01/04. 世話焼き少女は心配性(前編)
翌日。
天気のいい、春の朝だ。
都市部の教会堂には複数の聖職者が常駐していたりもするんだけど、俺が暮らすナコタ村は、のどかな田舎の集落。
教会堂どころか、村には俺しか牧師がいない。
牧師が一人しかいないわけだから、自動的に俺は、このナコタ教会堂の責任者。
とはいえ一人しかいないから、雑用から何から全部一人でやらなきゃならない。
まぁ、当たり前なんだけどさ。
だから俺は今日も、せっせと教会堂の掃除をしている。
村の人が、いつ訪れてもいいようにね。
ほうきを使いながら床のほこりを掃いていると、ゆっくりと扉が開く。
入ってきたのは、俺より少し年下の、かわいい女の子だ。
「牧師さま、おはようございます」
村の少女――『アミカ』ちゃん。
近所に住んでいる十四歳の女の子で、よく教会堂に遊びに来てくれる。
藍色の長い髪で、体型は細身で小柄。
まじめで優しいから、村での評判もいい。
ある意味、ナコタ村のアイドル的存在と言ってもいいかもな。
「おはよう、アミカちゃん。ずいぶん早いね」
「はい。私にできることがあれば、今日も何かお手伝いしたいなって思って」
アミカちゃんは、よく教会堂の仕事を手伝ってくれる。
それだけじゃなくて、俺の個人的な家事なんかも引き受けてくれたりして。
「そんな、いいんだよ、アミカちゃん。ここは小さな教会堂だし、俺だけでも、何とか回せるんだから」
「いえ、牧師さまには、いつもお世話になっていますから――これくらいは、私が」
何も言ってないのに、笑顔で俺のほうきをつかんで、自ら掃除を始めたアミカちゃん。
まったく、頭が下がるというか何というか。
「いつもありがとね、アミカちゃん」
「気にしないでください。好きでやっていることですから」
俺は立場上、自分なりには誠実に聖職者として働いているつもりだけど、果たして牧師じゃなかったら、彼女のように振る舞えるかどうか、まったく自信がない。
「それにしたってアミカちゃん、最近は今まで以上によく来てくれるよね? ここ一ヶ月くらいは、ほとんど毎日」
「え、ええ……そ、そうですね」
「俺としては全然うれしいんだけど、あんまり無理しなくてもいいんだよ、本当に」
「む、無理なんかしてませんよ。牧師さまのお手伝いをしたいのは本心からですし、そ、それに……毎日顔を出さないと、気が気じゃないっていうか」
ほうきを掃く手を止めたアミカちゃんが、見上げるようにして俺に聞いてくる。
「あ、あの、牧師さま……き、昨日も、あのダークエルフの女性――リリウさんを食事に招いたりしたんですか?」
「あ、うん。少し遅い時間に来たよ、あいつ」
なぜか神妙な雰囲気のアミカちゃんに、俺は答えた。
そしたら彼女、急にしょんぼりして、
「そ、そうですか……」
肩を落としたと思ったら、ふらふらとほうきに寄りかかってしまった。
「な、何かまずかった?」
「い、いえ、いいんですけど、いいんですけどね……でも一応、言わせてもらってもいいですか?」
「う、うん」
気合いを入れたようにしゃんとしたアミカちゃんに、俺は少し気圧されながらうなずいた。
「牧師さまは優しいし、たとえ相手が魔族の方だろうと、必要ならば手を差し伸べる、そういう素晴らしい聖職者さまだと思っています」
「ど、どうも」
「(……そ、そういうところに惹かれているんですから、私)」
「ん、何?」
「い、いえ、独り言です!?」
俺が聞き返すと、アミカちゃんは慌てながら話を続ける。
「と、とにかくですね、牧師さまの態度は尊敬に値しますけど、気をつけてくださいね。とにかく、とにかく気をつけてくださいね」




