05/03. ナコタ村の死闘(1)
「やめて、やめてくださいっ」
俺たちが駆けつけると、子供たちを背にしたアミカちゃんが、悲痛の表情で叫んでいた。
「やめてください、マルセラさんっ!!」
一瞬、何が何だか理解できなかった。
横たわっているのは、チノセパリックの女性。
気を失っているのか、もはや動く気配もない。
そんな彼女を踏みつけるようにして立つ、マルセラ姉さんの姿。
右手には、聖剣のイープノス。
そして左手はフィンネの首元をつかみながら、高く高く掲げられていた。
「かっ……は、あっ」
苦しそうなフィンネを見やりながら、マルセラ姉さんは、かすかに口元を緩めていた。
「姉さん……姉さんっ!!」
無意識に、とっさに――わけがわからないままに、俺は呼びかけていた。
「ぼ、牧師さま」
俺に気づいたアミカちゃんは、泣きそうな目をしていた。
「マルセラさんが、あの魔族の女性と戦って、それで私たちを守ってくれたんです。けれど、急に……私たちに剣を向け出して」
信じられなかった。
何かの間違いだと、そうとしか。
「わ、私、フィンネさんのこと、やっぱりどこかよく思えていなくって……けれど、けれどすぐに、フィンネさんは私たちをかばってくれて、それで、それで――」
一連の出来事を受け入れることができなくなってしまったんだろう。
アミカちゃんは、崩れるように泣き始めた。
突然の襲撃、恐怖と安堵――からの、この現状。
無理もない。
優しい彼女のことだ。目の前の光景についてはもちろん、フィンネに対する罪悪感みたいなものも、もしかしたら――。
「かっはぁーっ!! いつの間にか、ずいぶんとにぎやかになったもんだ」
何もできずに固まってしまっていた俺をあざ笑うみたいに、マルセラ姉さんは、フィンネを無慈悲に投げ捨てた
「かはっ……は、あっ、あ」
「お前さぁ、弱いんだから、しゃしゃり出てくんじゃねぇよ、クソアマダークエルフが――ふんっ」
「がっ!?」
口汚い言葉でののしると、姉さんはフィンネを蹴り飛ばした。
「フィンネっ」
地面を転がったフィンネに、リリウが近づく。
何なんだ?
これは、いったい何なんだよ。
「あーあ、やっとだよ、やっと」
マルセラ姉さんは肩を回しながら、らしくない雰囲気で独り言ちている。
「ったく……今日まで、マジで長がったぜ」
違う。
あれは、マルセラ姉さんじゃない。
口調が、仕草が、表情が、身にまとう魔力が――そのすべてが、俺の大切な姉さんとはまるで違っていた。
「……お前は、誰だ?」
「えっ……」
いち早く、ある意味おかしな俺の言葉に反応したのは、フィンネを抱きかかえているリリウだった。
「あん?」
「お前は誰だって、そう聞いてんだよっ!!」
姉さんの声で、姉さんの顔で、気だるげに応じてきた相手に、俺は感情をぶつけた。
「姉さんを――マルセラ姉さんを返せ」
「……あ、姉さん? 何、お前、こいつの弟か?」
姉さんは――いや、姉さんじゃない何者かは、マルセラ姉さんのことを『こいつ』と表現した。
「俺が誰か、ね――まぁ、復活を祝して、五年ぶりに名乗るのも悪くねぇな」
……五年ぶり?
まさか、あいつは――。
「俺はケルギジェ。このクソ女に借りがある、人殺し大好きな魔族さまだよ――はぁーっは」
ケルギジェ――と、やつは確かにそう言った。




