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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
79/114

02/13. 言葉を届ける風(1)

『私は「ポポ」。人間のお兄ちゃんたちには、もう前に会ってるよね』

『母親の「ナナンザ」です。子供たちが、たいへんお世話になりました』


 ウダロの部屋から離れて、おそらくここは、彼ら家族の食卓の間。


 ウダロの妹――ポポちゃんと、母親のナナンザさんが、あらためてあいさつをしてくれた。


「俺はナコタ村の牧師、カッタ。彼女たちは、ダークエルフのリリウとフィンネです」


 代表して俺が伝えると、二人は小さく頭を下げていた。


『ほら、ポポもちゃんとお礼を言わなきゃ』


 ナナンザさんに応えて、ポポちゃんが伝えてくれる。


『うん――カッタお兄ちゃん、リリウお姉ちゃん、この前は、どうもありがとう』


 ポポちゃんは、最初にムーボと遭遇した時、ウダロといっしょだった女の子。

 そしてさっき、興奮気味だった村のキルムーリたちを横目に、進んで俺たちに『言葉』を届けてくれた幼い少女だ。


『えーっとぉ、フィンネお姉ちゃんには……助けてもらってないから、お礼はまた今度ね』

「……そ、そうね」


 あの日、ポポちゃんとフィンネは顔を合わせていない。

 だからこれは、とても真っ当な対応。

 その純粋すぎる言動には、未来の女王(自称)も、素直にうなずくしかない感じ。


『こ、こら、ポポったら……もう』

『『「「あははははっ」」』』


 困ったようなナナンザさんと、吹き出してしまった俺たち。

 一瞬にして、話しやすい雰囲気になる。


『見ての通り、妹は度胸があるんだよ』


 ウダロが言う。


『一人で村から出ちゃうし、さっきだって、周りの大人たちなんかお構いなしに、君たちに「声」をかけちゃうくらいだから』

「確か、あの日も、最初に近づいてきてくれたのはポポちゃんだったよね?」


 俺は、彼女に問いかける。


 ムーボを追い払った後、ウダロは俺たちと関わることに躊躇ちゅうちょしているようだった。

 もちろん、彼の本音は先ほど聞いたけれど、それでも、村のしきたりみたいなものが、その好奇心を押しとどめていたんだろう。


 けれど幼いポポちゃんは、迷うことなく『ありがとう』の態度を示してくれた。

 そしてそれが、ウダロの足を重くしていたものを取り除いた。

 その結果が、彼ら家族と過ごしているこの時間なんだ。


『うん。私、ウダロお兄ちゃんから「人間は、いい種族だよ」って聞いてたから。カッタお兄ちゃんは、私とお兄ちゃんを、悪い魔族から守ってくれたよね。だから本当だなって、そう思ったの』


 つたないながらも、決して嘘のない言葉。


『大人たちは何も知らないから、さっきみたいに怖がっちゃうんだよ。だから私があいさつをして、みんなに教えてあげたかったの――「カッタお兄ちゃんたちは、全然悪い種族じゃないんだよ」って』


 そうか。


 だからポポちゃんは、あの緊張感の中、一人で俺に――。


『偉いね、ポポは』


 穏やかな表情で、ウダロがつぶやいていた。


 温かい空気が、この部屋に流れる。


 心地よい、ほっこりとした時間。


 静かに立ち上がったナナンザさんが、奥から何かを持ってきてくれる。


『よかったらどうぞ』


 彼女が出してくれたのは、香りの強い紅茶だった。


「独特だけど……うん、いい香り」

「森の野草を煮出したものかしら?」


 リリウとフィンネが、それぞれに一口。

 どうやら味もよかったみたいで、さらに飲み進めていく。


 よし、俺も――うん、やや濃いけれど、すきっとする感じ。

 悪くない。


「おいしいです、すごく」

『あら、よかったわ』


 俺が伝えると、ナナンザさんはホッとした様子で。


『私たちキルムーリは、皆さんと「違う」から、ちょっと心配だったのよ』


 一瞬、その意味がつかめなかった俺に、


『ほら、私たちには口がないでしょ』


 ナナンザさんは、自らの『口元』を指で示した。


『だから私たちは、皆さんにとっての食べ物を食べない。私たちは、香りを食する種族なのよ』

「……香り、ですか」


 口を持たない魔族、キルムーリ。

 口がない以上、食べ物を食べることはない。


 本人が言うのだからそうなんだろうけど、人間である俺としては、どうもぴんと来ない。


『私たちは普段、その紅茶の茶葉の香りをたしなむことはあるけれど、お湯に煮出して飲む――という行為はしないの』

『口で味を確かめることができないから、その紅茶の出来を、私たちは、漂う香りから判断するしかない。だから妻としては、カッタくんが「おいしい」と言ってくれて安心したのさ』


 ナナンザさんに続いて、カデフさんが教えてくれた。


「「「…………」」」


 俺、リリウ、フィンネは、ただ、お互いを見合わせた。

 たぶん二人も、キルムーリの『食事』というものを、いまいち想像できていないんだろう。


『不思議そうな顔をしているね』

『それも仕方ないわ。私たちだって、他の種族が食べ物を「食べる」ということを、ちゃんと理解できないもの』


 カデフさんとナナンザさんは、俺たちの内心をすべてわかっているようだった。


 そこで俺は、また疑問に思う。

 どうしてこの一家は、こんなにも他種族に寛容かんようなのか。


 ウダロもポポちゃんも、カデフさんもナナンザさんも、この家族は皆、人間――というか、他の種族を恐れていない。


 それは素晴らしいことだし、現在絶賛よそ者状態の俺としては、もちろん非常にありがたい。


 でも今まで、近隣のナコタ村との交流さえも避けてきた集落の彼らが、なぜここまで積極的に俺たちを受け入れてくれるんだろう?

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