02/12. コーソ村の伝統(4)
『父さん』
不意に現れたその彼に、ウダロは明るい表情で呼びかけた。
『さっき顔を合わせてはいるけど、あらためて紹介させてもらうね――こちら、僕の父さん』
『ウダロの父で、名前は「カデフ」と言います』
息子にうながされる形で、自己紹介をしてくれた男性キルムーリ――カデフさん。
「どうも、ナコタ村で牧師をしているカッタです」
「あたしは、ダークエルフのリリウ」
「同じく、フィンネよ」
反射的に、俺たち三人も自己紹介。
『父さんはね、このコーソ村の村長なんだ』
『いやいや、面倒な役回りを押し付けられているだけでね』
誇らしそうに教えてくれたウダロに、謙遜するカデフさん。
そうか。
だから、この村のキルムーリに敵意を向けられていたあの時、カデフさんの一言から、場の空気が変わったのか。
『……んんんん』
『『『『『んんっ!?』』』』』
ナコタ村同様に、比較的若い首長が仕切っているんだな、ここも。
『村長なんて肩書きだけで、単なる木こりのキルムーリだよ、私は』
体格がしっかりしていたから、何か力仕事をされている方かなと想像できたけど、なるほど木こりね。
全体として、ここの村民は、男性であっても細身の印象。
ウダロもそうだ。
けれどカデフさんを見ると、もしかしたらキルムーリは、鍛えれば筋肉が発達しやすい種族なのかもしれない。
今はスリムなウダロも、段々と、この父親みたいになるのだろうか。
『みんなには話したぞ、ウダロ。とりあえずは全員、彼らを無理に追い出すことはしないと約束してくれた』
『本当? よかった、ホッとしたよ』
親子だけで、何やらやり取り。
たぶん、俺たちに関すること、だよな?
『あ、ごめん、説明するね』
俺の様子から察してくれたのか、ウダロが教えてくれる。
『父さんはね、村のみんなを集めて、カッタくんたちが僕や妹を助けてくれた時の話を伝えてくれていたんだよ』
『息子から、君たちのことは聞いていたからね。しかもどうやら、今日も世話になったそうじゃないか。親として、私からもお礼をいわせておくれ――本当に、どうもありがとう』
頭を下げてくれたカデフさんに、俺は恐縮してしまう。
「い、いえ、それは気にしないでください。それに、今日に関していえば、俺たちもウダロに助けられていますから」
あの数のトスロから逃げることができたのは、ウダロがここまで案内してくれたからだ。
俺たちだけじゃ、まだあいつらに囲まれていたかもしれない。
『謙虚だね、カッタくん。息子から聞いていた通りだ』
「そんなことは」
『とにかく、私たち家族は君たちを歓迎する。私にとっては、愛する子供たちを守ってくれた恩人だ。心配しなくていい』
オドニオ森林のキルムーリは、他種族との関わりを拒む魔族。
いきなり訪れてしまったという経緯はあるにせよ、現に俺たちは、農具を持った彼らに襲われそうになった。
だから、その伝統、しきたりは、確かに存在している。
けれど、この村の長であるカデフさんは、人間とダークエルフである俺たちにも、ずいぶんと寛容だ。
本来なら、一番保守的であってもいいくらいなのに。
ウダロは、俺と同じくらいの若い世代。
村の外に興味を抱くのも理解できる。
でもカデフさんは、働き盛りの立派な大人。
この村で長年育ってきたはずの彼が、たとえ、俺が『愛する子供たちを守ってくれた恩人』だとしても、ここまでフランクに接してくれるものなんだろうか?
もちろんありがたいことではあるけど、俺にはちょっと不可解だった。
『ナコタ村の人間であるカッタくんには断る必要もないだろうが、この村のキルムーリは、他の種族に免疫がなくてね』
「ええ、理解しています」
『村長として、先ほどのような事態にはならないと保証する。しかし村の仲間たちは、君や、君の友人と、積極的に関わろうとはしないだろう』
無理もない。
どんな理由があっても、ここで暮らす彼らの大半にとって、俺たちは、不意に現れた招かれざる客なんだから。
『村の仲間が、君たちに失礼な態度を見せてしまうかもしれないが、そこは飲み込んでもらえると助かる』
「わかっています、大丈夫ですよ」
「十分に聞いてた話だしね」
「まぁ、農具片手に襲われないだけマシだわ」
俺たち三人が、それぞれに村の事情を受け入れると、
『では、少しもてなしをさせてくれ。たいしたものは用意できないがね――それに、息子以外の家族も紹介したい』
カデフさんの言葉を合図に、ウダロの妹だろう女の子と、優しそうなキルムーリの女性が、扉から姿を現した。




