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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第1章 少年牧師と、ダークエルフの少女
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05/08. ナコタ村の死闘(6)

「まったく、つくづくじゃまなダークエルフだな――ふんっ」


 湿った音を立てて、リリウから引き抜かれるイープノス。

 赤いしぶきが、宙を舞った。


「……っ」


 力なく崩れるリリウを、俺は抱き留める。


「リリウ……リリウっ」

「ば、ばか……気を抜いて、るから、でしょ、もう」

「何で、何でだよ、リリウ!? どうして、どうして俺なんか――」

「わ、わかん、ない……何か、あんたに死なれたら、すごく、嫌だって、それだけ」


 弱々しいリリウの言葉をかき消すみたいに、


「かぁーっは!! 今のは、がっつり入ったな」


 ケルギジェは下品に笑っていた。


「て、てめぇ」

「素直に姉ちゃんごと俺を殺ってれば、全部丸く収まったのになぁ――かぁーっは!!」


 何なんだ、こいつは。

 この外道は、いったい何なんだ。


「でもやっぱ、聖剣士を器にするのは考えもんだな……調子に乗ってると、いきなり向こうに飲まれちまう――この村の連中を全員殺したら、こいつもさっさと始末した方がいいよなぁ」

「くそ野郎がっ」

「さぁて、どうするよ、弟くん? さっきの予定通り、このままの体で、俺が殺されてあげようか? まぁ、その直前に、俺はまた、どこぞに吹っ飛ばされたチノセパリックにおじゃまするけどな――かぁーっは」


 完全に余裕なのか、ケルギジェは聖剣を肩にして、俺を見下し続けている。


「ほらほら、ほっとくと、そのダークエルフが死んじまうぜ。手当してきなって。俺はその間、適当に村の連中を殺して遊んでるからさぁ」


 悔しいけど、やつの意見は正しい。

 急いで治療しないと、リリウが危ない。


「か、カッタ……」

「大丈夫だ、気をしっかり持てよ。俺が、お前を必ず――」

「ねぇ……あたしが、死んだら、あんたは、悲しい?」


「ふざけんなよっ、今はそんな――」

「ねぇ、教えて、よ……あたしが、死んだら、カッタは、どう、思うの?」

「悲しいよ、悲しいさ。大切なお前がいなくなるなんて、そんなの、そんなの嫌に決まってるだろーが!!」


 するとリリウは、


「そっか……なら、いいんだ、それ、だけで――えへへへへっ」


 場違いなほどの笑顔で、幸せそうにつぶやいていた。


「……へぇーっ、そうなんだぁ――お前ら、そういう感じなわけぇ?」


 汚らしく口元をゆがめたケルギジェ。


「なら、やっぱ、いっしょに死んどく? 今、ここでさぁ」


 赤く染まった聖剣を振り上げて、俺たちに迫ってくる。


「逃げ、て……カッタ」

「バカ野郎っ!! お前を見捨てるなんてでき――」

「だから、仲良く殺してやるってんだよっ!!」


 俺たち二人を白銀の刃が貫こうとした瞬間――強烈な光が、周囲全体を包み込んだ。


 温かい、聖なる魔法のエネルギー。


 姉さんが?

 いや、これは――。


「何なんだよ、クソがっ」


 聖剣、イープノスの力だ。


 俺はふと、自分の体が軽くなったことに気づく。

 さっきまで異様な熱を感じていた背中も、なぜか落ち着いてきたような。


「カッタ」


 腕の中のリリウが、俺に言う。


「治ってるよ、あたし……」


 確かめてみると、褐色の肌を貫いていた傷口は塞がっていた。

 さっきの出来事が、まるで幻だったみたいだ。


「くそっ! くそっ、くそっ、くそぉーっ!!」


 苦しそうにもがき出したケルギジェが叫ぶと、そのままばたりと倒れてしまう。


 直後、輝きの空間に出現したのは、溶かしたバターのような、くすんだ灰色の浮遊体。

 邪悪な魔力の固まりのごとき、実に不気味な存在だ。


『聖剣が、クソ聖剣がぁーっ!!』


 その下品な口調は、まさにあいつだった。


 やつが、ケルギジェ。

 ケルギジェの、正体。


『いいぜいいぜ、構わねぇ。聖剣も、聖剣士の体もいらねぇよ。俺はケルギジェ、ケルギジェだっ。器など、これからいくらでも見つけてやる――お前たちを、ここで殺した後にな』


 自分の足で立ち上がったリリウが、俺に尋ねてくる。


「あたしの中に、今まで感じたことのないような魔力が流れてくるの……これって、もしかして?」

「ああ。姉さんの聖剣――イープノスの力だ」


 リリウと同じように、俺も聖なるエネルギーを感じていた。


 イープノスが告げている。

 あいつを、ケルギジェを倒せ――と。


「やるぞ、リリウ」

「任せてよ、カッタ」


 俺たちは自然と、互いの手を取っていた。

『死ね! 死ね、死ね、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』


 継ぎはぎで、割れたようにいびつな叫びを上げながら、灰色の化け物――ケルギジェが俺たちに迫り来る。


 不思議と、手だけじゃなくて、まるで心までがリリウとつながっているような感覚。

 言葉を交わす必要すら、今の俺たちにはなかった。



「「〈聖善なる、魔法の火球セレイント・フレイツボール〉」」



 白い炎の魔力球体が、邪悪な怪物を貫いた。


『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


 禍々しき断末魔。

 聖なる光が収まっていくのと共に、ついにケルギジェは、完全にその姿を消した。


 やった。

 やったんだ、俺たち。


「リリ――うっ!?」

「やった。やったよ、カッタ」


 呼びかけようとした俺よりも勢いよく、彼女が俺に飛びついてきたんだ。


「り、リリウ……ちょ、ちょっと苦じい」

「あっ、ご、ごめん」


 慌てた様子で、リリウが俺から離れた。

 冷静になって、少し恥ずかしくなったんだろうな。

 顔が、何だか赤いし。


「……う、うん。ま、まぁ、平気だけど」


 そんなの、俺だってそうだ。


 状況が状況だったとはいえ、リリウと自然に手をつないでいたわけだし、それに今は、彼女の方から抱きついてきたんだ。


 俺とリリウの関係性を考えると、何だか……すごくこそばゆい気持ちになる。


「か、カッタ、ほら、姉ちゃん――カッタの姉ちゃん」

「そ、そうだな、うん」


 俺とリリウは、倒れているマルセラ姉さんに駆け寄った。


「……大丈夫、眠っているだけだ」

「うん――よかったね、カッタ」


 姉さんに触れながら、俺はイープノスに声をかける。


「ありがとう――姉さんと、俺たちを助けてくれて」


 そう伝えると、まるで俺への返事をしてくれたみたいに、イープノスはゆっくりと、風の中に消えた――聖剣士である姉さんへと、優しく戻っていくように。

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