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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
74/114

02/08. 森の中、キルムーリの村(後編)

「んん、んんんっ」

「ん、んんんん!」

「んんっ、んんんんんん!!」


 初めて訪れた集落で、いきなりの展開。

 トスロから逃げた先で、今度はキルムーリに詰め寄られることになるなんて、さすがに想像していなかった。


「んんっ、んんんん!!」

「「「「「んんっ!!」」」」」


 どこか怯えながらも、じりじりとにじり寄ってくる彼ら。

 向かってくるのは皆、成人している男性のようだ。


 対して、女性や子供だと思われるキルムーリは、俺たちから離れた平屋などに身を隠しながら、こちらの様子をうかがっていた。


「ま、マサンを退散させたかった理由って、まさかこういうこと!? いいわよ。だったら相手をしてあげるわ。私が呼べば、またすぐに――」

「待て、フィンネ」


 状況を素直に受け入れたらしい彼女を、俺は制する。


 なぜなら、


「んんっ!? んんんんんっ、んんっ!!」


 俺たちをここまで連れてきてくれた彼が、俺たちを守るように、向かってくるキルムーリとの間に立ってくれたからだ。


「どうやら、何か説得しているみたいだ。ここは、彼に任せてみよう」

「「…………」」


 俺の提案に、リリウとフィンネは無言の同意。


 それから少年キルムーリの彼は、身振り手振りを交えて、ひたすらに訴え続けた。

 その内容はわからない。けれど、間違いなく俺たちに関すること。

 農具を手にした、おそらくは自分より年上だろう彼らの反論にもひるまず、とにかく必死に『言葉』をつむいでいた。


「……どうなるんだろう?」

「わからない」


 素朴なリリウの疑問に、俺はそう答えるしかない。


 しばらく言い合いが続いていると、不意に、集団でまとまっていた大人キルムーリたちの隊列が割れる。

 奥から現れたのは、また別の成人キルムーリだ。

 他の男性キルムーリより、少し体格がいい。

 もしかしたら、力仕事を生業なりわいにしているのかもしれない。

 毛糸で編まれた帽子を被っていた。


「……ん、んんん」


 新たに近づいてきたキルムーリに、少年のキルムーリが反応する。

 もちろん、今までの彼らとも知り合いなんだろうが、毛糸帽子の男性とは、どうも特別な間柄あいだがらのように思えた。


「んんん、んんんんんんん」

「んんんんんんん、んんんん、んんんんんん?」


 さとすような毛糸帽子のキルムーリと、それを受け入れないような少年のキルムーリ。


 その後、妙な沈黙。


 騒がしかった他のキルムーリたちも皆、ただ、たたずむだけになっていた。


「(な、何か、私たち忘れられてない?)」

「(……そうかもね)」


 フィンネとリリウが、小声でやりとり。


 俺も、この状況をどうしたらいいのかわからなくなっていた――その時。


「んっ、んん、んーん」


 どことなくかわいらしい『声』が聞こえたとたん、俺の目に飛び込んできたのは、


「んんっ♪」


 先日の女の子――少年キルムーリの妹だろう、あの彼女だった。


「んんんっ、んんんんん♪」


 固まったような時間を、無邪気な彼女が一瞬で変える。

 にらみ合う男性たちなんてなんのその。

 俺に向かって、楽しそうに近づいてきてくれたんだ。


 そうだよな。


 あいさつは、ちゃんと返さないとな。


「やぁ、覚えててくれたんだね」

「んんっ♪」

「よ、よくわかんないけど、たぶん『うんっ♪』って言ってくれてるんだよね? ありがとう」


 すると、兄だろうキルムーリの彼が、再び訴える。


「んんっ、んんんんんん。んんん、んんんんんんん? んん、んんんんんんんんん――んんんっ」

「…………」


 みんなに問いかけるような彼だったけど、最後、その視線は、あの毛糸帽子のキルムーリに向かっていた。


「……んんんん」

「「「「「んんっ!?」」」」」


 毛糸帽子のキルムーリがうなずくと、他の彼らが一斉いっせいに驚く。

 どうやら、何か話がまとまったらしい。


 そして、ゆっくりと近づいてくる毛糸帽子のキルムーリ。

 少年キルムーリの肩を軽く叩き、なぜかねぎぎらうような素振りを見せた。

 そして、何かをうながす。


 うん、わかった――そんなような態度の少年キルムーリ。

 毛糸帽子の彼に応えるように、そこで何かを唱える。


「〈んんんんんんん〉」


 直後、顔の辺りを涼やかで優しい風が通り抜けるのを、俺は感じた。


「ん?」

「あれ?」


 ほぼ同時に、リリウとフィンネも反応。

 もしかして二人も?


 少年キルムーリと毛糸帽子の彼が、互いにちらりと目を合わす。


 そのまま、俺の方に歩いてくる少年のキルムーリ。


 すると、不思議な声が聞こえた。



『やっと「言葉」を交わせたね、カッタくん』



 同世代の少年の、はっきりとした声が。


「……君、なのか?」

『そうだよ、カッタくん。この「声」は僕さ』


 思わず尋ねていた俺に、少年キルムーリが返してくれた。


「……聞こえる」

「うん、私も聞こえるわ」


 リリウとフィンネも、驚いたように口にしていた。


 いつの間にか、農具を構えていた他のキルムーリたちも、仕方ないといった雰囲気で腕を下ろしている。

 とりあえず、袋叩きに合うなんてことにはならなそうだ。


 とはいえ、まだいまいち状況を把握はあくできていない俺。


 そんな様子を感じ取ったのか、少年キルムーリが言う。


『ようこそ、僕たちの「コーソ村」へ。まずは僕の家に来てよ。そこでゆっくり、いろいろと説明させてもらうからさ』

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