02/19. その態度だけは本物
ウダロ一家との食後。
『私、お母さんといっしょに、お皿の後片づけをするね』
『まぁ、ありがとう』
ナナンザさんとポポちゃんは、奥の台所へ向かった。
残された俺たちは、また、それとなく会話を始める。
『ところでカッタくんたちは、どうしてオドニオ森林に?』
カデフさんが切り出す。
『先日も今日もということは、何か目的でもあるのかと思ってね。私たちは、いわば森の民だ。力になれることもあるだろう』
「目的というか、そんな大げさなものじゃないんですけど――」
俺は、近々ナコタ村で緑草祭が開催されることを伝えた。
そこで使われる食材として、森の野草の採取をしていたことも。
『おお、そうだったのか。ナコタ村では、そのような祭りがね』
近隣集落の村長として関心があるのか、カデフさんは大きくうなずいていた。
「当日は村の子供たちが、この国の歴史を題材にした演劇を行う予定もあるんです」
がんばって練習していますよ――と、俺は付け加えた。
『へぇーっ、おもしろそうだね』
そこにウダロが興味を示す。
当然コーソ村にも祭事はあるはずだが、他の種族との交流に積極的な彼のことだ。
別の集落の催しにも、心惹かれるものがあるんだろう。
「じゃあ、来てみれば?」
リリウが、ごく自然に言った。
「そうね。もともとウダロはナコタ村の人間と接してみたいと思っていたわけだし、これを機会に村を見てみればいいじゃない」
フィンネも、それに賛同する。
確かに、いいきっかけかもしれない。
コーソ村としての事情はあるだろうが、少なくともナコタのみんなは、俺たちによくしてくれたキルムーリのウダロを、心から歓迎するだろう。
しかし、
「ね、カッタ?」
「……あ、ああ、うん」
尋ねてきたリリウに、俺はあいまいな返答しかできない。
当然ながら、ウダロに来てほしくないなんてことはない。
今日のお礼も兼ねて、できる限りのもてなしをしたいと思う。
だけど――。
ちらりと俺は、カデフさんを見やる。
どことなく彼は、その表情を険しくしていた。
『行きたい。僕、すごく行ってみたいよ』
一方、ウダロの顔は輝いていた。
きっと彼は、ナコタ村に対する好奇心でいっぱいになっているんだ。
『父さん、行ってもいいよね?』
「…………」
ウダロに聞かれたカデフさんだけど、黙ったままで答えあぐねている。
俺にはその心中が、何となくつかめていた。
言うまでもなくその原因は、コーソ村周辺における最近の異変だろう。
謎の旅人、ムーボ、トスロたち――現にウダロは二回も襲撃を受けているし、彼らの狙いはこの集落にあるようだ。
親としても村長としても、今の状況で息子をナコタ村へ送り出すことに、強い抵抗を覚えるのも仕方がない。
俺だって、二つ返事で招き入れたいが、やっぱり危険がないなんて言えない。
おそらく俺もカデフさんも、思うところは同じだろうな。
『……私は、コーソ村の村長なんだ。今後、カッタくんたちがこの村をいつ訪れても、私は大いに歓迎する。だが、私がナコタ村に足を運ぶことはできない。私は何も、代々の伝統を壊したいわけじゃないんだ。わかるね、ウダロ?』
だから、私はついていけない。
もしもナコタへ向かうなら、お前は一人で森を抜けなければならないんだよ――言外にカデフさんは、そう伝えていた。
『わかってる。注意するよ、もちろん』
すべてを理解した上で、ウダロは答えているようだ。
襲撃を二回も受けているというのに、彼の好奇心は萎えていないらしい。
『…………』
また沈黙するカデフさん。
不意に背後を振り返り、またこちらに顔を戻した。
『……約束してくれ、必ず無事に帰ってくると。それと、ポポには秘密だ。あの子を行かせることは、どうしても認められないからね』
それは条件付きながら、確かな許可だった。
ウダロの表情が明るくなる。
『うん。ありがとう、父さん』
どうやら、父と息子の話し合いはまとまったらしい。
心配ないとは言えないけど、彼らがそう決めたのなら、俺に拒む理由なんてない。
『僕、ナコタ村に行けるよ――いいよね、カッタくん?』
「当たり前だろ。村のみんなで、ウダロのことを待ってるよ」
今度の緑草祭には、コーソ村のキルムーリが来る。
近くにいるのに、ちょっと遠かった集落で育った、純朴な一人の少年が。
「いい村だよ、ナコタ村は」
リリウが続く。
村人が魔族にも優しいことを、彼女は誰よりもわかっているんだ。
「せっかく来るのなら、手みやげの一つくらい欲しいところね」
おいおいフィンネ、ずいぶん図々しいことを。
「さっきの、すごく甘い特製ジュースがいいわ。私、野草料理だけじゃ嫌だもの」
『かなり気に入ったみたいだね、フィンネちゃん』
ウダロは困りもせず、笑って受け止めてくれた。
『いいよ、わかった。さすがにたくさんは無理だけど……そうだな、数本のビンに詰めて、ナコタ村まで持っていくよ』
「よろしく頼むわね、ウダロ」
当日は俺たちがもてなさなくちゃいけないはずなのに、フィンネはどこか上から目線だ。
「まったく……態度だけは、本当に女王さまみたい」
「だな」
俺とリリウは、二人で笑った。




