01/07. 意外に豊富な野草の知識
やることが決まった以上、善は急げだ。
子供たちをアミカちゃんとマルセラ姉さんに任せた俺は、かごを肩にかけながら、リリウとフィンネを連れて、生い茂る木々の中を歩いていた。
ここは『オドニオ森林』。
ガーシュ王国東部に広がる森林帯だ。
ナコタ村は、この森の南端に位置しているため、村から南に進んでいけば、平野部にある他の集落へ行くことができる。
村の人たちも、近隣の栄えた町に出る場合など、そちら側へ抜けることが多い。
整備された道があるから安全というわけだ。
対して、俺たちが今いるのは逆方向。
つまり、ナコタ村から見て北側になる。
こっちはとにかく木、林、森――といった具合で、ほとんど人の手が入っていない。
村に現れるタキシムなんかは、十中八九、こちら側から生まれてしまうんだ。
そういうわけで、村の人はもちろん、一般の旅人なんかも、ほとんど足を踏み入れることなんてない。
それが、ナコタ村の北に広がるオドニオ森林という地域。
言い換えればそれは、新鮮な野草があるってこと。
だから、こうしてやってきたんだ。
「今日はもう午後の時間帯だから、あまり奥に行くのはやめよう。この辺りで、食用の植物を探すんだ」
リリウとフィンネに呼びかける。
森の夜は早い。
日が傾いたと思ったら、すぐに真っ暗だ。
無理をする必要なんてない。
「これは、カッタ?」
「大丈夫、食べられるよ」
「向こうのやつは?」
「あれも平気だな。でも、そのとなりの木の下に生えているのはダメだ。口にしたらしびれちゃうから」
まじめに聞いてきたリリウに、俺が説明する。
あの頃は嫌々だったけど、教会の施設で学んだ知識、けっこう役に立つんだよな。
積極的なリリウに対して、
「草なんて食べたくないわよ……」
フィンネはどうもやる気がない。
「こんなもの、苦いし」
とはいえ、手はしっかり動かしているから、うん、文句は言えないな。
「お腹だってふくれないし」
そうそう、それは食用。
「この国を支配してやろうっていう私に、全然ふさわしくないわ」
おお、それも食べられる植物だ。
わかってるじゃないか、フィンネ。
「やっぱり私は、都市部でこそ輝くのよね。こんなものでお祭りをやろうとしている田舎の村じゃ、私の価値は発揮されないのよ」
おいおい、それも毒のない野草だぞ。
もちろんいいんだけど、どうしてあいつ――。
「フィンネ」
「何よ、ちゃんと働いてあげているでしょーが」
声をかけた俺に、彼女が反発してくる。
小言を言われるとでも思ったのかもしれない。
「お前、野草の知識、どこで学んだんだよ? 今までに摘んだ植物、全部食用のやつだぞ」
不思議に感じた俺は、フィンネに尋ねた。
毒を持つものは意図的に避けて、彼女はちゃんと、使える植物だけを選んでいたんだ。
村で長年暮らしている年輩の方でさえ、たまに間違えて大騒ぎになるっていうのに。
「えっ? こんなの簡単じゃない」
俺の問いかけに、さも当然のように答えるフィンネ。
「私はね、好きでもないこういう野草を、たくさん食べてきたのよ。毒があるかないかなんて、自然と覚えちゃったわ」
「お前、野草嫌いだったのか? 俺、ずいぶん料理に使ってたぞ」
「あなたのは、おいしかったから大丈夫。だからこれからも、おいしいものを作りなさい」
「そ、そりゃどうも」
うれしいけど、どうも釈然としないなぁ。
まぁ確かに、俺が出した野草を使ったメニュー、残さず食べてくれてたっけ。
「この国を支配したら、私、あなたが料理した野草以外、ぜーったいに食べないわ。だから、こんなものを食べなくても済むように、早くガーシュ王国を私のものにしてやるんだから――ふんっ」
気合いを入れるように、これまた食用の植物を摘んでいくフィンネ。
それが、この国を支配しようとする動機?
うーん、何だかなぁ。
てか、野草メニューは俺のしか食べないって、ちゃっかり入れられちゃってるよな、その王国支配の仲間に。
そっち方面はとにかくとしても、フィンネは俺と同じ歳の女の子。
リリウと出会い、彼女を追ってナコタ村に来るまで、おそらく一人旅だったんだろう。
使えるお金なんてたかが知れてる。
野草で食べつないでいたとしても、そりゃ納得だ。
口にしたくなくなるのも理解できる。
「安心しろ。村にいる限りは、お前が満足するような野草の料理、俺が作り続けてやるから」
フィンネの言動がいじらしく思えた俺は、笑いながら伝えた。
「あら、それってプロポーズ? なら、私の魅力に落ちたってことよね、あなた」
作業を止めたフィンネが、挑発的に返してくる。
「おいおい、都合よく解釈するなよ」
こっちは、キャンキャン吠える野犬を、ペットとして手懐けるような感覚だったんだからさ。
すると、
「さっきから口しか動いてないよ、カッタ」
チクリと、リリウが刺してきた。
「……はいはい、やります、やりますよ」
怒られないように、俺は近くの野草を摘み始めた。




