01/10. 王国史における特別な魔族
慌ただしい食事の時間も終了。
「牧師さま」
後片づけをしていた俺に、アミカちゃんが声をかけてきた。
リリウ、フィンネ、マルセラ姉さんは、まだテーブルで何やかんやとしゃべっている。
こちらに注目している様子はなかった。
「あの……ちょっといいですか?」
向こうの三人を気にするように、アミカちゃんが俺を誘う。
何か言いづらいこと、聞かれたくない話でもあるのか?
不思議に思いつつうなずいた俺は、彼女と二人で廊下へ出た。
ここなら誰もいない。
「どうしたの、アミカちゃん?」
「そ、その……昼間の劇のことなんですけど」
ゆっくりと切り出してきたアミカちゃん。
俺たちが森に入っている間、彼女とマルセラ姉さんで、子供たちの相手をしていたんだよな。
たぶんみんなに、どういう内容になるかの質問をされただろうし、取り扱う場面とか、その配役とか、何となく決まったってこと?
「い、いいんでしょうか……リリウさんとフィンネさんがいるのに、ガーシュ建国の歴史を劇にするだなんて」
「ああ、そういう」
神妙なアミカちゃんの態度で、すぐに理解する。
彼女のそれは、俺が感じていたことと同じだったから。
「この国の歴史を語る場合、どうしてもダークエルフは――」
「俺、リリウに言われたよ――『あたしはあんたにとって、ただのダークエルフ? それとも、この村にやってきた「リリウ」っていう女の子?』ってさ」
「えっ?」
驚いたようなアミカちゃんに、俺は続ける。
「実は俺もさ、アミカちゃんと同じこと、ちょっと考えたんだよ。物わかりのいいように先回りして、勝手に心配しちゃってて……けれどあいつは、リリウは、そういう俺の頭の中を見抜いて、どうなのって、そう聞いてきたんだ」
ガーシュ王国の誕生。
その過程を語る場合、ダークエルフという種族には、ある明確な評価が、どうしてもついてきてしまう。
反英雄の、忌まわしき魔族――いろいろな事情をすっとばして、この国におけるダークエルフの歴史的立場をまとめるなら、そういうことになる。
要は『悪役』なんだ、ガーシュ建国の歴史において。
もちろん人間にとって魔族は、今も昔も一つの脅威となり得る。
五年前、そして先日のケルギジェを引き合いに出すまでもなく、これは仕方のない事実。
しかしこれをもって、チノセパリックやエディンムのすべてが人間の敵かと言えば、それは違う。
だから当然、ダークエルフのすべてが脅威じゃないし、ダークエルフだけが脅威でもない――これも、また真実なんだ。
けれど、彼ら種族は特別だ。
魔族の中でも特別。
「リリウは、この国の歴史とダークエルフの関係について、ちゃんと理解していたよ」
そうでなきゃ、あんなこと言えない。
教えられたのか、自分から学んだのかは、さすがにわからないけど。
「理解した上で、そんなこと気にしないでって俺に伝えるために、さっきの質問を投げかけてくれたんだよ。俺がリリウのことをどう思っているのか、しっかりわかってくれていた上でね」
「リリウさん……」
「アミカちゃんはどう? アミカちゃんにとって、リリウやフィンネはどんな存在?」
あいつがそうしてくれたみたいに、俺も尋ねてみる。
答えなんか、あえて聞くまでもないんだけど。
「牧師さまと同じです。私にとって二人は、もうナコタ村の仲間ですから」
真っ直ぐな言葉。
迷いなんて欠片もない。
「うん」
リリウとフィンネは、確かにダークエルフ。
でも俺たちにとって、二人はただのダークエルフじゃない。
大切な相手だ。
「悩まなくていいよ、アミカちゃん。ありのままの歴史を、子供たちといっしょに歩む気持ちでやってくれれば大丈夫。俺たちにとってそうであるように、ナコタのみんなにとっても、あの二人は、かけがえのない村の仲間なんだから」
もう彼女に、不安そうな表情はない。
「はい。わかりました、牧師さま」
リリウのまねをしただけだけど、俺もアミカちゃんの心を、少しは軽くしてあげられたみたいだ。
あ、じゃあついでに、これも。
「ちなみにフィンネは、この国の歴史とか、おそらく理解してないから。だからあいつに教えてあげるような気持ちで、気楽にやってよ。もちろん俺、何でも手伝うからさ」
「ふふっ、そうですね、頑張ります」
その笑顔を見ただけで、俺は何となく、今年の緑草祭は例年以上に成功するって思えた。
うん、間違いない。




