02/04. トゲを持つ魔族と、風の呪文(1)
演劇の配役は、子供たちの意見を尊重しつつ、正式に決定。
それからは、クレマンスさんやハミーヌさんを含めた村の方々に協力してもらいながらの、大道具、小道具、衣装の準備。
不器用な姉さんは、もちろんアミカちゃんのサポートに回ってもらっている。
下手に手伝わせると、かえって仕事が増えちゃうからな。
そんなこんなの数日間は、ずいぶんと忙しかった。
フィンネには――というか、彼女が召喚したマサンたちには、村の男性グループに加わってもらって、大道具作りを頼んだ。
まったく、あの灰色の使い魔には頭が下がるよ。
一方、リリウには女性グループに入ってもらい、小道具と衣装の用意を任せた。
意外と器用な彼女は、手早く作業をこなし、なかなかの貢献度を見せる。
一通り教わると、いろいろできちゃうんだよな、あいつ。
それで俺は、その両方に参加しつつ、ここまでに集めた野草の加工も平行してやっていた。
一部は乾燥させ、一部は塩漬けにして――料理が得意な村の年長者の皆さんに協力してもらいながら、当日のための下処理に励んだ。
さすがに大変そうに思えたのか、約束通り、リリウが手伝ってくれたりもした。
そして、心地よく晴れた今日。
昨日までに、手元にある野草の処理をすべて終えた俺は、リリウとフィンネを伴い、さらなる食材集めのため、あらためてオドニオ森林に来ていた。
「それじゃ、頑張るのよ」
「「「ギィ」」」
相変わらず、フィンネはマサンにすべてを押しつけている。
すっかり教育された彼らは、もはや優秀な野草ハンターだった。
横暴なフィンネを横目に、俺とリリウは野草を摘み取る。
単純な作業だが、話しながらやれば苦にはならない。
「子供たちの演劇、楽しみだね、カッタ」
「そうだな。みんな、すごくやる気になってくれてたし、本番が待ち遠しいくらいだ」
「あたしが作っている子供たちの衣装、結構いい出来なんだよ。村のおばさんにもほめられたし」
「ああ、話は聞いてる――『リリウちゃん、裁縫が趣味の私より上手だわ』なんて、俺に言ってきたぜ」
「そんなこと、カッタに言ってたんだ……何だかうれしいな、すごく」
はにかむリリウ。
わかるよ。
誰だって、自分の仕事が認められるのは誇らしいことさ。
たわいのないやり取りをしていると、マサンへの丸投げが済んだフィンネが、こちらにやってくる。
「裁縫が上手だからって、私の力にはなれないわよ、リリウ。あなたは、未来の女王である私を支えるっていう役目があるんだから」
物事の判断基準を、すべてそれにするなよな、まったく。
「どうしてあたしが、あんたのおかしな野望に協力する前提なのよ? 変なこと言ってないで、あんたも手を動かしなさい」
「はいはい、気が向いたらね」
リリウの小言に耳を貸さないフィンネが、逃げるように俺のとなりへ。
「マサンに任せてばかりじゃ、お前だって暇だろ? いっしょに作業しようぜ」
「ふふふっ、未来の女王は働かないのよ――できるだけね」
「……決め顔で、堂々とさぼりを宣言するな」
未来の女王とか関係ないからな、それ。
「いいじゃない。もうすぐ私にメロメロになっちゃうカッタが、私の分まで頑張れば問題ないわ」
リリウに続いて俺も、やっぱり例の頭数に入れられていた。
しかも、こいつに籠絡される予定らしい。
勘弁してくれ。
「どうでもいいけどさ、お前も、村での仕事はちゃんとやってるんだろ? クレマンスさん、喜んでたぞ――『フィンネちゃんがマサンくんたちを統率してくれるから、しっかり人手がまかなえるし、演劇で使う大道具も順調に作れているよ』って」
「えっ、あ、そうなの!?」
これは本当のこと。
リリウだけじゃなくて、フィンネに対する評価の声も、俺の耳に届いているんだ。
「ふ、ふーん……」
そっけない態度を見せつつも、まんざらではない様子のフィンネ。
まぁ、相変わらずの功労者は、実際のところマサンたちなんだけどな。
「み、未来の支配者としては、たまには国民のために働いてあげるのも悪くないわね、うん」
するとフィンネが、そそくさと野草へ手を伸ばした。
都合のいい理由を振りかざしていた彼女が、ほめられていることを知っただけで、まさかの即行動。
「……お前、それ、ちょっとちょろ過ぎない?」
「何、何か言った?」
「い、いや、いい、何でもない」
余計なつっこみはやめておこう。
俺は言葉を飲み込んだ。
「……もう、フィンネったら」
一部始終を聞いていたリリウは、あきれたようにつぶやいていた。
「ところでカッタ」
「どうした?」
手は動かしながらも、フィンネが言う。
「今日は、この森のキルムーリと会えないかしらね?」
「ん、会ってみたいのか?」
そういえばこいつ、この前は彼らと顔を合わせていないからな。
それとなく仲良くしてみたいのかもしれない。
「スカウトするのよ、スカウト。もしも出会えたら、私の仲間にならないかって誘ってみるつもり」
「……やめとけ、迷惑きわまりない」
やっぱり、フィンネはフィンネだった。
「そもそも相手は、他種族との関わりを拒む魔族だぞ。彼らは、この奥の集落で、静かに暮らすのが好きなんだ。ちょっとした交流くらいならとにかく、お前のおかしな計画に乗るわけないだろーが」
「わかってないわね、カッタ」
わかってないも何も、それが向こうの伝統なんだよ。
「あのね、そういうタイプこそ外に出てみたいって、強く思っているものなのよ」
強引に決めつけるフィンネ。
ずいぶんと知ったような口だな、おい。
「もしかしたら、私を探して、この森をさまよっているかもしれないわね。あの茂み辺りから、ひょっこり現れたりしないかしら?」
「あ、あのなぁ……百歩譲って彼らが探しているとしても、その相手はフィンネじゃなくて、間違いなく俺やリリウだぞ」
先日の兄妹と会ってないからな、お前。
「妙な考えなんてしないで、日暮れまで真面目に――」
「あっ、いたわ。彼でしょ、彼」
突然フィンネが、声を上げて俺の背後を指さす。
「そんなタイミングのいい話があるわけな――」
「んっ、んんっ」
「…………え?」
独特な『声』がして、まさかと思い振り返ると、
「んんっ、んんんっ」
信じられないことに、確かに一人のキルムーリが――先日の彼が、茂みから出てきていた。




