04/08. 姉弟の時間
夕食後。
いまだに言い合っているリリウとフィンネを残して、俺は姉さんが使っている部屋へ。
「……優しくしてね、カッタくん」
「冗談はやめてくれよ、もう」
ベッドの上で背を向けて、白い肌をあらわにした姉さんに、俺はあきれ半分。
「お姉ちゃんとしては、完全に冗談――ってわけでもないんだけどなぁ」
「はいはい――じゃあ、やるよ。あんまり遅いと、またあの二人が、わけのわからないことで騒ぎ出すかもしれないから」
俺は昨日と同じく、姉さんの傷跡に薬草の軟膏を塗る。
「あっ、ん……や、やっぱり、つけるとちょっとヒヤッてしちゃうね」
自然と反応してしまった姉さんが、恥ずかしそうにつぶやいていた。
「……まだ、痛むんだ?」
「たいしたことないんだけどね。ここ最近、急に。目の前にすると痛々しく見えるかもしれないけど、傷が塞がってからは、本当になんでもなかったんだけど……」
姉さんの背中の傷は、ケルギジェにやられた時のもの――らしい。
俺は実際に見たわけじゃないけど、聖剣士の体にこれだけのダメージを負わせられる相手は限られている。
まず、間違いないだろう。
「今日、少し動きがおかしかったよ、姉さん」
「えっ?」
「フィンネが召喚したマサンから、アミカちゃんや子供たちを守った時……わずかだけど、ぎこちない感じがした」
俺は、あまり剣術を得意としていない。
けれど今の俺は、不安と悔しさを胸に抱きながら、姉さんを見送ることしかできなかった頃の子供じゃない。
魔法と体術――誰かを守るために必要な力は、最低限身につけているつもりだ。
だから、そういうのもわかる。
「……そっか。気づくような人なんていないって思ってたけど、すごいね、カッタくん」
聖剣士。
聖剣に、選ばれた存在。
目の当たりにする姉さんの傷跡には、正直、心が揺れる。
何となく思い出した。
当時の俺は、聖剣を――姉さんを選んだイープノスを恨んでいたことを。
だってそうだろ?
もしもイープノスが姉さんを選ばないでいてくれたら、姉さんは聖剣士になんてならなかったし、こんな傷を負うこともなかったはずだから。
まぁ、ずいぶんと自分勝手で子供じみた逆恨みなんだけど、あの頃は、本気でそう考えていたっけな。
恥ずかしさ半分で懐かしめるようになったってことは、俺も少しは成長できたのかもしれない。
それもこれも全部、マルセラ姉さんが無事に使命を果たして、俺の元に戻ってきてくれたから――なんだよな。
「無理しないでよ、姉さん、頼むから」
「うん、ありがとね」
ケルギジェが倒れ、平和な時代が訪れた。
だから今、聖剣士の姉さんが本気を出さなくちゃならない相手なんて、そうそう出会うはずもないだろうけど、それでも弟としては――家族としては、すごく心配になるものなんだからさ。




