05/02. 対チノセパリックの武人(後編)
「くっ……はぁ、はぁ」
「ほう、まだ気力があるか――おもしろい」
ふらつきながら起き上がった俺に、チノセパリックの武人は、その獣の口をゆがめた。
「聖剣士を狩る肩慣らしとして、お前は十分な人間だ」
「……の、のんきなこと言ってんじゃねぇよ。お前の仲間、今頃、姉さんが片づけちゃってるかもしれないんだぜ」
「仲間――などという関係ではない。同族であること以外は、互いが求める戦いの興奮のために、ただ利害が一致しているというだけだ」
「あらら……見た目だけはきれいなお姉さんだったのに、もったいない。てっきり、いい関係なのかと思ったぜ」
軽口を叩きながら、俺は呼吸を整える。
「だったら紹介してくれよ、あのお姉さん。俺、魔族だからって、変な偏見を抱かないタイプだからさ」
「死にたいなら好きにすればいい。あいつは、人間が好きだからな――人間の、その体を裂くことが、何よりも」
「……残念。だったら、俺のタイプじゃないな」
さて、どうするか。
魔法は有効。
とはいえ遠距離からじゃ、あのこんぼうで強引にかき消されてしまう。
ダメージを与えるなら、さっきみたいに、しっかり中に入り込まないと。
「いくらあのお姉さんがセクシーでも、あまりに過激すぎて、俺の身が持ちそうにないし――正真正銘、文字通りに」
姉さんは、大丈夫だろうか。
俺の目の前にいるこいつの戦闘力から考えれば、あっちのチノセパリックの女性も、相当な魔族のはず。
しかも、かなりゆがんだ趣味を持っているみたいだし……。
もちろん、姉さんは聖剣士。
たとえ強敵のチノセパリックが相手でも、そうそう負けるなんてあり得ない。
けれど、一抹の不安が拭えない。
『……まだ、痛むんだ?』
『たいしたことないんだけどね。ここ最近、急に――』
古傷に、違和感を覚えていた姉さん。
わずかではあったけれど、俺の見る限り、動きも完璧じゃなかった。
まさかとは、思うけど――。
「安心するがいい。お前が、あいつにもてあそばれることなどない――ここで俺が、お前を殺すからだ」
考えても仕方がない。
俺のやるべきことは、姉さんを信じて、
「祈れ、小僧――人生最後のな」
全力でこいつを、倒すことのみ。
「……〈土魔力による具現化――剣〉」
再び土の剣を創り出した俺は、チノセパリックの武人に構えた。
直後、まるで転がる岩石のように飛び込んでくる、巨大な体。
俺は逃げることなく、正面から立ち向かう。
「死ね、小僧っ!!」
横薙ぎの大振りを剣で受けながら流される俺。
身を縮め、腰を落とす。
弾き飛ばされないように重心を移動させながら、回り込むようにして、チノセパリックの側面をとらえた。
地面を蹴り、右手の剣を突き出す。
「甘いっ」
革の籠手の部分で刃の面を弾かれた――が、やつの脇が完全に開いた。
左手をかざし、呪文を唱える。
「〈魔法の火球〉」
「んくっ……」
火の魔法に、やつは声を漏らしたが、まだ浅い。
「舐めるなよ、小僧っ」
胴をねじるようにして、強引に向かってくるこんぼう。
俺は両手で土の剣を持ち、全身を使って振り上げた。
しかし、それでも力負け。
やつの攻撃の軌道は反らせたものの、俺の剣は、またしても砕かれてしまった。
「勝負あったな――死ね、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
無防備な俺の頭上には、巨体の魔族から繰り出される荒々しいこんぼう。
やられる――そう思った瞬間、
「〈魔法の風圧〉」
あいつの声で、風魔法の呪文が聞こえた。
「何っ!?」
風の魔力で、やつの攻撃が一瞬止まり、
「カッタ!!」
鼓舞するような呼びかけが、俺の耳を打った。
直後、一歩前へ。
がら空きの腹部に、零距離で、直接――叩き込む。
「〈魔法の火球〉」
「がはっ!?」
かすれたうめきを残したチノセパリックの武人は、俺の前で、白目をむいて倒れた。
「はぁ……っはぁ」
ギリギリだった、本当に。
俺はその場で、ひざをついてしまう。
「カッタ」
駆けつけてくれたのは、リリウだ。
「……悪い、助かった」
「いいって。何言ってるの、まったく」
こいつがいなければ、きっと俺はやられていた。
リリウが呪文で援護してくれたから、だから俺は勝てたんだ。
「み、みんなは?」
「大丈夫、フィンネが守ってくれてる」
「姉さんは?」
「わからないけど、たぶん、カッタの姉ちゃんなら負けるはずがないでしょ。だって、あのケルギジェを討伐した聖剣士なんだから――立てる?」
「ああ、大丈夫だ」
リリウに答えて、俺は体を持ち上げる。
「とにかく戻ろう。姉さんが心配だ。まさかとは思うけど、万が一ってこともあ――」
「助けて!! 助けて、牧師のお兄ちゃんっ!!」
そこに現れたのは、村の男の子。
必死の形相で走ってきて、戸惑いながら俺に訴えてくる。
「お姉ちゃんが、マルセラお姉ちゃんが――」




