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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
52/114

01/02. 緑の恵みを祝う祭(1)

 慌ただしい朝を乗り越えた俺は、再び教会堂で、聖職者としての雑務。


 まぁ、特別なことでも起こらない限り、のんびりとした時間なんだけど。


「マルセラお姉ちゃん、こっちこっち、捕まえてごらん」

「よーし、捕まえちゃうぞ」


「私たちとお話しようよ、マルセラお姉さん」

「あら、ガールズトークね」


「お姉ちゃーん、僕とも遊んでよぉ」

「はいはい、みんなでいっしょに遊ぼうね」


 教会堂の庭でじゃれ合う、マルセラ姉さんと村の子供たち。


 窓から見えるその光景は、平和で穏やかな日常そのものだ。


 姉さんもすっかり、ナコタ村での生活になじんでいる。

 国の英雄である聖剣士――だからじゃない。

 姉さんの優しくて飾らない人柄が、あの子たちをはじめとする村のみんなに理解してもらえたということ。

 まるで元々この地域の女性だったみたいに受け入れられているんだ。


 一方で、教会堂の扉付近。


「先日はありがとうね。森から出てきた臭い魔族を追い払ってくれたみたいでさ」

「たいしたことないよ、あんなの」


 リリウは村の中年女性から、お礼を伝えられていた。


 この前、またまた出現した理性なき人型の魔族――タキシムを、俺といっしょに退治したときの話だろう。


「牧師さんが常駐するようになってずいぶん安心したけどさ、あなたが村で暮らすようになってくれて、私はますます安心だよ。魔法が使えない私じゃ、ああいう凶暴な魔族を、どうこうすることなんてできないからね」

「あいつらが現れたら、すぐに言ってきて。あたしとカッタで何とかするからさ」

「頼もしいよ、リリウちゃん」

「だ、だから、たいしたことないんだってば」


 恥ずかしそうに、村の女性に答えたリリウ。


 今やあいつを、強大な魔力を有するダークエルフと見なす人間は、この村にはいない。


 一人の女の子として、誰もがリリウを歓迎している。


 もちろんそれは、彼女がマルセラ姉さんに負けないくらいに心の優しい女性だからなんだ。


 さらに、教会堂の隅では、


「フィンネお姉ちゃん、あれ出してよ、灰色のやつ」

「「「出して出してぇーっ」」」

「マサンのこと? ダメよ。私がアミカに怒られるじゃない」


 また別の子供たちが、フィンネに召喚魔法を要求していた。


「私の仲間になって、この国を支配するために働くって言うなら、考えてあげなくもないわよ――ふっふっふ」

「うん、働く」

「僕も」

「働くから、灰色のやつ見せてぇーっ」

「……言っといて何だけど、そんな簡単じゃないわよ、この国を支配するのって」


 子供相手に、あいつは何を……。


 まぁ、さすがに冗談だろうな。

 素直に聞き入れられて、逆に困っているみたいだし。

 

 むしろフィンネが、あの子たちを仲間としてガーシュの支配に名乗りを上げるんなら、この国はこれからも平和なままだ。


 マルセラ姉さん、リリウ、フィンネ――新しくナコタ村の住民に加わった三人の今に、俺が穏やかな感情を抱いていると、


「ふふふっ」


 となりにいたアミカちゃんが、なぜか微笑む。


「ん、どうかした?」

「あ、いえ。ただ、牧師さまがうれしそうな顔をしていたので、私もつい」

「……俺、うれしそうな顔してた?」

「はい、ものすごく」


 どうやら心の内が、表情に出てしまっていたらしい。

 指摘されて恥ずかしくなるけど、確かにその通りだった。


「牧師さまの気持ち、私にもわかりますよ」


 これがリリウだったなら、今朝みたく、俺がやましい想像をしているとか何とか言いがかりをつけてきそうなものだけど、アミカちゃんは違う。


「村の教会堂に、ダークエルフの女の子がいるのも悪くない――牧師さまは以前、そうおっしゃっていましたよね?」

「うん」

「牧師さまがいて、聖剣士のマルセラお姉さまがいて、魔族であるリリウさんやフィンネさんがいて、私たち村の人間がいて――いろいろな立場、いろいろな種族がいるのが、このガーシュ王国の当たり前。その当たり前が、この場所には、幸せな形で存在していると思うんです」


 人間、魔族、王族貴族、庶民――俺たちが生きている世の中は多様性にあふれている。

 誰一人として、同じ身分、姿かたちの者は存在していない。


 それが、この王国の当たり前。


「ガーシュ全体が、これから、この場所みたいになっていけば、きっともう、悲しい争いごとなんて起こらないって、そう思ったんですよ、私」


 アミカちゃんは以前から、魔族を差別するような女の子じゃなかった。

 けれどもちろん、他人を害するような魔族を受け入れられるようなお人好しでもなかった。


 だからリリウに対しては初めから、少なくとも魔族であることを理由に、彼女を避けるようなことはしなかった。


 でも、偶然とはいえ村の子供たちを危ない目に遭わせることになってしまったフィンネに、アミカちゃんが当初、否定的な感情を抱いていたことは事実。


 そんな彼女も、先日のチノセパリックの一件から、フィンネを十分に認められるようになったんだ。

 体を奪われて暴走してしまった姉さんに対し、フィンネが、アミカちゃんや子供たちを守るべく立ち向かったことが大きな理由だろう。


 わかり合おうとする、誤解を乗り越える――そういうことを、アミカちゃんは学んだのかもしれない。


 そしてそれは、この国の平和を保つための知恵でもあるんだと。


「だから私、心から共感できるんです――村の教会堂に、ダークエルフの女の子がいるのも悪くないって」


 尊敬するよ、アミカちゃん。


 君はもう、半人前の聖職者である俺より、何倍も立派な人間だよ、本当に。


「ありがとう、アミカちゃん」


 俺が感謝するのはおこがましいのかもしれないけど、自然と、そう口にしていた。


「牧師さま」

「何、アミカちゃん?」

「これからも、この村のこと、どうかよろしくお願いしますね。頼りにしていますから」


 かわいい笑顔でそう言われたら、断るわけにはいかないよな。


「うん、頑張るよ」


 ナコタ村の聖職者として、精一杯ね。

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