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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第1章 少年牧師と、ダークエルフの少女
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epilogue. つないだ手

 ケルギジェとの激闘から、数日が過ぎた。


 あの日に襲撃してきたチノセパリックの二人は、おそらく『器』の方のケルギジェ同様、今頃は王国管理下の牢獄に入れられていることだろう。


 村への被害はほとんどなく、幸いなことに――なのか何なのか、ナコタ教会堂の半壊が、一番のダメージだったっていう……まぁ、ね、うん。


 深手を負ったフィンネも、無事に回復。

 もちろんみんな喜んだけど、アミカちゃんは特にね。

 やっぱりどこかアミカちゃん、自分のことを責めていたのかもしれないな。


 そんなこんなで、また、いつもの日常。

 今日は教会堂の壁を、村の人に協力してもらいながら修理しているところだ。


「〈灰魔力による召喚アッシャサモン――マサン〉」


 フィンネが呪文で、小さな魔族を呼び出した。


「うわぁーっ、すっげぇ、フィンネお姉ちゃん」

「変なの、いっぱい出てきた」

「こいつら、よく見るとかわいいな」


 目の前で発動した魔法に、子供たちは興味津々。


「今回は、特別なんだよ、みんな。この教会堂を修理するために人手が必要だから、フィンネさんに頼んでいるだけなんだからね」

「「「はーい」」」


 アミカちゃんに返事をしてはいるものの、子供たちは完全にマサンしか見ていなかった。


 休憩がてら、そんな様子をながめていた俺に、


「カッタくん、手伝おうか?」


 マルセラ姉さんが声をかけてくる。


「何でも言って。お姉ちゃん、頑張るから」

「い、いいよ、姉さんは……向こうで、子供たちの面倒でもみててよ」


 基本的に不器用な姉さんには、下手に頼まない方がいい。

 よけいな仕事が増えて、きっと大変なことになるから。


「えぇーっ、カッタくんも、私を仲間外れ?」

「何だよ、それ……」

「だって今日は、フィンネちゃんが大人気で、誰も私と遊んでくれないんだよ」


 確かに、アミカちゃんから魔法使用の許可が出てるからな。

 この前の勇敢な行動の件もあるし、特にこれから数日、フィンネはみんなのヒーローになるだろう。


「責任とって、カッタくんが相手してよ」

「……いや、俺、修理しないとだから」


 村をあげて協力してくれてるのに、牧師の俺が遊んでたら、もう最悪じゃんか。


「とりあえず、お昼になるまで静かにしててよ。昼食は、また家でみんなと――」

「ふふっ」

「……何、姉さん、いきなり笑ったりして?」

「ううん、ごめんね――ちょっと、この前のことを思い出したら、つい」


 不意に姉さんが、俺の手を取った。


「あっ、姉さん……今、汚れてるんだからさ、あまり――」

「ちゃんと言ってくれたよね、カッタくん。私に『俺は、あなたをあきらめない――何があっても、ぜったいに』って」

「ああ……う、うん」


 あの日、俺が姉さんに伝えたこと。


 状況が状況だったってこともあるから、あらためて言われると恥ずかしいけど、きっとこれからも、あの気持ちを忘れることはないと思う。


 今までの恩返しも兼ねて、俺はずっと、姉さんを守っていきたいんだ。


「うれしかったんだよ、本当に」

「わ、わかってるからさ、ここでそんなことを――」

「大好きなお姉ちゃんのこと、あきらめなくていいからね、カッタくん」

「…………はい?」


 何かおかしな姉さんの言葉に、俺は、間抜けな声で聞き返してしまった。


「カッタくんの想いを受け入れる準備、いつでもできてるから……お、大人のふにふに、お姉ちゃんは待ってるよ」


 違う。

 何か、俺の伝えたかったことと違う。


「姉弟いっしょに、仲良く、身も心もつながろうね♪」

「ちょ、ちょっと、姉さん!?」


 言いたいことだけ言って、マルセラ姉さんは子供たちの方に駆けていってしまった。


