02/14. 言葉を届ける風(2)
「じゃあ、この流れで聞きたいんだけど」
のどかな時間の中、フィンネが、ここぞとばかりに尋ねる。
「私たちは、どうして急にあなたたちの『言葉』がわかるようになったのかしら? 実は、ずっと気になっていたのよね」
確かに。
問題なくスムーズに会話ができているから忘れていたけれど、そもそもキルムーリの『声』は、ただ『ん』や『んー』としか聞こえていなかった。
それなのに、ある時から俺たちは、彼らが何を言っているのか理解できるようになったんだ。
『あ、それはね、僕が魔法を使ったからだよ』
ウダロが言う。
『「魔法のこだま風」っていう呪文の効果によって、僕はカッタくんたちに言葉を伝えているんだ』
キルムーリは風の魔力の魔法が得意だと、クレマンスさんが教えてくれたっけ。
『言葉は音で、音は空気の揺らぎ――つまり風。自分の言葉を風の魔力の風に乗せることで、僕たちは他種族と会話することができるんだ。もちろん、攻撃魔法としての強烈な風じゃなくて、ごくわずかな、気づくか気づかないかくらいの優しい風でね』
なるほど。
さっきの混乱が落ち着いた後、俺が感じたものは、その風だったんだ。
要するに魔法のこだま風とは、風の魔力でもっとも一般的な攻撃呪文――魔法の風圧、その威力を最小限度まで下げたようなもの。
そして、キルムーリの『声』を、俺たちにも理解できる『言葉』に変換して届けてくれる、微妙な空気の揺らぎでもあるってことだ。
現状、ウダロだけじゃなく、彼の家族全員とも会話が成立しているということは、たぶん他の三人も、それぞれに魔法のこだま風を使用しているんだろうな。
まぁポポちゃんに関しては、夫妻のどちらかが助力しているんだとは思うけど。
「風の魔力に、そんな使い方があったんて、あたし知らなかったよ」
魔法が得意なリリウも、おそらくキルムーリに特有だろう呪文に驚いていた。
「すごいじゃない。上手く調整できないと、思うような風にならないはずだし……うーん、キルムーリって器用なのね」
同じくフィンネも舌を巻いていた。
『攻撃魔法に自信はないけど、風の魔力の風を操るのは、けっこう得意なんだ。昔、父さんに教えてもらったからね』
ウダロが、敬意を示すような瞳でカデフさんを見る。
『父さんは、村で一番、風の魔力の風をコントロールするのが上手いんだ』
『おいおい、ウダロ。牧師であるカッタくんと、強い魔力を持つダークエルフの二人を前に、そんなことを言わないでくれよ』
困ったように笑うカデフさん。
『子供の頃、風の魔力を使って遊んでいたから、それなりに操れているだけだよ』
『あなた、与えられた家の仕事から逃げるために、よく私を森に連れ出していたものね。そこでもっぱら、風の魔力の練習――ふふっ』
『な、ナナンザ……子供たちの前で、そんな昔のことを持ち出さないでくれよ』
父親としては、あまり知られたくない話だったんだろう。
カデフさんは慌てていた。
『あら、ごめんなさい、ふふふっ』
『ダメだよ、お父さん。家の仕事をさぼったりしたら――ねぇ、お兄ちゃん、ダメだよね?』
『あはは、そうだね。ポポの言うとおりだ』
『……いやはや、面目ない』
うなだれる大黒柱と、微笑み合う妻と子供たち。
うん、素敵な家族だな。
「あの」
そこでリリウが、カデフ夫妻に尋ねる。
「今の話からすると、二人は、小さな頃から知り合いだったの?」
『ええ、そうよ』
ナナンザさんが答える。
『私と彼は、同じ歳の幼なじみ。この村で、ずっといっしょに育ってきたの』
「そうなんだ……素敵だね、そういうの」
幼い頃に出会い、結ばれ、家族になる――彼ら二人の歴史に想いを馳せたのか、リリウがしみじみとつぶやいていた。
『私の思い出は彼の思い出、彼の思い出は私の思い出――外の世界は知らないけれど、それでも、いろいろなことを二人で経験してきたのよね』
『そうだな』
カデフさんのその一言の中には、きっとたくさんの出来事が詰まっているんだろう。
『それこそ、私たちが初めて人間の方と出会ったのも、二人でいるときだった』
『ええ、そうよ。今でも、あの日をはっきりと覚えているわ』
「あら、二人はもう、人間と出会っていたのね。まぁ、私たちを迎え入れてくれる度胸がある以上、他のキルムーリとは違うと思ってはいたけど」
カデフ夫妻の言葉に、フィンネが反応。
「うん。人間に好意的なウダロでさえ、最初は逃げ出しちゃったくらいだもの。それを考えれば、明らかに二人は、他のキルムーリと違うよね」
リリウも、フィンネに同意した。
そしてこの点は、さっきから俺も疑問だったところで――。




