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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
65/114

01/15. 正しくないかもしれないけれど(前編)

 リリウとくだらないことを話しながら過ごす、野草摘みの時間。

 いつしか日が陰ってきて、あの洞窟の中じゃないというのに、それとなく肌寒くなってきた。


「おっと、ちょっとのんびりしちゃってたな」

「気づかないうちに、かなり集中しちゃってたんだね、あたしたち」


 今日の収穫をかごにまとめた俺とリリウは、少し離れたところにいるはずのフィンネの元へ向かおうとする。

 きっとマサンたちが、たくさんの野草を集めてくれたことだろう。


「野草もけっこう蓄えられてきたし、明日の作業は休みにして、子供たちの演劇の方に参加しようか?」

「あ、いいね、それ♪」


 俺の提案に、リリウの声が弾む。


 脚本を完成させたアミカちゃんは今日、教会堂で子供たちにその概要を伝えているはずだ。

 明日から、実際に練習も始まるだろう。

 手伝えることがあれば協力しないと。


「あと俺、この摘んだものを乾燥させたり、塩漬けしたりもしなくちゃだ……やること多いよな、本当に」


 野草のすべてを生のままで使うわけじゃないから、そういう下準備も必要というわけ。


「あらら、牧師サマは大変だねぇ」

「うるせ」


 からかってきたリリウに、俺は笑顔で返す。


「やってみるか、お前も?」

「はいはい、仕方ないから助けてあげる」

「それはどうも」

「どういたしまして」


 リリウとのこんなやりとりが、俺は嫌いじゃない。

 彼女も同じように感じているなら、うん、悪い気はしないな。


 そんなことを考えていた次の瞬間、


「〈魔法の風圧ウインゾストリーム〉」


 風の呪文が聞こえたと同時に、木々が激しく揺れた。


 直後、弾かれるように茂みから飛び出してきたのは、この森で暮らすあの種族――キルムーリ。

 しかも、今日は二人だ。


 一方は俺と変わらないくらいの背丈だけれど、もう一方は明らかに小柄だった。


「えっ、ちょ、何!?」


 あまりのことに驚いた様子のリリウ。


「んっ、んん……」


 地面に倒れ込んでいる大きな方のキルムーリは、苦しそうな声を上げながらも、その腕に小さな方のキルムーリを抱いていた。

 まるで魔法の直撃を、身をていして守っているみたいに。


 その行動と、キルムーリそれぞれの体格差を考えると――もしかして、この二人は家族なのか?


「ぅんん……」

「あ、あんた大丈夫?」


 戸惑いながらもリリウは、ダメージを受けている様子のキルムーリに駆け寄った。


 俺も同様に近づこうとしたが、森の奥から漂う何者かの気配に足を止め、乱された茂みを注視する。


「チェチェチェ」


 不快な笑い声。


 人をおちょくっているような、どこか奇妙なもの。


「ずいぶん吹っ飛ばしてしまいましたねぇ」


 だが、その声の主は、それ以上に怪しげな姿をしていた。


 現れたのは、あごの長い短髪男性の人面に、まるで鳥の翼のように大きく出張った耳を持つだけの、それは不気味で不可解な存在だ。

 見る者によっては、その姿、どこか滑稽こっけいに思えるかも知れない。

 けれど、俺に伝わってくる彼の魔力は、悪しきエネルギーを確かに含んでいた。


「おや人間、それにダークエルフですか、チェチェ」


 俺たちを確認したらしい宙に浮かぶ人面は、特に焦りの態度を示すこともない。

 さも当然のように、またおかしな笑い声を響かせていた。


「……お前、何者だ?」


 状況からして、こいつが呪文で、あのキルムーリを攻撃したことは間違いない。

 敵意を持つ相手だと判断した俺は、緊張感を高めながら尋ねた。


「何者、と言われましてもねぇ」


 振り子のような動きをしながら、彼は答えた。


「私は『ムーボ』。魔族である『チョンチョン』の一人です、チェチェチェ」


 名はムーボ、種族はチョンチョン――目の前の人面は、そう述べた。


「どちらさまかは存じませんが、私は、そこのキルムーリに用があるのですよ。どうか、じゃまはしないでいただけますかねぇ」

「……穏やかな用じゃないみたいだが? さっき、風の呪文が聞こえたぜ」

「いや、ちょっと強引に、そこでうずくまっている彼に頼んでみただけなんですよ――私を、あなたたちの集落へ案内してくれとね」

「キルムーリたちの集落へ?」


 この森林の奥で静かに暮らしている彼らのすみかに、いったいどうして?

 下手したてに出ているような口調だが、どうにもこいつの言動は高圧的だ。


「んん……」

「んっ! んんんんんっ!!」


 ダメージから回復できていない一方のキルムーリを、幼い背丈のキルムーリが心配している。


 詳しい事情はわからない。


 けれど牧師として、正しく生きたいと願う一人の人間として、今どちらに立つべきなのか、考えるまでもなかった。


「悪いが、お前の求めに応じることはできない。あのキルムーリたちに用があるなら、俺を倒してからにしてもらおうか」

「……ほう」


 俺の宣言に小さくつぶやいた人面魔族のチョンチョン――ムーボは、身にまとう怪しげな魔力を強くした。


「リリウ、二人を頼む」

「わかった。気をつけてね、カッタ」


 キルムーリたちをリリウに任せた俺は、戦闘の構えに入る。


「なるほど、あなた牧師ですか……これは、厄介な人間と出会ってしまいましたねぇ」


 俺の立ち姿に、そう認識したんだろう。


 牧師――その肩書きだけで退いてくれればいいんだが、そうはいかないから、対魔族のスペシャリストなんて呼ばれるわけで。


「とはいえ私も仕事なんで、ぞんぶんにやらせていただきますよ――〈魔法の風圧ウインゾストリーム〉」


 ムーボの放った魔法の風が、俺を襲う。


 だが、横飛びで回避。

 地面を蹴って、一気に距離を詰める。


「〈土魔力による具現化ダーノクリスタライズ――ソード〉」


 瞬時に土の魔力ダーノの剣を創り出した俺は、勢いそのままに斬りかかる。


「はっ」

「チョ!?」


 宙に浮かぶ種族だからか、さすがに素早い。


 剣は空を走ってしまったが、相手はかなり動揺しているようだ。


「う、〈魔法の風圧ウインゾストリーム〉」


 焦ったようなムーボの呪文。

 とにかく距離を取りたかったんだろう。


 でも、そんな弱々しい風圧なんて俺には届かない。


「はぁーっ」


 土魔力ダーノの刃でかき消した俺は、後退しようとしたムーボに右手の剣――ではなく、反転して裏拳になった左手を強く押し当てた。


「ちょごふっ!?」


 奥の大木まで吹き飛んだ彼は、目を回しながら地面に落ちた。


「こ、ここ、こしゃくな人間で――おちょ!?」

「手を引いてくれるなら、とりあえず見逃してやるけど、どうする?」


 幹を背にしているムーボに向けて、俺は土の刃を向けた。

 勝負がついていることは、誰の目にも明らかだった。


「……あ、あなた、名前は?」

「カッタ、牧師のカッタだ」

「か、カッタ……」


 恨めしそうに俺の名前をつぶやいた彼は、


「い、いいでしょう、今日は私の負けです。けれど覚えておいてください。私は、キルムーリの集落をあきらめませんよ、チェチェチェ」


 捨て台詞を残して、逃げるように茂みの奥へ消えた。

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