、マサンが働いてくれているということは、当然、術者の彼女が召喚したからなわけで――。


「はいはい、休んじゃダメよ」

「「「ギィーッ」」」


 指示するだけのフィンネに文句も言わず、今日もマサンたちは従順だ。


 何だろう、もはや泣けてくるよ。


「ほら、カッタ。あなたも休んでないで、しっかり働きなさいよね」

「……人をサボってたみたいに言うな」


 村長が留守の今、俺は一応、緑草祭の責任者。

 全体の状況を把握しなくちゃいけないから、ちょっと村を一周してきたんだよ。


「見回りも、れっきとした俺の仕事だっての」


 理不尽に絡んできたフィンネに、俺が抗議していると、


「どうだい、他のところは?」


 きこりのクレマンスさんが、汗を拭いながら声をかけてきた。


「ええ、どこも順調ですよ」

「そうかい、それはいい」


 木槌をドンと立てた彼が、息を整えて続ける。


「少し早いが、ここも、もうすぐ完成だ。組み上がったら、前日までに大道具を並べないといけないからな」


 そっちは、すでに出来上がっている。

 俺を含めた男性チームで、いろいろと作ったんだ。


「去年は、舞台なんて必要じゃなかったが、今年はずいぶん張り切ってしまったよ」

「すみません……俺の思いつきで、クレマンスさんたちに大変な――」

「いや、そんなことはないさ。むしろ、楽しんでやらせてもらっているよ。俺だけじゃなく、他のみんなもね」


 言い出した立場として、このクレマンスさんの笑顔はありがたかった。


 すると、


「はい、二人に」


 クレマンスさんの奥さん――ハミーヌさんがやってくる。


 手にしていたのは、木製のトレイ。

 その上には、紅茶の入ったカップと、塩もみされた野草の付け合わせが乗っていた。


「おお、ありがとう」


 塩漬けをつまんだクレマンスさん。

 そのまま、紅茶も一気に飲み干した。


「いただきます」


 俺も、紅茶を一口。

 ほどよく冷めていて、日差しのあるこの時間にはぴったりだった。


「はい、フィンネちゃんも」


 使い魔をこき使うだけの彼女にも、ハミーヌさんは差し入れをする。


「そうね。のども渇いてきたし、いただくわ」

「お前、指示しているだけだもんな。まぁ、のども渇くよ」

「そうよ、それが私の大事な仕事だからね」


 ほこらしげなフィンネ。

 まるで自分が準備のかなめかのように、彼女はぐいっと紅茶を流し込んでいた。


「……ぷっはぁーっ」

「あらフィンネちゃん、うちの人に負けないくらいの飲みっぷりね♪」


 そこだけは一人前の彼女を、ハミーヌさんがたたえると、


「あ、そういえば……ねぇ、カッタ」


 何かを思い出したように、フィンネが言う。


「あの話、まだしてなかったわよね? ほら、この前、コーソ村に行ったときに聞いた、例の思い出の話」

「あっ、そうだ、そうだったな」


 すっかり忘れていたけど、指摘されて気づく。

 カデフさんが小さかった頃の話、あれって絶対――。


「あの、クレマンスさん」

「ん、どうしたんだい?」


 奥さんもいるし、ちょうどいい。

 再び塩漬けをつまんでいた彼に、俺は話を切り出した。


「実は先日、キルムーリの村を訪れる機会があって、その時に歓迎かんげいしてくれた方が――」


 俺はクレマンスさんに、カデフさんとのエピソードを伝えた。


 コーソ村の村長である彼は、妻である女性と二人、人間や他の種族に対して非常に友好的であること。


 それは、子供の頃に出会った同世代の人間の男の子と遊んだ楽しい経験から来ている――そう教えてくれたこと。


 彼は自分の子供たちに、人間や他の種族との関わりを通じて、多くのことを学んで欲しいと願っていること。


 偶然にも俺は、彼の息子であるキルムーリの少年と友だちになったこと。


 その少年キルムーリを、今度の祭りに招待していること――。


 俺は一つ一つ、クレマンスさんとハミーヌさんに伝えた。


