04/10. 強襲(後編)
「下がって、アミカちゃん――早くっ」
突如として現れた男を見据えながら、俺は叫んだ。
「ふっ……どうやらお前は、ただ目を閉じて祈りを捧げるだけの牧師ではないようだな。しかし、雑魚に用はない」
この男は――この魔族は『チノセパリック』。
強靱な肉体と、野犬の頭部を持つ存在。
そして、
「手合わせしてもらうぞ、聖剣士」
あの狂獣人――ケルギジェと同族の凶悪な魔族だ。
「我らチノセパリックを狩るのは得意だろう、聖剣士よ」
チノセパリックの男は、子供たちを背に構える姉さんに向かって、挑発気味に呼びかけていた。
「な、何なのよ、あなたたち!? いくら何でも、あまりに――うわっ!?」
一連の出来事に反応を見せたフィンネが、驚きの声を上げる。
再び、教会堂の壁が破壊されたからだ。
「ダメじゃない、抜け駆けなんてしちゃ」
次に現れたのは女性。
紫色の長い髪、細身の長身。
切れ長の目は、どことなく官能的だ。
大人の色気――とでもいうのだろうか。
気だるく身につけたゆるい布地が、独特の雰囲気を強調している。
とても、建物の壁をどうこうできるようには見えないけれど……。
「私も最近、人間の肉の感触を、味わってないんだから」
「……聖剣士以外は、好きに殺ればいい」
「どうせなら、私も一番おいしいところをいただきたいわ」
どうやら、あの二人は仲間のようだ。
しかも、ずいぶんと不穏な間柄らしい。
「ならば、早い者勝ちだな」
「そうね、わかった――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
答えた謎の女性が叫ぶと、見る見るうちに、その姿が変化していき、
「……ふぅ、やっぱり血がたぎるわね、ふふっ」
巨体の男と同じく、頭部が野犬のそれになった。
くっ。
チノセパリックが、二体。
「リリウ、フィンネ――アミカちゃんと子供たちを頼むっ!!」
「え、あ、ちょっと、な――」
「任せて」
フィンネは戸惑っていたが、リリウはすぐに返事をしてくれた。
「……カッタくん、ちょっと手伝ってもらえる?」
「もちろん、初めからそのつもりだよ」
ゆっくりと進んできた姉さんに、俺は答えた。
「雑魚に用はないと言っただろう――んらぁっ!!」
「〈土魔力による具現化――剣〉」
鈍い音が耳を打ち、重い衝撃が俺の腕を走った。
「……雑魚かどうか、確認してみるか、犬頭?」
『土の魔力』で剣を創り出した俺は、チノセパリックのこんぼう攻撃を、瞬時に受け止めていた。
「こ、小僧っ……」
交差する土の魔力の剣とこんぼう越しににらみ合う俺たち。
こいつらは、リリウやフィンネとはもちろん、村にさまよい出てくるようなタキシムとも違う。
争いと血を自ら求める、明らかに危険な魔族だ。
「あら、話がまとまったみたいね?」
女性のチノセパリックは、どこか楽しそうだ。
「だったらあなたが、私の相手をしてくれるってことよね、聖剣士さん?」
「……私としては、気が進みませんけどね」
「あらら。じゃあ、相手をしてくれないと、そこの人間やダークエルフ、みーんな殺しちゃう――って言ったら?」
「迷うことなく全力で、あなたを潰します」
「うふっ、いい目♪」
互いに視線で火花を散らすこうちゃく状態の中、
「……我が声に応えよ、イープノス」
姉さんは静かに、聖剣をその手につかんだ。
「覚悟はできているんだろうな、小僧?」
「そっちこそ、村の教会堂を壊した代価は高くつくぜ、犬頭」
次の瞬間、俺たちの戦いが始まった。




