02/06. トゲを持つ魔族と、風の呪文(3)
「ケガしたくなかったら、そこをどけ、人間っ」
戦闘開始。
最初に飛び出してきた一体に、俺は土の魔力の剣を振り抜く。
「はっ」
俺の攻撃と敵の腕がぶつかる。
がきん。
硬度のあるトゲに、土の魔力の刃は受け止められた。
「そんなもの、俺には届かないぜ――ふんっ」
強引に押し返してきたトスロ。
俺を串刺しにするみたく、トゲの拳を突き出してきた。
さすがに、あれに触れるわけにはいかない。
しゃがみ込んだ俺は、重量感のある体に脚払い。
バランスを崩したトスロは、そのまま倒れてしまった。
「ぐえっ……く、くそっ」
もたつく仲間を援護するように、別のトスロたちが続く。
「このクソガキめ」
「ひねり潰してやるっ」
俺にのしかかってくるようにジャンプした二体。
威勢がいいのは結構だけど、それじゃ腹部ががら空きだぜ。
トゲに守られていない、ゆるんだお腹がな。
「〈魔法の火球〉――はっ、はぁーっ」
「ぐわっ!?」
「がふっ!?」
弾ける火の玉で、両者を制圧。
分厚い脂肪があるから、ちょっとしたやけどで済むだろうさ。
よかったな。
「くっ……本当に厄介な牧師ですねぇ」
俺の動きに、離れた場所からムーボが嘆いた。
今回、あいつは直接仕掛けてこないらしい。
前回の一戦で、俺には敵わないと学んだのか?
「カッタ、後ろ」
そこに、リリウの声。
振り返ると、さっきの脚払いで倒したトスロの姿が。
「舐めやがって」
どうやら頭に来ている様子。
「ケガしたくなかったらどけと、そう言ったよなぁぁぁぁぁぁっ」
腕を構えて突進してくるトスロ。
直撃すれば串刺しは避けられない。
けれど俺には、勤勉な援軍がいるんだ。
「あなたたち、やっちゃいなさい」
「「「ギィ」」」
フィンネの指示で、三体のマサンが俺の前に。
すると、自ら創り出した魔法の灰を、素早く敵に投げつけた。
「「「ギィーッ」」」
「なっ!? 目に何か入ったぞ!? く、くそっ」
視界を奪われたトスロの動きが止まる。
「ありがとう、マサンたち――〈魔法の火球〉」
顔をこするトスロの腹部は、完全に無防備だった。
「ぐえっ!?」
火の玉が、混乱しているトスロに直撃。
よし。
ここまでに、三体の襲撃者を戦闘不能に追い込んだ。
「……あ、あいつ」
「ちょ、ちょっとはやるみたいだぞ」
「む、むぅ……」
仲間が次々と気絶してしまった光景に、残りのトスロたちが動揺を示した。
攻撃の手は落ち着いたけど、依然として、数で負けている状況には変わりない。
相手がひるんでいる隙に、さっさと逃げるのが得策だ。
俺は、ちらりとフィンネを見やる。
ここは、マサンたちに敵をかく乱してもらって、一気に突破口を開くのが有効だろうな。
「フィンネ、マサンたちに指示を出してくれ。まず、俺が――」
「おい、何をもたついているんだ」
野太い響き。
とても傲慢で、高圧的な声だった。
「弱々しいキルムーリの一人も捕まえられないのか、お前らは、ええ?」
茂みを割って現れたのは、ずいぶんと巨大なトスロ。
他の者より、二回りは大きい。
「お、親分……」
一体のトスロがつぶやく。
親分――ってことは、あいつが、このトスロたちのボスか。
「遊びじゃねぇーんだ。さっさと吊し上げて、吐かせるもんを吐かせるんだよ」
ボスだと思われるトスロが呼びかけると、
「は、はいっ」
「す、すぐにでも」
「や、やってやりますぜ」
子分だろうトスロたちは、震えながら返事をした。
「そ、そうですよ――ここは、ちゃっちゃと仕事をこなして、我らが『ドムタノン』さんの野望へ、一気に乗り出しましょう」
ムーボも、どこか怯えている様子。
トスロの子分たちと立場は違う様子だけど、あの巨大なトスロに従っていることは間違いなさそうだ。
「と、とはいえ、ドムタノンさん。あの少年が、何とも困った牧師でして……」
「牧師?」
ムーボに『ドムタノン』と呼ばれた大きなトスロが、俺をにらみつける。
「お前、俺たちのじゃまをするのか?」
「……あんたらの事情はわからないが、まぁ、そういうことになるな」
俺は、トスロのボス――ドムタノンに答えた。
確かに、他のやつとは気配が違う。
それなりに戦いの経験を積んでいるな、こいつは。
「ん?」
そこでドムタノンが、下の方に視線を移す。
俺の魔法でのびているトスロ三体を、彼は認識したようだ。