 ……おいおい、マジじゃないよね、姉さん。


 残された俺が変な気分でいると、


「手を動かしなよ、このスケベ」


 となりのリリウが、不満げに俺を責めてきた。


「や、やってただろ、今まで――って、スケベって何だよ!?」

「スケベじゃん……お、大人のふにふに、姉ちゃんとしちゃうんでしょ? 身も心もつながっちゃうんでしょ?」


「するか、そんなことっ!! だいたい、ウチにはフィンネがいるんだぞ!? そんなことできるかっ!!」

「いなかったらしちゃうんだ?」

「揚げ足を取るなよ……お、お前だって、いるじゃんか、どうせ」


「…………」

「…………」


 なぜか、妙な沈黙。


 こそばゆくなった俺は、とにかく作業に集中した。


 すると、


「あたしもさ、あんたの姉ちゃんみたいなこと……言ってもいい?」


 視線を向けずに、リリウが俺に聞いてきた。


「な、何?」

「あたしが死んだら悲しいって……そう言ってくれたよね、あの時?」

「……言ったよ」


「いなくなったら嫌だって、そうとも……言ったよ、ね?」

「……だな」

「大切だ……みたいなことも、言ってた」

「…………」


 何だよ、これ、拷問かよ。

 やめてくれよ、そういうのはさ。


「……あたし、あんたと住もうかな、これから」

「えっ……」


 思わず、そう口から出ていた。


 もちろん今までだって、ほとんどウチに住んでいるようなものだったし、俺だって前に、似たような趣旨の提案をしたことだってある。


 けれど、リリウから言葉にされたことなんてなかったから、俺は不覚にも、少し戸惑ってしまったんだ。


「ほ、ほら、あれだよ!? あんたが姉ちゃんと『大人のふにふに』をしないか、ちゃんと監視しないとだし、フィンネだって、隙をみてはあんたを誘惑しようとしてくるみたいだから……あ、あたしがいないと大変でしょ、カッタも」

「り、リリウ……」

「それとも……あ、あたしじゃ、カッタは嫌?」


 見つめてきた彼女から、俺は視線を外せなくなっていた。


 なぜだか吸い込まれそうになっていって、気づけば自然と、適度に離れていた俺たちの距離が縮まってしまっていて。


 そこにはもう、リリウの艶やかなくちびるが――。



「あぁーっ!! 牧師のお兄ちゃんとリリウお姉ちゃんが『ちゅー』しようとしてるぅ」



 ふと現実に引き戻されるような、子供の声が聞こえた。


「あぁーっ、ちゅーだ」

「ちゅーだ、ちゅーだ」

「「「「「ちゅーぅ、ちゅーぅ、ちゅーぅ」」」」」


 いきなりの『ちゅー』コールに、


「そ、そんなことするわけないじゃん!?」


 リリウは顔を赤くして、子供たちに声を上げていた。


「……牧師さま。手を動かさないで、いったい何をしようとしてるんですか!?」

「ご、ごご、誤解だよ、アミカちゃん!? 俺はちゃんと、まじめに壁の修理を――」


「リリウに先を越されるわけにはいかないわ――ほら、カッタ。わたしと……ちゅ、ちゅちゅ、ちゅーするわよ、今すぐに」

「ば、バカなこと言うなよ、フィンネ!? どうせそんな度胸なんてないんだから、急に無理して――」


「カッタくん。男の子の欲望が抑えられないのなら、すぐにでもお姉ちゃんと大人のふにふにを――」

「ややこしくなるから、姉さんは黙っててっ!!」


 もう、とんでもない大混乱。

 これじゃ、修理が終わるのなんて、いったい、いつになるのやら。


「あぁーっ、もう!!」


 そこでリリウが、俺の腕をつかんだ。


「り、リリウ!?」

「いいから、行くよ」


 そう言った彼女は、そのまま外へ駆けだした。


「ぼ、牧師さま!?」

「カッタ」

「カッタくんっ」


 俺を呼ぶ三人に、リリウは、


「文句があるなら、つかまえてみればいいじゃん」


 からかい半分で伝えていた。


「逃げるよ、カッタ」

「……ったく、仕方ないな――じゃあ遅れるなよ、リリウ」


 俺は、彼女と走り出す。


 二人つないだ手は、今も、あの時みたいに――。

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