01/03. 深い意味はないんだけれど(3)
「せ、せせ、聖職者のくせに、一人暮らしの家にあたしを招き込むなんて、なんてスケベなやつだっ」
「ちょ、ちょっと待て!? 俺が招き込んだんじゃなくて、むしろお前が押し入ってきたんじゃねーかっ」
夕食を要求してきたのは、どこのどいつだよ。
「あ、あれだね? 体で支払え――的な作戦だったんだね。『今まで食べた料理の代金、しっかりご奉仕で返してもらうぜ、げへへへへ』ってことだったんだねっ!!」
「誰ですか!? その『げへへへへ』は誰ですか!?」
「『今度は、俺がお前を料理してやる、げへへへへ』とか言って、あたしの体を油でぬるぬるにして、口にはできないようなことをいっぱいさせるつもりだったんだねっ!!」
「どうしていきなりマニアック!?」
誤解するにしても、もう少しストレートな想像にしてくれっての。
それと、再びの『げへへへへ』は誰なんだ、本当に?
「ふんっ。聖職者でも、やっぱり男は男だね。油断も隙もない。こんなところ、夜の森より危ないよ」
言いながらリリウは、座っていた椅子から立ち上がった。
「ナコタ村の少年牧師は、頭の中がスケベな欲望でいっぱいのエロエロ男子だって、いろんなところで言いふらしてやる」
「お、おい!? わけのわからない嫌がらせはやめてくれよ」
「あんたの弱みは握らせてもらったからね。ばらされたくなかったら、一生あたしに逆らわないことだよ」
捨て台詞のように言い放って、外に出ていこうとするリリウ。
弱みだの、ばらされるだのはとにかく、同じ歳の女の子に不本意な『エロエロ男子』扱いをされるなんて、さすがに困る。
「待てって、リリウ」
俺も椅子から立ち上がって、帰ろうとする彼女の腕をつかもうとした。
けれど慌てていたからか、テーブルの脚につまずいて、そのままバランスを崩してしまう。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
リリウを巻き込んで、俺は派手にこけてしまった。
ダークエルフでも、とっさに出るのは意外と女の子らしい声なんだな――とか思ったのも束の間。
気づけば俺は、リリウを押し倒すようにして上に乗ってしまっていたんだ。
「あ、い、いや、ち、ちち、違うんだ、これは」
今日までの関係を通して俺が知ったリリウだったなら、ここで俺をひっぱたいたり、場合によっては魔法の呪文を唱え出したり、何となくそんな展開になりそうなものだと身構えたんだけど、
「……す、スケベ」
意外にも彼女は、赤くなっていた顔をさらに赤くして、小さく一言つぶやいただけだった。
十代の男子として、ちょっとどうにかなってしまいそうなほど魅力的なリリウの反応に、俺は何だか、すごくいけないことをしてしまったような気がして、
「ご、ごご、ごめんっ」
俺は飛び跳ねるような勢いで、横たわる彼女から離れた。
「…………」
大声を上げることはもちろん、俺をののしることさえなく、ただリリウは無言のまま、静かに立ち上がった。
そのまま去っていきそうな彼女に、俺は思わず声をかける。
「ま、また、いつでも来いよ。村の人からのおすそ分けとかあって、一人じゃ食べきれないくらいに、食べ物はもらったりするからさ」
俺の家のドアの前。
リリウは立ち止まってくれたけど、数秒間、何の反応もしてくれなかった。
けれど、
「あんたが来てほしいって言うなら、これからも……仕方なく来てあげてもいいよ」
しばらくして振り返ったリリウは、一度俺を見てはにかんで、それからすぐに外へ駆けていく。
開けっ放しの扉と、一人残された俺。
夜に溶け込んだ彼女の姿を、灯りに照らされた部屋から目で追うことは、もうできなくなっていた。




