02/08. 森の中、キルムーリの村(後編)
「んん、んんんっ」
「ん、んんんん!」
「んんっ、んんんんんん!!」
初めて訪れた集落で、いきなりの展開。
トスロから逃げた先で、今度はキルムーリに詰め寄られることになるなんて、さすがに想像していなかった。
「んんっ、んんんん!!」
「「「「「んんっ!!」」」」」
どこか怯えながらも、じりじりとにじり寄ってくる彼ら。
向かってくるのは皆、成人している男性のようだ。
対して、女性や子供だと思われるキルムーリは、俺たちから離れた平屋などに身を隠しながら、こちらの様子をうかがっていた。
「ま、マサンを退散させたかった理由って、まさかこういうこと!? いいわよ。だったら相手をしてあげるわ。私が呼べば、またすぐに――」
「待て、フィンネ」
状況を素直に受け入れたらしい彼女を、俺は制する。
なぜなら、
「んんっ!? んんんんんっ、んんっ!!」
俺たちをここまで連れてきてくれた彼が、俺たちを守るように、向かってくるキルムーリとの間に立ってくれたからだ。
「どうやら、何か説得しているみたいだ。ここは、彼に任せてみよう」
「「…………」」
俺の提案に、リリウとフィンネは無言の同意。
それから少年キルムーリの彼は、身振り手振りを交えて、ひたすらに訴え続けた。
その内容はわからない。けれど、間違いなく俺たちに関すること。
農具を手にした、おそらくは自分より年上だろう彼らの反論にもひるまず、とにかく必死に『言葉』をつむいでいた。
「……どうなるんだろう?」
「わからない」
素朴なリリウの疑問に、俺はそう答えるしかない。
しばらく言い合いが続いていると、不意に、集団でまとまっていた大人キルムーリたちの隊列が割れる。
奥から現れたのは、また別の成人キルムーリだ。
他の男性キルムーリより、少し体格がいい。
もしかしたら、力仕事を生業にしているのかもしれない。
毛糸で編まれた帽子を被っていた。
「……ん、んんん」
新たに近づいてきたキルムーリに、少年のキルムーリが反応する。
もちろん、今までの彼らとも知り合いなんだろうが、毛糸帽子の男性とは、どうも特別な間柄のように思えた。
「んんん、んんんんんんん」
「んんんんんんん、んんんん、んんんんんん?」
諭すような毛糸帽子のキルムーリと、それを受け入れないような少年のキルムーリ。
その後、妙な沈黙。
騒がしかった他のキルムーリたちも皆、ただ、たたずむだけになっていた。
「(な、何か、私たち忘れられてない?)」
「(……そうかもね)」
フィンネとリリウが、小声でやりとり。
俺も、この状況をどうしたらいいのかわからなくなっていた――その時。
「んっ、んん、んーん」
どことなくかわいらしい『声』が聞こえたとたん、俺の目に飛び込んできたのは、
「んんっ♪」
先日の女の子――少年キルムーリの妹だろう、あの彼女だった。
「んんんっ、んんんんん♪」
固まったような時間を、無邪気な彼女が一瞬で変える。
にらみ合う男性たちなんてなんのその。
俺に向かって、楽しそうに近づいてきてくれたんだ。
そうだよな。
あいさつは、ちゃんと返さないとな。
「やぁ、覚えててくれたんだね」
「んんっ♪」
「よ、よくわかんないけど、たぶん『うんっ♪』って言ってくれてるんだよね? ありがとう」
すると、兄だろうキルムーリの彼が、再び訴える。
「んんっ、んんんんんん。んんん、んんんんんんん? んん、んんんんんんんんん――んんんっ」
「…………」
みんなに問いかけるような彼だったけど、最後、その視線は、あの毛糸帽子のキルムーリに向かっていた。
「……んんんん」
「「「「「んんっ!?」」」」」
毛糸帽子のキルムーリがうなずくと、他の彼らが一斉に驚く。
どうやら、何か話がまとまったらしい。
そして、ゆっくりと近づいてくる毛糸帽子のキルムーリ。
少年キルムーリの肩を軽く叩き、なぜか労うような素振りを見せた。
そして、何かをうながす。
うん、わかった――そんなような態度の少年キルムーリ。
毛糸帽子の彼に応えるように、そこで何かを唱える。
「〈んんんんんんん〉」
直後、顔の辺りを涼やかで優しい風が通り抜けるのを、俺は感じた。
「ん?」
「あれ?」
ほぼ同時に、リリウとフィンネも反応。
もしかして二人も?
少年キルムーリと毛糸帽子の彼が、互いにちらりと目を合わす。
そのまま、俺の方に歩いてくる少年のキルムーリ。
すると、不思議な声が聞こえた。
『やっと「言葉」を交わせたね、カッタくん』
同世代の少年の、はっきりとした声が。
「……君、なのか?」
『そうだよ、カッタくん。この「声」は僕さ』
思わず尋ねていた俺に、少年キルムーリが返してくれた。
「……聞こえる」
「うん、私も聞こえるわ」
リリウとフィンネも、驚いたように口にしていた。
いつの間にか、農具を構えていた他のキルムーリたちも、仕方ないといった雰囲気で腕を下ろしている。
とりあえず、袋叩きに合うなんてことにはならなそうだ。
とはいえ、まだいまいち状況を把握できていない俺。
そんな様子を感じ取ったのか、少年キルムーリが言う。
『ようこそ、僕たちの「コーソ村」へ。まずは僕の家に来てよ。そこでゆっくり、いろいろと説明させてもらうからさ』




