02/10. コーソ村の伝統(2)
一呼吸おいたウダロが、ゆっくりと語り出す。
『まずは、数日前の出来事から。僕の妹が、うっかり村の外に出てしまったんだ』
ウダロの妹――あの、小さな女の子のことだな。
『オドニオ森林には、野犬やタキシムが出る。妹のような幼い年齢の女の子が、一人で村の外に出るのは危険なんだ』
これは、ナコタ村においても変わらない。
腕に覚えのない者だと、急な襲撃に対応できず、思わぬケガを負ってしまうから。
『だけどあの日、妹はふらふらと、一人で村の外へ出てしまったんだよ。いっしょに遊んでいた僕が、ちょっと目を離した隙にね』
「だとすると、あの日、君は幼い妹を探していた。そして、その妹を見つけたところを、不幸にもチョンチョンのムーボに襲われた――ってことなのか?」
『うん。それで、たまたまカッタくんたちと出会い、あいつから助けてもらったってわけなんだ』
「それ、私がその場にいなかった時の話でしょ? まったく危ないわね、あなたの妹は」
「ウダロの妹は、まだ小さいのよ。外が危ないとか、ちゃんと判断できなくてもしかたないって」
正論を言うフィンネと、それとなく弁護するリリウ。
確かに、ナコタの子供たちも、危ないことをやりたがるもんな。
『う、うん……』
すると、どこか歯切れの悪いウダロ。
自分が目を離した隙に妹がいなくなってしまったことに、兄として責任を感じているんだろうか。
「まぁ、無事だったんだしさ。これから、しっかり注意すれば平気だよ」
そこまで気にする必要はないさ――俺が伝えると、
『あ、いや……妹が外に興味があるのは、たぶん僕の影響なんだ』
ウダロは、ばつが悪そうに続ける。
『カッタくんが知っているように、この村のキルムーリは、ずっと、他の種族との関わりを避けてきた。それが、僕たちの伝統。細かい理由はいろいろあるけど、つまりは、このコーソ村の平穏を守るためなんだ』
「村の平穏?」
『この国には人間も魔族もいて、今までにもたくさんの争いを経験している。数年前も、ケルギジェっていう魔族が――そうだよね、カッタくん?』
「……ああ」
『僕らの先祖は、この大地が「ガーシュ王国」と呼ばれる以前から、オドニオ森林に住んでいた。きっと彼らも、長い歴史の中で、いくつかの争いに巻き込まれたりしたんだと思う。その経験から悟ったんだ――他種族と関わらないこと、それが、平和に暮らすための正しい選択なんだって』
誰かと関われば、争いに巻き込まれる。
だから、その関わりを持たない。
極端な考え方ではあるけれど、確かに、一理あるのかもしれない。
『僕たちコーソ村のキルムーリは、先祖から与えられた「教え」を守り、今日を迎えている。村のみんなが君たちに敵対心を見せたのは、その表れなんだ』
怯えながらも農具を手に集まってきた、さっきのあれか。
『人間、ダークエルフ――キルムーリではない君たちが突然村に入って来ちゃったわけだから、詳しい理由を聞こうともせず、とにかく追い出さなきゃって……だから、どうか許してほしい』
「じゃあ、私にマサンを引っ込めろって話も、それが理由なの?」
『うん。彼らは礼儀正しい使い魔みたいだけど、六体も召喚されていたからね』
「その気になれば、もっと呼び出せるのよ」
したり顔のフィンネ。
『それはすごい。さすがは、この国の女王を目指すだけのことはあるね』
どうやら、彼女の妙な野望についても、ウダロには伝わっていたらしい。
「あら、理解しているようね。当然よ」
「……あまりおだてなくていいぞ、ウダロ」
未来の女王(自称)が調子に乗りそうだから、一応アドバイスしておく。
『あはは――まぁ、君たちだけなら三人だけど、マサンくんたちを含めると十名近くなる。村のみんなに落ち着いてもらうには、見慣れない相手の数を少なくしないとって思ったんだ』
「なるほどね」
リリウがうなずいた。
小柄な灰色の使い魔が、いきなり自分に襲いかかってくるかも――と、彼らが考えても不思議じゃない。
あれも、騒ぎを鎮めるための手段だったわけだ。




