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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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02/18. キルムーリの食事

 それから、どれくらいの時間が経っただろう。


 ウダロとポポちゃんと話しながら、ゆっくり過ごしていると、


『さぁ、できたわよ』

『私たちも、皆さんと食事をすることにしよう』


 ナナンザさんとカデフさんが、できたての料理を運んできてくれた。


 大皿に乗っていたのは、木の実と野草のいため物。

 もう一枚には、野菜や果物がたくさん並べられている。

 平たいかごには、数種類のパン。

 縦長の陶器とうきからは、フレッシュな甘い香りが漂っていた。


「あら、意外と普通なのね」


 そのメニューを確認したフィンネの、何ともストレートな感想。


 ゲストとしては、ちょっと失礼な物言いだけど、俺も正直、彼女と似たような印象を受けた。


 キルムーリは『食事を口にしない』種族。

 なのに俺の目の前に置かれたものは、ナコタ村で食べられているものと、さほど変わらない『食べ物』だったから。


『ははっ、もしかして心配していたのかい?』


 カデフさんが笑う。


『これは君たちをもてなすための料理だから、もちろん普段の献立こんだてとは違うけど、キルムーリが「ぐもの」は、他の種族が食べるものと大きくは変わらないんだよ』

『香り、匂い――それだけで満足できるかどうか、その違いだけじゃないかしらね、きっと』


 俺たちに食器を配りながら、ナナンザさんが続いた。


 その流れで、ウダロが俺たちに何かをついでくれる。

 陶器の中に入っていた、甘い香りの液体だ。

 あざやかな琥珀色こはくいろで、ややとろみがあった。


『どうぞ、我が家の特製ジュースだよ』


 甘い匂いが、一段と強くなった。

 村のかたからたまにいただくれた果物より、何倍も深い香りがする。


「うわっ、これ、すごい」

「砂糖いっぱいのお菓子にも負けないくらい、まろやかな香りだわ」


 同じくリリウとフィンネも、ここまでのものに出会った経験はないみたいだ。


『季節のフルーツをしぼって、花の蜜と森のハーブで調ととのえたものなんだ』


 早く飲んでみて――そう急かすようなウダロにこたえ、俺たちは、彼ら一家の特製ジュースをいただく。


「……うおっ」

「うん、今までに感じたことのない甘み」

「お、おいしいじゃないの、これ!?」


 とにかく、ひたすらに濃厚のうこう

 ジュースと言うより、もはやスープ――いや、シチューのような感覚すら覚える。


 俺たちは、その未体験の味に、それぞれ衝撃を受けていた。


『本当かい? それはよかったよ――ねぇ、母さん』

『ええ、安心したわ。さぁさぁ、たくさん飲んでね』


 ウダロの呼びかけに、ナナンザさんはうれしそうに答えていた。


『それじゃあ、私たちもいただくとしよう』


 カデフさんが号令をかけると、ナナンザさんが家族それぞれに、俺たちと同じジュースをそそぐ。


 するとウダロたち四人が、自分のコップを『口もと』の辺りに近づけた。


「「「…………」」」


 俺たち三人は、自然とそこに注目してしまう。


 たとえば人間やダークエルフなら、そのままごくりと飲み込むわけだけど、


『おお、今回もいい香りだな』

『花の蜜を少し多めにしたのよ』

『僕は、もうちょっとすっきりとした方が好みだけど』

『私は好きだよ、この甘い香り』


 彼らはただ、その匂いを上品に嗅ぐだけだった。


 なるほど。

 これが、キルムーリたちの食事か。

 ああやって香りを嗅ぐことは、俺たちが口からものを食べたり飲んだりする行為と同じなんだ。


 納得しつつも、どこか不思議な気分になっていた俺に、ウダロが言う。


『ここにある食事や飲み物は、たぶんカッタくんたちからすると、かなり匂いが強いものになると思うんだ』


 確かにそうだ。

 この特製ジュースだけでなく、大皿の炒め物も、並べられた野菜と果物も、一般的に穏やかな香りのパンでさえ、俺たちが普段食べているそれよりも、かなり強く鼻に届く。


『キルムーリは香りを「食べる」種族だからね。ハーブとかスパイスとか、どうしてもそういうものを利用する料理が好きなんだよ』


 人間に置き換えるなら、味の濃いメニューってことになるのかな?

 だとすれば、何となく理解できる。


『料理も食べてくれよ、カッタくん。温かいうちがおいしいんだろう? 香りも強いからね』

「あ、はい、いただきます」


 カデフさんにすすめられ、炒め物やパンを食べた俺。

 食材はもちろん、ナコタ村とはその調味料も違うメニューだからか、ちょっと珍しい味がした。

 でも、これはこれで、なかなかおいしいぞ。


 リリウとフィンネも、それぞれ料理に手を伸ばし、満足そうに食べていた。


 種族の異なる七人の食卓。


 不思議と言えば不思議だけど、楽しく会話も弾み、和やかな時間になっていた。


 ただ一点、どうしても俺たちは、この親切なキルムーリの家族に、申し訳ない気持ちを感じざるを得ない。


 なぜなら、


『これも、すごくいい香りだ。ついつい嗅ぎすぎてしまうよ』

『たくさん嗅いでくれるのはいいけど、ほどほどにしてよね。あとで苦しくなっても知らないわよ』

『それだけ、母さんは料理が上手いってことだよ――ね、ポポ?』

『そうだよ、お母さん。お母さんの料理は、王国で一番だよ』

『もう、ポポったら♪』


 料理を『食べて』いるのは、俺たち三人だけだから。


「…………」


 あとで苦しくなってしまうくらいの勢いで食事をしているみたいなんだけど、お皿やかごの中身を実際に減らしているのは、彼ら家族ではなく、当然俺たちなわけで。


「……すごくおいしいのに、おかわりを躊躇ちゅうちょしてしまうのはなぜかしらね?」


 さすがのフィンネも、どこか居心地が悪そうだった。


『あら、遠慮なんてしなくてもいいのよ。さぁ、食べて食べて』


 俺たちの内心なんて、おそらくつゆ知らず。

 ナナンザさんは、優しく食をうながしてくれた。


「まぁ、いいんじゃない」


 リリウが微笑む。

 その視線は、本当に楽しそうな四人の家族に向けられていた。


「この時間はさ、他の種族との関わりを避けてきたキルムーリたちが、温かく私たちを受け入れてくれたことの証なんだから」

「……うん、そうだな」


 それで十分だと思った。

 俺と、リリウと、フィンネが、彼らと同じ食卓を囲んでいること、それだけで――。


「よぉーし、どんどん食べるぞっ」


 だから俺も、苦しくなるくらいにいただこうと思う。

 それはもう、カデフさんに負けないくらいにね。


『あらカッタくん、やっぱり男の子ね♪』


 大きくパンをかじった俺。


 ナナンザさんは、満足そうに笑っていた。

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