02/09. コーソ村の伝統(1)
キルムーリたちの集落、コーソ村。
その、やや奥に建てられた平屋の一軒。
整頓された部屋に通された俺たちは、木製のテーブルを囲み、キルムーリの少年と向かい合っていた。
どうやら、ここは彼の自室らしい。
『あらためて、僕の名前は「ウダロ」。よろしくね、カッタくん、リリウちゃん、フィンネちゃん』
キルムーリの少年――ウダロは、一人ひとり確認するように、そう伝えてくれた。
俺は以前に名乗っているし、ここまでの会話で、俺は何度もリリウやフィンネに呼びかけている。
それを聞いていたであろう彼は、もう全員の名前を覚えてくれていた。
『驚かせちゃったよね、いろいろ。あっ、まずは助けてもらったお礼を言うのが先だよね。でも、僕らことを説明しなくちゃいけないし……』
俺たちも混乱しているけど、ウダロはウダロで、頭の整理ができていないみたいだ。
まぁ確かに、ここまで慌ただしかったからな。
『でも、とにかくありがとう。君たちのおかげで、この前も今日も、僕はケガをすることなく村に帰ってこられたんだ。本当に感謝しているよ』
頭を下げてくれたウダロ。
聞きたいことはたくさんある。
この状況を含め、わからないことばかりだ。
しかし、これだけは言える――彼は、ぜったいに悪い魔族じゃない。
誠意ある言葉が、俺にそれを確信させてくれた。
もちろん、十分にわかっていたことだけどさ。
「ふーん、いい心がけね。どうぞどうぞ、好きなだけ感謝してくれていいわよ。それで、初めて会った時、私を無視したことは許してあげるわ」
「お、お前なぁ……」
相変わらず偉そうなフィンネ。
彼女の中では、ここまでのすべてが、自分の手柄になっているらしい。
「気にしないでね、ウダロ。この娘、基本的にこうだから」
こちらも相変わらずの流し方で、リリウが処理する。
『あ、あの時はごめんね……あの時は、とにかく僕はカッタくんを探していて。それで運よく出会えちゃったものだから、周りが見えなくなっていたんだよ』
「あ、やっぱりか。俺、もしかしたらって思ったんだ。だから、そう尋ねたよな?」
ウダロの発言に、俺は自分の予想が当たっていたことを理解する。
確かに彼は、森で遭遇することになった俺に対し、やや興奮気味に接触してきた。
一度『言葉』を交わしているとはいえ、この前の消極的な雰囲気とは、明らかに違っていたもんな。
『う、うん……ごめんね、馴れ馴れしく近づいていっちゃって』
申し訳なさそうに、ウダロが続ける。
『僕と妹を、あのチョンチョンからカッタくんが守ってくれた日から、実はずっと、君のことを探していたんだよ。オドニオ森林のどこかで、また偶然に会えるんじゃないかって。それで数日間、散歩がてら森を歩いていたんだけど、全然ダメで……だから、今日はつい、あんな風に』
「そうだったのか」
ここ数日間、俺は野草摘みを休んでいた。
森には入っていない。
出会わないのも当然だ。
「でも、どうして俺を?」
別に、悪い気はしていない。
だが、気にはなる。
「君は、他の種族との交流を避ける、オドニオ森林のキルムーリだろう? あの時はとにかくとしても、君から再び関わろうとしてくるなんて、何て言うか、ちょっと……」
『不思議?』
「あ、うん。迷惑だなんて少しも感じていないが、確認はしておきたいかな。俺は今、ナコタ村で生活しているんだけど、この集落とは、適度な距離を保っているって聞いているからさ」
俺が今、こうやって彼らの村に招かれているだなんて、ナコタのみんなは想像もできないだろう。
『もちろん、全部説明させてもらうよ。そのために、ここへ来てもらったんだ。ちょっと長くなりそうだけど、ちゃんと順番に話すから』




