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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
60/114

01/10. 王国史における特別な魔族

 慌ただしい食事の時間も終了。


「牧師さま」


 後片づけをしていた俺に、アミカちゃんが声をかけてきた。


 リリウ、フィンネ、マルセラ姉さんは、まだテーブルで何やかんやとしゃべっている。

 こちらに注目している様子はなかった。


「あの……ちょっといいですか?」


 向こうの三人を気にするように、アミカちゃんが俺を誘う。


 何か言いづらいこと、聞かれたくない話でもあるのか?

 不思議に思いつつうなずいた俺は、彼女と二人で廊下へ出た。

 ここなら誰もいない。


「どうしたの、アミカちゃん?」

「そ、その……昼間の劇のことなんですけど」


 ゆっくりと切り出してきたアミカちゃん。


 俺たちが森に入っている間、彼女とマルセラ姉さんで、子供たちの相手をしていたんだよな。

 たぶんみんなに、どういう内容になるかの質問をされただろうし、取り扱う場面とか、その配役とか、何となく決まったってこと?


「い、いいんでしょうか……リリウさんとフィンネさんがいるのに、ガーシュ建国の歴史を劇にするだなんて」

「ああ、そういう」


 神妙なアミカちゃんの態度で、すぐに理解する。

 彼女のそれは、俺が感じていたことと同じだったから。


「この国の歴史を語る場合、どうしてもダークエルフは――」

「俺、リリウに言われたよ――『あたしはあんたにとって、ただのダークエルフ? それとも、この村にやってきた「リリウ」っていう女の子?』ってさ」

「えっ?」


 驚いたようなアミカちゃんに、俺は続ける。


「実は俺もさ、アミカちゃんと同じこと、ちょっと考えたんだよ。物わかりのいいように先回りして、勝手に心配しちゃってて……けれどあいつは、リリウは、そういう俺の頭の中を見抜いて、どうなのって、そう聞いてきたんだ」


 ガーシュ王国の誕生。


 その過程を語る場合、ダークエルフという種族には、ある明確な評価が、どうしてもついてきてしまう。


 反英雄の、忌まわしき魔族――いろいろな事情をすっとばして、この国におけるダークエルフの歴史的立場をまとめるなら、そういうことになる。


 要は『悪役』なんだ、ガーシュ建国の歴史において。


 もちろん人間にとって魔族は、今も昔も一つの脅威となり得る。


 五年前、そして先日のケルギジェを引き合いに出すまでもなく、これは仕方のない事実。


 しかしこれをもって、チノセパリックやエディンムのすべてが人間の敵かと言えば、それは違う。


 だから当然、ダークエルフのすべてが脅威じゃないし、ダークエルフだけが脅威でもない――これも、また真実なんだ。


 けれど、彼ら種族は特別だ。


 魔族の中でも特別。


「リリウは、この国の歴史とダークエルフの関係について、ちゃんと理解していたよ」


 そうでなきゃ、あんなこと言えない。

 教えられたのか、自分から学んだのかは、さすがにわからないけど。


「理解した上で、そんなこと気にしないでって俺に伝えるために、さっきの質問を投げかけてくれたんだよ。俺がリリウのことをどう思っているのか、しっかりわかってくれていた上でね」

「リリウさん……」

「アミカちゃんはどう? アミカちゃんにとって、リリウやフィンネはどんな存在?」


 あいつがそうしてくれたみたいに、俺も尋ねてみる。

 答えなんか、あえて聞くまでもないんだけど。


「牧師さまと同じです。私にとって二人は、もうナコタ村の仲間ですから」


 真っ直ぐな言葉。


 迷いなんて欠片もない。


「うん」


 リリウとフィンネは、確かにダークエルフ。

 でも俺たちにとって、二人はただのダークエルフじゃない。

 大切な相手だ。


「悩まなくていいよ、アミカちゃん。ありのままの歴史を、子供たちといっしょに歩む気持ちでやってくれれば大丈夫。俺たちにとってそうであるように、ナコタのみんなにとっても、あの二人は、かけがえのない村の仲間なんだから」


 もう彼女に、不安そうな表情はない。


「はい。わかりました、牧師さま」


 リリウのまねをしただけだけど、俺もアミカちゃんの心を、少しは軽くしてあげられたみたいだ。


 あ、じゃあついでに、これも。


「ちなみにフィンネは、この国の歴史とか、おそらく理解してないから。だからあいつに教えてあげるような気持ちで、気楽にやってよ。もちろん俺、何でも手伝うからさ」

「ふふっ、そうですね、頑張ります」


 その笑顔を見ただけで、俺は何となく、今年の緑草祭は例年以上に成功するって思えた。


 うん、間違いない。

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