01/05. 無意味な心配
――と、意気込んだはいいものの、
「……まいったな、これ」
さっそく俺は悩む羽目になってしまった。
教会堂から飛び出して、今は自分の家の一室。
本棚に並べられている歴史についての本を、適当にパラパラめくってみたところ、俺はすごく重要なことに気づいちゃったんだ。
それは非常にデリケートな問題で、けれど過去を正しく理解するためには避けて通れない事実でもあり……うーん。
俺の取り越し苦労なのかもしれない。
おそらく村の大人たちは、それを単純な一つの出来事として把握しているはず。
この期に及んで、つまらないことを言う方はいないと思う。
でも、子供たちはどう感じるだろう?
もしも、演劇を通じてガーシュの歴史に触れた彼らが、俺が望んでいないような想いを抱いてしまったとしたら?
何より、リリウやフィンネを、嫌な気分にさせはしないだろうか?
せっかくナコタ村になじんできた二人を、まるで、よってたかって傷つけるようなことに――。
考えあぐねていると、部屋の扉が開く。
入ってきたのはリリウだった。
「そろそろお昼だよ、カッタ。どうする? アミカにわけてもらった野草を使って、簡単に何か作る?」
「あ、ああ……うん」
生返事をしてしまった俺に、リリウが近づいてくる。
「どうしたの、難しそうな本なんか読んで……あっ、お祭りの演劇だね? フィンネが言ってたよ。子供たちが、この国の歴史を演じてくれるんだって」
手元の分厚い書籍を見て、リリウはすぐに察したらしい。
思わず俺は、それを本棚に押し込んでしまう。
「い、いや、違うんだ。これは、別にそういうことじゃなくて……あ、あはははは」
我ながら、明らかに不自然な態度。
いぶかしそうな顔をしてたリリウだけど、勘がいいのか、彼女はすぐさま、俺の言動がおかしいことの理由に納得したみたいで。
「……そういうことか」
少し悲しそうな表情でつぶやいた。
どうやら彼女、ガーシュの歴史を一通りは学んでいる様子。
だから俺の心の内を、それとなく見抜いてしまったんだ。
「ひどいね、カッタ」
まずい。
そう感じた俺は、とっさに言葉を続けた。
「だ、だから違うんだって!? 演劇の話は、単なる俺の思いつきで、本気でやろうだなんて考えてな――」
「あたしが、そんなことを気にするだなんて、そんなふうに思ってたんだ?」
「……リリウ」
けれど彼女は、俺が心配していたようなこと、頭の片隅にもなかったみたいで。
「ダークエルフがどうとかじゃなくて、一人の女の子として向き合いたい――カッタはあたしに、そう言ってくれたよね?」
「……ああ」
「じゃあ教えて。あたしはあんたにとって、ただのダークエルフ? それとも、この村にやってきた『リリウ』っていう女の子?」
「もちろん、リリウは『リリウ』だ。種族なんて関係ない」
「だったら、それでいいんじゃないの? あたしはダークエルフである以上に、あんたにとって、種族なんて関係のない一人の女の子――『リリウ』なんだから」
彼女が悲しい顔をしたのは、俺が想像していたような理由じゃなくて、むしろ、俺が無意味な心配をしてしまっていたことに対してだったんだ。
「大丈夫だよ、カッタ」
まるで俺の背中を押してくれるように、リリウが伝えてくれる。
「あんたがそう思ってくれているなら、村のみんなだって、きっと同じだからさ」
恥ずかしい気持ちになった。
彼女や、村のみんなのことを信頼できていなかった自分に、ものすごく。
「……そう、だよな」
ナコタの村人は――いや、リリウは、そういう女の子なんだもんな。
「でも、お前はよくてもフィンネは……大丈夫かな?」
「心配ないって」
軽く手を振りながら、リリウが言う。
「あの娘のことだもん。ガーシュの歴史なんて、たぶん詳しく知らないよ」
俺とリリウは、二人で笑った。
フィンネに聞かれたら、きっと怒られるだろうけど。




