prologue. 小さな教会堂の朝
[第1章のあらすじ]
物語の舞台は、人間と魔族が暮らす『ガーシュ王国』。
聖剣を操る聖剣士により、凶悪な魔族――『ケルギジェ』が討伐され、王国は平和を取り戻していた。
十六歳の少年――『カッタ』は、王国内の地方集落である『ナコタ村』の牧師(聖職者)。
彼を慕う少女――『アミカ』に助けられながら、小さな教会堂を切り盛りしていた。
カッタはひょんなことから、魔法に長けた『ダークエルフ』の少女――『リリウ』と出会う。
ダークエルフは、上級魔族として知られる存在。
恐怖する人間も少なくはない。
しかしカッタは種族など気にせず、困っていたリリウに手を差し伸べた。
その態度を気に入ったのか、リリウはカッタの家を頻繁に訪れるようになる。
二人は次第に親しくなっていった。
ある日、村を野蛮な魔族――『タキシム』が襲撃してくる。
牧師は、魔法と体術を学んだ対魔族のスペシャリスト。
カッタはリリウと共に、タキシムを撃退。
カッタは、彼女の優しい内面を知る。
リリウは徐々に、ナコタ村で受け入れられていく。
彼女と、今まで以上に親しくなっていくカッタ。
夕食を共にしていると、不可抗力で、カッタがリリウを押し倒すような展開に。
そこに現れたのは、カッタの血のつながらない姉――『マルセラ』だった。
カッタがマルセラにリリウを紹介した翌日、謎のダークエルフの少女――『フィンネ』が出現。
話を聞こうとしたカッタに、彼女は攻撃を仕掛けてきた。
リリウの助力を受け、フィンネに対処するカッタ。
しかし意図せず、村の子供たちが巻き込まれる事態に。
その危機を、マルセラが救う。
彼女は聖剣『イープノス』を振るう聖剣士だったのだ。
件のフィンネは、どうやらリリウの知人。
女王になるという、どうにも過ぎた野心を抱く少女ではあるが、決して邪悪な魔族ではない。
フィンネは半ば強引に、カッタの家の居候になった。
和やかなある日、凶悪な魔族――『チノセパリック』が、突如としてナコタ村を襲撃。
カッタはマルセラと共に立ち向かい、無事勝利。
しかしマルセラに異変が生じ、なぜかフィンネに手をかけてしまう。
そこでカッタは、姉の中にケルギジェが潜んでいたことを知る。
国を混乱させたケルギジェの正体は『エディンム』という魔族。
肉体を持たない霊体魔族である彼が、すべての元凶だったことを理解する。
マルセラを助けるべく、カッタはリリウと協力してケルギジェに立ち向かう。
だが、外道なケルギジェを前に、カッタは追いつめられていく。
ついには、リリウが瀕死の状態に。
最悪の事態を覚悟した瞬間、イープノスの力が発動。
カッタとリリウは、聖なる魔力によって、無事にケルギジェを討伐した。
ナコタ村に、日常が戻った。
カッタと仲間たちの物語は続く――。
教会堂の窓を開ける。
静かな祈りの場に、緑の季節の風が吹き込んでくる。
清々しい日だ。
今日も俺は、いつものように朝の掃除。
先日の一件で、壊されてしまった壁や扉。
でも、村のみんなに協力してもらったおかげで、何とか修理も済んだ。
不格好ではあるが、一応、様にはなっているよな。
ほうきを手に作業を始めようとすると、不意に声をかけられる。
「おはよう、カッタ」
彼女だ。
出会った頃は考えられなかったけれど、あいつはもう、すっかり早起きになっている。
「おはよう、リリウ」
俺は、微笑みながら返した。
「手伝うよ」
「ああ、頼む」
少し前までは、一人でするのが普通だった朝の掃除。
もちろん、この村のみんなは、教会堂の雑務を手伝ってくれていた。
だけど早朝のこれだけは、日の出直後という時間帯も相まって、ほとんど俺だけでこなしていたんだ。
なのに今は、彼女が――リリウがとなりにいるのが、むしろしっくりくるくらい。
強制してなんかいないし、ベッドから叩き起こしたわけでもない。
それでも彼女は、いつからか毎日のように、俺の仕事をサポートするようになっていた。
素早くほうきを持ち出したリリウに、俺は笑ってしまいそうになる。
ここで火の魔力を発動させて、脅し文句で俺に食事を要求してきたダークエルフの女の子が、今は朝から掃き掃除――だもんな。
「……何、ニヤニヤしちゃって」
おっと、顔に出ていたらしい。
リリウが、いぶかしそうに言ってきた。
「あ、いや、何でもない」
ごまかしながら答える俺。
それをどう受け取ったのか、
「え、えっちなこと考えてるなら、あたしの魔法で黒こげにしちゃうからねっ」
彼女は自分の胸を抱きかかえながら、妙な想像を働かせていた。
「お、お前なぁ」
どうしてこいつは、俺の笑顔を見て、そういうおかしな発想しかできないんだ?
ほほを赤らめて、ほうきをこっちに向けてくんなよな、まったく。
「俺はただ、お前が、こうやって手伝ってくれるようになったことを、うれしく思っただけだよ」
俺が素直に伝えると、すでに赤くなっていた顔を、リリウはさらに赤くする。
「……そ、そう。ふ、ふーん」
そっけなく振り向いた彼女は、そそくさと掃除を始めた。
「か、感謝しなよ……あ、あんたが大変そうだから手伝ってあげている、このあたしにさ」
ぼそりと、恩着せがましくつぶやいて。
「はいはい、ありがとな、リリウ」
上から目線は少しムカつくけど、それでも、確かに感謝しなくちゃだよな。
そんなことを考えて、今日もまた、俺の一日が始まった。
ここは、ガーシュ王国にあるナコタ村。
村唯一の教会堂である、このナコタ教会堂を預かる俺――カッタは、一応牧師。
村のみんなに支えてもらいながら、何とか頑張っている半人前の聖職者だ。
そして、今はどういうわけか、ダークエルフの女の子と、一つ屋根の下で暮らしている。
ちょっと強気なところはあるけれど、すごく心の優しい、純粋な女の子と――。




