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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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02/15. 言葉を届ける風(3)

『気になるかい、カッタくん?』


 いぶかしい視線を向けてしまっていたのか、カデフさんが聞いてきた。


「……ウダロが教えてくれました――彼が他の種族、特にナコタ村の人間に興味を持ったのは、父親であるあなたの影響だと。コーソ村の大半の方が、少なくとも俺たちを歓迎はしていない中で、皆さんは積極的に俺たちを迎え入れてくれています。正直、とても不思議なんです」


 ごまかす必要はない。

 知りたいことは尋ねてみよう。


「どうしてカデフさんは、この村で暮らしながら、他のキルムーリの方とは違う感覚を持っているんですか?」


 その問いに対するカデフさんの答えは、実にシンプルだった。


『知っているんだよ、私と妻は――ナコタ村の人間が、私たちキルムーリを害するような種族ではないことをね』

「……知っている、とは?」


 もちろん俺は、ナコタのみんなが悪い人間じゃないことを理解している。

 けれどカデフさんが言っているのは、そう単純な意味ではないような気がした。

 うわさや雰囲気からの判断じゃなくて、彼なりの強い実感がこもっているというか。


『私と妻は、以前にも人間と出会っている――今のカッタくんたちの年齢より、少し幼いくらいにね』

「ええ、そうみたいですね」

『いくらコーソ村のキルムーリが他の種族を避けているとしても、近隣のナコタ村には、当然のように君たち人間がいる。何らかの理由で、オドニオ森林に入ることだってあるだろう。そうなれば、二つの村の住民が、不意に出会うことだってないわけじゃない。だから我が村の仲間たちも、森で人間を見たり、あるいは鉢合はちあわせすることくらいは経験しているはずさ』


 だろうな。

 ナコタ村とコーソ村は、断崖絶壁だんがいぜっぺきはばまれているわけでも、急流大河きゅうりゅうたいがへだてられているわけでもない。

 そもそも、お互いの集落が存在していることを前提に、長い年月、適度な距離感を保ってきたんだ。

 行き来できる場所に、自らとは違う種族が暮らしていると、両者共に知っている――これは、何らかの接触があったから成立する話なんだ。


『でも、私と妻は、そういうレベルじゃない』

『たった一日の出来事だったけど――ううん、だからこそ、強烈な思い出として私たちの中に刻み込まれているのよ』


 カデフさんに続いて、ナナンザさんが答えてくれた。


『少年時代の彼は、私を連れて森に行っていた――それは伝えたわよね?』


 俺は、小さくうなずいた。

 家の仕事から逃げ出したかったからという理由は、もう指摘しない方がよさそうだ。


『あれは、そんないつもと変わらない午後の日。彼と二人で遊んでいたら、いきなりひょっこりと、人間の男の子と顔を合わせちゃったの』

『あまりのことに、私も妻も、その相手さえ、初めは石のように固まってしまったんだ』


 うれしそうに語るナナンザさんとカデフさん。


『私が、遊びで操っていた風の魔力ウインゾの風が、彼を導いてしまったみたいなんだよ』

『そうそう。あの男の子、あなたに言ってくれたものね――「すごいね、その魔法」って』


 ん?


 この話、どこかで――。


『私も妻も、その頃は魔法のこだま風ウインゾエコーを学んでいなかった。こういう集落だし、そもそも他種族との交流を目的とした呪文なんて、当時の大人たちは教えてくれなかったからね』

『だから、私たちの「声」を、その男の子に伝えることはできなかったの。けれど彼が、私たちと遊びたいという想いを言葉にしてくれて』


『親たちには「森に人間がいたら、それはナコタ村の住民だ。深く関わらず、すぐ逃げ出すように」と言われていたんだが、その男の子が私に向けていた視線が、もうまぶしいくらいにキラキラしていてね。私も、この子と遊びたいなと、心から思えたんだ』

『危ない、怖い、他の種族と関わることは悪いこと――その教えが、決して正しくはないんだと、その男の子との出会いで学べたのよ、私たち』


『あの日は、日暮れまで三人で遊んだんだ。私が風の魔力ウインゾで落ち葉を操り、男の子が石で撃ち落とすんだよ。上手かったなぁ、彼』

『枝で剣士ごっこしてたわ。私は女の子だから、見ているだけだったけど』


『実際は、君が一番強かっただろうけどね、あの頃から』

『まぁ、ひどい』


『あはは――君は彼に、草のかんむりを作ってあげてたじゃないか。私にはなかったけどね』

『そうよ。あの日は、あの男の子の方が立派な「剣士」だったんだもの――ふふっ』


 思い出を語り合うカデフ夫妻。


 そこで、


「……あれ?」

「不思議と、どこかで聞いたことのある展開ね」


 リリウとフィンネも、何やら首をかしげ始めた。


 彼女たちの視線が、俺に向かう。


「ねぇ、カッタ」

「これってさ、あれよね?」

「……だな」


 どうやら、そういうことらしい。


『少年少女だった私たちにとって、彼と過ごした森での一日は、ものすごく大きなものだったんだ』

『こういう村で育ってきた私たちだからこそ、その影響が強かったんだと思うの』


『もちろん、伝統は伝統。しかも、一応私は村長だ。受け継がれてきたしきたりを無理やり壊すつもりなんてないし、他のみんなに強制だってしたくない』

『でも、私たち夫婦は、他のキルムーリたちが触れることすら避けているナコタ村の人間が、決して悪い人じゃないってことを、自分の経験として持っているのよ。だから私たちは、カッタくん、リリウちゃん、フィンネちゃんと、こうやって楽しくお話しできるし、本当にお話ししたいのよ』


 若い頃の何気ない出会いが、夫妻の考え方を広げる機会となり、その二人の間に生まれたウダロが、時を経て、ナコタ村の牧師である俺と――。


 だから彼らは、この一家は、保守的なコーソ村のキルムーリでありながら、俺たちに対して寛容かんようで優しいんだ。

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