「コーソ村の村長夫妻は、大人になり、家庭を持った今も、あの日のことは鮮明に覚えていると、そう俺に語ってくれましたよ」

「……そうか、そんなことが」


 静かに聞いてくれていたクレマンスさんが、そっとつぶやく。


 カデフさん夫妻の過去を知った時、クレマンスさんの思い出話と似ているなと、俺はそれとなく感じていた。


 でも、これではっきりした。

 クレマンスさんの表情を見れば、きっと誰にだってわかるさ。


「あの二人は、あの日のことを、そんなふうに思ってくれていたのか」


 遠い目をしていた。

 けれどクレマンスさんの瞳は、とても輝いていた。


「……何だか、私までうれしくなっちゃうわ」


 胸に手を当てて、どこか想いを噛みしめるようなハミーヌさん。

 彼女は当事者ではないけれど、それでも温かい何かを、確かに受け取っているみたいだった。


「来るんだよな、その彼らの息子が、今度の緑草祭に」

「はい。彼は、この村にとても興味があるみたいで、本当に楽しみにしていましたよ」

「……そうか、うん」


 俺がウダロのことを話すと、クレマンスさんは大きくうなずいた。


「会ってみたいわね、その子と」

「ああ、そうだな」


 ハミーヌさんの言葉に、クレマンスさんが続いた。


「そしていつか、コーソ村の村長夫妻にも会ってみたいよ」

「ええ、そうね」


 願うようなクレマンスさんに、今度はハミーヌさんがうなずいていた。


 きっかけは、実に小さなこと。

 それが偶然にも結ばれて、この今とつながっている。


「じゃあ、また作業に戻るか」


 気合いを入れるように、クレマンスさんが木槌をかつぐ。


「カッタくん。教えてくれて、どうもありがとう」


 感謝の言葉を残して、クレマンスさんはまた、男性チームの輪の中に入っていった。


「ふふっ。やる気がみなぎっちゃったみたいね、あの人」


 まったく子供なんだから――と、ハミーヌさんが笑った。


「会いたいなら、会いに行けばいいじゃない――なんて、簡単には言えないわよね、あそこじゃ」


 クレマンスさんの気持ちを受けてだろう。

 フィンネがつぶやく。


 コーソ村は、ここから遠くない集落だけど、おいそれと訪れることはできない。

 カデフさん一家はとにかくとしても、他のキルムーリたちは、決していい顔をしないだろう。

 俺たちが農具片手に取り囲まれたのは、つい昨日のことなんだから。


「まぁ、そうだよな」


 それとなく返した俺に、


「でも、いつかは、きっと会えるわよ」


 クレマンスさんの背中をながめながら、フィンネが言う。


「あの日、森の中で偶然に出会った人間とキルムーリ――その三人がみんな、今も大切な思い出として、忘れずに生きているんだから」

「お、おお……いいこと言うじゃん、フィンネ」

「何よ、カッタ。私は、いいことしか言わないのよ」

「はいはい、おみそれしました」


 さて、俺も手伝うかな。

 何だか調子に乗っちゃったフィンネに、サボりだとか、妙ないちゃもんつけられたくないし。


 そこで、俺を呼びかける声。


「カッタ」


 小走りで現れたのはリリウだった。


「どうした? 料理の方で、俺の手が必要になったとか?」

「あ、そうじゃなくて――今、森に続く出入り口付近に、誰かが訪ねてきているって。だからカッタに伝えるように頼まれたんだけどね。何か、人間の男性らしいよ」


 ナコタ村に、外から人が? 


 誰だろう、旅人か?


「ここの代表者と話がしたいとか言っているみたいなんだけど、アミカの父親が留守ってことは、たぶんあんたが、ナコタの代表者ってことになるんでしょ?」

「そうだな、そうなるよな……わかった、その人間のところに連れていってくれ」


 話がしたいってことは、とりあえず、この前のチノセパリックみたいなやつじゃなさそうだ。

 一応安心。


 俺はリリウと二人、その人間のもとへ急いだ。

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