「……なるほど、俺の部下が世話になったみたいだ」
ゆっくりと、ドムタノンが俺に近づいてくる。
「部下がのされて黙っているわけにはいかねぇんだよ、牧師。俺にも、メンツってもんがあるからな」
まさか、俺と握手をしたいわけじゃないだろう。
こいつは他のトスロと違って、そう簡単に制圧できそうにない。
マサンの力を借りて退散――という作戦は変更だな、これは。
「フィンネ――俺は、あのでかいのを相手にする。他のやつは任せるから、上手くやってくれよ」
「う、上手くって……」
「タイミングを見計らって逃げる――それは変わらない。ただ、ちょっと時間がかかりそうって話さ」
「わ、わかった」
俺は、あらためてフィンネと確認し合う。
背後では、リリウがしっかりとキルムーリの少年を守ってくれている。
とりあえず俺は、
「安心しろ、痛みすら感じずに終わる」
目の前のこいつに集中だ。
「うらぁーっ」
腕を振り上げたドムタノンが、俺に向かってきた。
体格から想像するより、ずいぶんと速い。
「ふぬっ!!」
「ぐっ」
重みのある拳を、土の魔力の剣で防御。
打撃自体のダメージを避けることも必要だが、こいつのトゲをくらうわけにもいかない。
「ふん、ふん、ぐらっ」
初手にはスピードがあったが、さすがに小回りが利かないせいか、その後の動きは単調。
左右左の三段ジャブは、余裕をもって回避できた。
とはいえ、もちろんもらえばアウトだけど。
「どぅらっ!!」
大振りの右フック。
俺が上半身をひねってかわしたドムタノンの拳が、後ろの大岩に当たる。
するとその衝撃で、硬いはずの岩石が、一瞬にして粉々に。
くっ、何て破壊力だ。
距離をとるため、俺は後方に跳ぶ。
あんなのを頭にくらったらおしまいだ。
「外したか。しかし、次はお前がああなるんだ、牧師」
「……まいったな、それは」
緊張感を保ちつつ、俺は周囲を確認。
リリウは冷静に、あのキルムーリの彼の近くいる。
フィンネはマサンたちと、子分のトスロを抑えてくれていた。
「どうした、覚悟を決めたか?」
迫ってくるドムタノン。
このまま戦っていても、逃げる隙を作れそうにない。
何か、こいつの注意を逸らせるようなものでもあれば――。
すると、
「あっ、ちょっと!?」
いきなり、リリウの戸惑うような声。
確認してみると、今まで身を縮めていたキルムーリの彼が、俺の方に接近してきているじゃないか。
「こ、こっちは危険だっ。君は、リリウと向こうに――」
そこに、予想外の出来事が。
「〈魔法の風圧〉」
呪文、風の魔力の呪文。
ドムタノンへ、魔法の突風が直撃した。
「ぐおっ!?」
俺でもリリウでもフィンネでも、もちろんキルムーリの彼でもない。
どこからともなく、誰かが、ドムタノンへ魔法を放ったんだ。
「く、くそがっ」
大きなダメージではなさそうだが、明らかにひるむドムタノン。
直後、キルムーリの彼が何かを叫ぶ。
「〈んんんんんん〉」
その手は、フィンネとマサンたちが相手をしている、子分のトスロへ向けられていた。
「うわっ、な、何だ!?」
「み、耳がおかしいぞ!?」
「変な音が、頭から離れねぇ!?」
なぜか子分のトスロたちが、次々にしゃがみ込んでしまう。
不快感を訴えて、苦しそうにもだえていた。
「んんーっ」
あっけにとられていた俺を覚ますような、キルムーリの彼の『声』。
「んんっ、んんんんんっ」
キルムーリの彼は、森の奥を指さしていた。
逃げよう、あっちだ――そう伝えているように。
確かに、今がチャンスだ。
「リリウ、フィンネ――キルムーリの彼に続けっ」
走り出したキルムーリの彼を示して、俺は二人に呼びかけた。
「み、皆さん、あいつらに逃げられますよっ」
俺たちの動きに、ムーボが反応。
けれど、
「どこの誰だ、俺に魔法なんて、ああ!?」
「お、俺の耳がぁ……」
「あ、頭がおかしくなる」
「た、立ってらんないぜ、こんなの」
トスロたちはみんな、状態が万全じゃない。
「こうなったら、私が直々に――」
「〈魔法の火球〉」
「のわっ!? あ、ああ、危ないじゃないですかっ」
ムーボへの牽制魔法。
安心しな、当てるつもりなんてないさ。
俺からの置きみやげだ。
「カッタ」
「早く早く」
「「「「「「ギィ」」」」」」
「ああ、今いく」
リリウたちに答えて、俺たちは全員、先導するキルムーリの彼を追った。




