05/01. 対チノセパリックの武人(前編)
「うらぁーっ」
チノセパリックのこんぼうが宙を切る。
教会堂を飛び出してからも、やつが攻撃の手を緩めることはない。
「〈魔法の火球〉」
「ちっ……」
魔法でけん制しつつ、俺は犬頭の魔族と距離を保つ。
単純な力勝負じゃ勝ち目がない。
体格差は、見れば明らかだ。
「逃げているだけか? さっきの勢いはどうした?」
「お前こそ、俺みたいな『雑魚』相手に、ずいぶんと息が上がってるんじゃないか?」
「ほざけっ」
巨体に似合わず素早く突進してきたチノセパリックは、そのまま横薙ぎにこんぼうを振る。
「くっ」
土の魔力の剣を構えて受けたものの、やはり衝撃が重い。
腕だけじゃ、とても耐えきれないくらいだ。
打撃を流すようして、俺は後退する。
逃げるつもりなんてないけど、むやみに突っ込める相手じゃない。
「ふんっ、小僧にしてはよく動く」
「そりゃどうも」
「しかし、小僧にしては――だ。人間ごときに、チノセパリックが負けるはずがない。お前を片づけたら、次は聖剣士の首を掻かねばならぬのだからな」
「……お前、どうして姉さんを?」
いきなりの襲撃だ。
この展開は不可避だった。
けれどなぜ、こいつやもう一方のチノセパリックが、ナコタ教会堂の壁をぶち破ってまで現れたのか、その理由が俺にはわからない。
「ほう……お前は、あの聖剣士の弟か? おもしろい」
こいつらは初めから、聖剣士である姉さんの存在を認識していたみたいだった。
もしかして――。
「同族であるケルギジェの復讐かよ? だったらお門違いだぜ。姉さんに敗れたやつは力を失い、王国の牢獄で死ぬまで幽閉だ。会いたいのなら、ガーシュの役人にでも申し出るんだな」
「ぬかせ、小僧。ケルギジェなど、もはや過去の存在。人間に討伐されたかつての『狂獣人』は、我らチノセパリックの恥でこそあれ、仇討ちなどをする価値もない」
「……だったら、どうして?」
「チノセパリックは偉大な魔族。血と戦いを求め、死体の山の頂に立つ優良種。敗者とはいえ、ケルギジェは山の頂に立ちかけた男だ。そのケルギジェを倒したのが、あの聖剣士――チノセパリックの武人として、興味を抱かない方がおかしい」
つまり、こいつは――。
「俺がチノセパリックである以上、人間だろうが魔族だろうが、殺したいやつは殺すまでだ」
「……そうかよ」
いいぜ、好きだよ、やってやる。
こういう狂ったやつは、迷うことなくぶっ飛ばせるからな。
「はぁーっ」
今度は俺から仕掛けた。
土魔力の剣を突き出しての接近。
「ふんっ」
こんぼうで刃先を流されたけど、すぐに回転。
俺は体術の方が得意なんだ。
「うらぁーっ」
やつの左脚に蹴り込む。
体格差があるから、ローキックというより、ミドルに近い勢いで。
当たったけど、そこはチノセパリック。
まるで丸太を蹴り込んだような感覚だった。
「軽いな、小僧――んらっ」
こんぼうが俺の頭に落ちてくる。
引くか?
いや、攻める。
「〈魔法の火球〉」
俺は手でねじ込むようにして、やつの腹部に火の玉を放ってやった。
「がっ!?」
効いてる。
さらに――。
「〈魔法の風圧〉」
『風の魔力』の呪文で、巨大な体を吹き飛ばす。
「んおっ!?」
衝撃に飲まれたチノセパリックは、そのまま奥の雑木林にまで転がっていった。
火と風の魔力での連撃。
これで終わればありがたいけど、しかし、そうはいかないらしい。
「……訂正しよう」
茂みから起き上がったチノセパリックの武人は、さらに殺意の気配を強めていた。
「『小僧にしては』から『人間にしては』に格上げしてやる――うおぉぉぉっ!!」
吠えながら迫りくる、チノセパリック。
大薙ぎのこんぼうから、体術をも合わせた連続攻撃を仕掛けてきた。
「ふんっ、はっ、はぁーっ」
回避はできる。
だが、手数を出されると、攻め込むことができない。
「くっそ」
土魔力の剣を振り上げたものの、
「はぐぁっ!!」
「なっ!?」
大きく開いたやつの口に噛み砕かれて、魔法の効力がかき消されてしまった。
「〈魔法の――〉」
「遅い」
とっさに呪文で対応しようとした俺の腹部に、重い衝撃が走った。
「がはっ!?」
土の魔力の剣で防ぐこともできないから、完全に直撃。
今度は逆に吹き飛ばされてしまった俺は、砂ぼこり立ちこめる地面に、弾かれながら倒れてしまった。




