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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
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01/01. にぎやかなのはいいけれど

「リリウ」


 背を向けたまま、俺は声をかける。


「もうすぐ朝食ができるから、姉さんとフィンネを起こしてくれ」

「うん、わかった」


 飲み物の準備をしていたらしい彼女が、廊下へと出ていく。


 教会堂のとなりにある俺の家。

 ここでリリウが暮らすようになって、もう数週間が過ぎた。


 まぁ、それ以前から、何だかんだ訪れて、泊まったり泊まらなかったりしてたから、具体的にどうこうってこともないんだけど、一応。


 意外なことにあいつ、家事全般の手際がいいんだ。


 教会堂の掃除はもちろん、俺の料理の手伝いなんかも、さらりとこなしてくれる。


 実はリリウ、家庭的な能力が高いんだよな。


 とはいえそれは、この家で暮らすようになった他の二人が、生活者として、あまりに残念なのが影響していなくもないんだけど。


「うぅぅ……毎朝、どうしてこんなに早く起こされなきゃならないのよ」


 不満をもらしながら、眠たそうに入ってきたのは、この家にいるもう一人のダークエルフ、フィンネ。

 女王として、この国を支配する――という、途方もない野望を抱く、なんちゃってビッチ(リリウ談)の女の子だ。


「私、朝が弱いのよ。このままだと、規則正しいダークエルフとしての日常が壊れちゃうじゃない」


 以前は、リリウもそんなことを言ってたっけ。


 確かに、ダークエルフは夜の方が強いイメージだよな。


 でも、ウチで暮らすからには、それなりの時間には起きてもらわないと。


「寝てるのは構わないが、それだとお前、これからずっと朝食抜きだぞ。いいのか?」

「……わ、わかったわよ」


 俺の問いかけに、小さく答えたフィンネ。


 変な時間に『お腹が空いたわ、カッタ。何か作りなさいよ』と言われても困るからな、俺が。


 フィンネが、気だるそうにテーブルにつくと、彼女よりさらに眠たそうな女性が、リリウに支えられながら入ってきた。


「……むにゃ、むにゃ」


 眠たそう――というより、まだ寝ているな、これは。


 俺の姉弟きょうだい、マルセラ姉さん。


 孤児だった俺は、教会の施設で彼女と出会った。

 血はつながっていないが、それでも、強い絆で結ばれている大切な家族。

 さらに、聖剣イープノスに選ばれた聖剣士でもあるんだ。


 けれど、そんなガーシュの英雄も、今は見る影もない。


「ほらマルセラ、しっかりしなよ。もう朝なんだよ、朝」


 肩を貸しているリリウが、優しく叩いて目覚めさせようとする。


 少し前まで、リリウは姉さんのことを『あんた』や『カッタの姉ちゃん』としか言わなかったけれど、もう、ちゃんと名前で呼びかけるようになった。


 俺はそれが、何だかうれしくて。


 姉さんに対して、リリウが心を開いてくれたんだなと、そんなふうに思えたから。


「マルセラ、朝。朝だよ」


 溶けてしまいそうな姉さんをそのままにしていては、支えるリリウが大変そうだ。


 俺はかまどから離れて、マルセラ姉さんを抱えにいく。


「ほら姉さん、いい加減、もう起き――」

「カッタくぅーん」

「おわっ!?」


 いきなり飛びつかれた俺は、ばたんと床に倒れ込んでしまう。

 もちろん、上には姉さんが乗っかってて。


「お姉たんのむれを、おほなのふにふに、してもいいらからねぇ……えへへへへ」

「な、何て寝言を――って、おい待て、リリウ!?」

「〈火の魔力フレイツ〉」

「これ、どう考えても不可抗力だろうがっ!!」


 最近まで姉さんは、聖剣士として、国内各地を旅していた。

 だからこの村に来てからの生活は、久しぶりに落ち着いた日々なんだろう。


 それが理由なのか、もともと朝が苦手だった姉さんの寝起きは、今や目も当てられないくらいにひどい。


 だから頻繁に、こんな展開になってしまっていたりする。


「と、とにかく魔法はやめろっての!?」


 姉さんに押し倒されながらも、俺は、怖い目をしたリリウに伝える。


 すると、家の扉が開いた。


「おはようございます、牧師さま。今朝、村のかたから野草をいただいたんですけど、よかったらスープにでもして――って、何をしているんですか、牧師さまっ!?」


 アミカちゃん。


 以前から、俺を訪ねてきてくれる、まじめでかわいらしい女の子。


 けれど何というか、いつも登場のタイミングが悪いんだよなぁ……。


「お、おお、お姉さまとそういうことをするのは、は、はは、ハレンチ過ぎますよ、牧師さまっ!!」


 したくてこうなってるんじゃないんだよ、アミカちゃん。


 とにかく彼女に弁解を。

 それと救助を求めよう。


「あ、あのね、アミカちゃん、これは違うん――」

「カッタくぅん、はーい、どうぞぉ……むにゃむにゃ」

「んふっ!?」


 そこで、まるで俺の言葉をさえぎるように、寝ぼけ姉さんが、口に胸を押し当ててきた。


「んっ、んぐっ、ふっ!?」

「〈火の魔力フレイツ〉」


 姉さん越しに片目から見えたリリウは、左右の手のひらに炎を出現させていた。


「ん、んふ、ふふん!? んふふんふふっふ!!(ま、待て、リリウ!? 両手はダメだって!!)」


「カッタぁ、料理はまだなの? 早起きしたんだから、さっさと出しなさいよね――ふぁーあ」

「んふふんふんふんふふ、んふふふんふ、ふんんっ(のんきに座ってないで、助けてくれ、フィンネっ)」


「牧師さまは、胸が大きければ、たとえお姉さまでも手を出すような、そういうハレンチな男性になってしまったんですねっ」

「んふふんふふんふんふふふふん、んふふんふふふふんふふんふふふん!?(頼りのアミカちゃんがそれだと、俺はもう助からないんですけど!?)」


「カッタっ」

「カッタくぅーん」

「カッタぁ?」

「牧師さまっ」


 穏やかな一人暮らしだった、俺の村での日々。

 それが今や、もうこんな感じ。


 うん、いいよ。

 いいんだ。


 にぎやかなのは大歓迎だけどさ、でも――いくら何でも、これはにぎやか過ぎだってのっ!!

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