02/16. 言葉を届ける風(4)
『……うーん、何かずるいな』
両親の思い出話を聞いたポポちゃんが、不満そうに『口』を開く。
『お父さんとお母さんも、森で人間と遊んでたのに、私とお兄ちゃんは、この前、お母さんに怒られちゃったよ』
『もう、ポポったら……それは、小さなポポが一人で森に出ちゃったからよ。カッタくんたちと会ったことを叱ったわけじゃないの』
『そうだぞ、ポポ。カッタくんたちが助けてくれたからよかったものの、もしもそうでなかったら、ポポはケガをしていたかもしれないんだ。お母さんは、そのことをわかってほしくて、ポポやお兄ちゃんを叱ったんだよ』
『……そうなの? なら、そうなのかな』
幼い彼女はまだ、親の厳しさを愛情だとは認識できないみたい。
けれど、大切なことは、きっと心に響いているだろう。
『ナコタ村の人間や、リリウちゃんたちのようなダークエルフは素晴らしい方々だけど、世の中には、とても危険な人間や魔族だっているんだからね』
父親としての態度で、カデフさんが伝える。
『種族なんて関係なく、誰かと仲良くなろうとする気持ちを持つことは、別に悪いことじゃない。むしろ私やお母さんは、ポポにそういう大人になってもらいたいんだ。でもね、この国には、とても恐ろしい人間や魔族がいることも、また事実なんだ。今は難しいかもしれないけど、いつかポポには、そういうことを自分で判断できる素敵な女性になってもらいたいな』
カデフさんの目が、ウダロに向かう。
『一触即発しそうな状況でもひるまず、お父さんをはじめ、村の大人たちを自分の力で説得し、こうやって、カッタくんたちを私と出会わせてくれた君のお兄ちゃんのようにね』
『……父さん』
父親と息子。
男同士の会話は、それだけで十分みたいだ。
そうか。
やっぱりあの時、ウダロが俺たちのために、他のキルムーリに事情を訴えてくれたんだな。
それが、村長であるカデフさんを動かし、この集落の住民へと――。
『いずれにしても、ポポが一人で森に行くのは危険なの。もうそういうことはしないって、ちゃんと約束してね。わかった?』
『はーい』
ナナンザさんの忠告に、ポポちゃんが手を上げた。
『そうだ、偉いぞ、ポポ』
カデフさんが、ポポちゃんの頭をなでた。
『どういうわけか最近は、コーソ村の周辺が騒がしい。先日はウダロとポポが、今日はウダロ一人が、謎の魔族に襲われているんだ。カッタくんたちと出会えたのは、あくまで偶然。いつも助けてもらえるとは限らないんだからね』
俺は、カデフさんの何気ない言葉に引っかかりを覚えた。
ナコタ村の牧師として、ここは確認しておきたい。
「あの……この村の周辺が騒がしいとは、具体的にどういうことですか?」
『ああ、うん。近隣集落の牧師である君には、伝えておいた方がいいかもしれないな』
父親の顔だったカデフさんが、村長のそれになる。
『少し前の話になるんだが、この村のキルムーリが、森で人間と遭遇してね』
「人間……ナコタ村の人ですか?」
『いや、どうも君の村の方ではないらしい。不意に声をかけられて「あなたの住むコーソ村まで案内してくれないか?」と言われたそうだ。ナコタの人間なら、そんなことを口にしないだろう? こちらの事情も、それとなく理解しているわけだし』
「そうですね」
『もちろん、他の種族に不慣れな村の者は、すぐさま逃げ出して、それっきりなんだが』
「どんな人間だったんですか? 性別とか年齢とか、服装から読みとれる身分や職業とか」
『旅人風の中年男性だったと聞いている。まぁ、その人間に驚いて逃げ出した者の話だから、どこまで正確かは保証しかねるけどね』
ナコタ村の人間ではない謎の人物が、オドニオ森林で、キルムーリたちの村を探している――外部との接触を避けている集落に、その彼は、いったい何の目的を持って訪れようとしているのだろう。
するとリリウが、
「旅人……」
何かを思い出したようにつぶやいていた。
『細かいことはわからないが、別にその人間が、我が村や村民に危害を加えてきたわけじゃない。先ほども話したように、ナコタ村の方とは、少なからず鉢合わせになることだってある。この村の仲間たちは、他の種族との接触を、どうしても大げさにとらえてしまうからね。私は、ないこともない些細な出来事の一つとして聞き流していたんだ』
しかし――と、カデフさんが続ける。
『先日、この村に興味を示していたという奇妙な魔族の話を、ウダロから聞いてね。カッタくんたちに、私の子供二人を助けてもらった日の話だよ』
チョンチョンのムーボか。
あいつは確かに、この集落を見つけ出そうとしていた。
『いや、ちょっと強引に、そこでうずくまっている彼に頼んでみただけなんですよ――私を、あなたたちの集落へ案内してくれとね』
そのために、ウダロとポポちゃんを襲ったんだ。
『旅人らしき人間と同じように、その魔族もコーソ村に来たがっていたようだ。加えて、ウダロたちに攻撃を仕掛けてきたと聞いて……君たちのおかげで事なきを得たとはいえ、さすがに穏やかじゃないなと』
たとえば道に迷った旅人が、偶然通りかかった地元の者に、近くの集落までのルートを尋ねること自体は、十分に自然なことだ。
尋ねた相手がコーソ村のキルムーリじゃなければ、親切に対応してもらえたかもしれない。
だが、その取るに足らない出来事も、害意を持って彼らの集落の場所を聞き出そうとする魔族が現れたことを考慮すれば、一気に不気味な前触れに変わる。
『しかもウダロは、君たちと共に、今日も襲われたと言うじゃないか』
「……ええ」
『こうなってくると、親としても村長としても、不安を抱かずにはいられない』
カデフさんの意見はもっともだ。
ナコタ村とは無関係の人間、チョンチョンのムーボ、トスロの集団――どういうわけか彼らは、この村に強い関心を示している。
ムーボとトスロたちがつながっていることは間違いないが、謎の旅人も、彼らの仲間なのだろうか。




