05/06. ナコタ村の死闘(4)
「おーい、どうする、まだやるか?」
倒れた俺を、ケルギジェがのぞき込んでくる。
「んっ……は、んっ」
「ははっ、もう答えられないか? じゃあ、そろそろ死んどこうぜ、弟くんよ」
ぼやける視界の中で、ケルギジェが鋭い爪を俺に向ける。
やられると覚悟した――その時だった。
「〈魔法の火球〉」
また、あの声。
また、あの呪文。
「ちっ……」
火の魔法から逃げるように、ケルギジェは舌打ちをしながら後退した。
「じゃまなダークエルフが」
毒づくケルギジェ。
「大丈夫、カッタ?」
「……ああ。今度も、お前に助けられちゃったな」
正直、諦めかけてた。
けれどこいつが――リリウが来てくれた。
「どういう状況なのか、あたしには全然わからないんだけど」
「あいつは正真正銘、あのケルギジェだ。やつの正体はエディンムっていう霊体魔族で、さっきは姉さんに、今は、あのチノセパリックの女性に入り込んでいる」
「エディンム……そう、そういうこと」
俺が伝えると、リリウは納得したようにつぶやいていた。
「じゃあ、ぜったいに倒すしかないよね、カッタ」
「そうだな……協力してくれるか?」
「あったり前でしょ」
立ち上がった俺に、リリウは力強く答えてくれた。
「くくっ、いいぜ、来いよ。人間の男とダークエルフの女――殺れる獲物が増えて、こっちは好都合だぜぇ」
頭の揺れは治まったみたいだ。
けれど、やはり出血が止まらない。
痛みは消えたけど、果たしてどれだけ持つか。
リリウと二人。
もう、次の勝機で仕留めるしかない。
「……援護は頼んだぞ、リリウ」
彼女に告げて、俺はケルギジェに突進する。
「満身創痍、いいねぇ、お前っ」
「〈土魔力による具現化――剣〉」
俺の土魔力の剣が、ケルギジェの首元へ向かう。
身を引いたやつは、そのまま後転。
流れのままに、逆立ちのような蹴りを放ってきた。
回避した俺は、すぐにまた距離を詰める。
攻撃の手は緩めない。
体勢の整っていないケルギジェの隙を突いてやる。
「はっ」
しかし俺の振り下ろした剣を、やつは器用に両足で裁き、
「残念」
着地と同時に、爪を前に飛びかかってきた。
「ぐっ」
「おっ、セーフだな、弟くん」
必死で受け止めた俺を、からかうようなケルギジェ。
こいつは本当に、命を狩ることに馴染んでしまっている。
ほぼ密着状態の俺は、呪文を唱えて、左手から火の玉を撃ち出す。
「〈魔法の火球〉」
「んっ!?」
やはりチノセパリックは、種族として、魔法に対する耐性がないみたいだ。
確実に、ダメージが入った。
「伏せて、カッタ!!」
背中から聞こえた声に、俺は反応する。
「〈魔法の風圧〉」
ひるんだケルギジェを強烈な風が飲み込み、やつは茂みの奥へ吹き飛んでいく。
やったか――と思った瞬間、俺の横を、形なき灰色の何かが通り過ぎて。
まずい。
「リリウっ!!」
とっさ振り返り叫んだものの、彼女は俺の言葉の意味に気づいていない。
「本当にじゃまだな、お前」
いつの間にか、そこに立っていたケルギジェに。
やつが入り込んだ、マルセラ姉さんに。
イープノスを持つ右手が、リリウに向かう。
「〈魔法の火球〉」
考える暇すらなく、俺は呪文を唱えていた。
赤い魔法の球体が、ケルギジェの右側をかすめる。
かろうじて剣線をずらしたものの、
「きゃっ!?」
リリウの肩に、白銀の刃が走ってしまった。
「くっそ――〈魔法の風圧〉」
けん制の風魔法でケルギジェを後退させ、俺はリリウの元へ。
「大丈夫か、おい!?」
「あ、慌てないでよ、まったく……ただちょっとかすっただけ。あんたの背中の方が、何倍もひどいって」
強がりも少しはあるだろうけど、部位からして致命傷にはなっていない。
とりあえず、リリウは平気そうだ。
とはいえ、
「お前らも二人、俺も二人」
俺はこいつに勝てるのだろうか。
「フェアだろ、ある意味――かぁーっは」
姉さんと一体となっている、この魔族を。




