04/05. 続・わちゃわちゃな教会堂(2)
「……まだいたの、フィンネ?」
「いるわよ、ずっといるわよっ」
本気なのか、からかっているのか――リリウの問いかけに、フィンネは声を荒らげた。
「カッタもあたしも、あんたの仲間になんかならないから――はい、終わり。じゃあ帰って」
「な、何よ、それ!? あ、あなたはとにかく、カッタは少し、私の魅力に心揺らいでたんだからねっ」
「……あんたね、自分から『私はあなたと違って、もう大人の女なんだから』とか言ってたくせに、結局カッタに押し倒されたら、顔を真っ赤にしてたじゃないの」
「はうっ!?」
「なんちゃってビッチの振りなんかしても、何の役にも立たないよ、そんなの」
リリウがズバッと、フィンネに指摘する。
まぁ、そういうことなんだろうな。
これは女の子じゃない俺でも、何となくわかる。
「く、くぅぅ……わ、私が本気になれば、どんな男の子だってイチコロなんだからねっ」
図星だからか、悔しがるフィンネ。
けれど俺としては、背伸びした小悪魔的仕草で迫られるより、同世代の女の子らしい恥じらいのある表情を見せられた方が、正直、何倍も『やばい』って思っちゃうけどな。
「バカなこと言ってないで、さっさとどっかに行っちゃってよ。この村には、あんたの野望に協力するようなやつはいないんだから」
「ぐ、ぐぅぅぅっ」
リリウにあしらわれて、フィンネはぐうの音も――もとい、ぐうの音しか出ない。
悪い魔族じゃなさそうだけど、その胸に抱いている目的といい、いきなり仕掛けてくる攻撃性といい、ちょっと面倒な女の子だな、フィンネは。
まぁ、リリウには完全にフラれたわけだし、俺を誘惑してどうこうっていうのも、根は純粋な彼女には無理そうだ。
旅をしているみたいだから、これで去ってくれることだろう――なんて思っていたら、フィンネがとんでもないことを言い出す。
「い、いいわ、決めた――私、ここに残ってカッタをメロメロにしてやるわっ」
「…………え?」
突然、俺を指さしてきたフィンネに、俺は理解が追いつかない。
「な、何でそうなるの、フィンネ!? もう用はないんだから、あんたはさっさと――」
「ふっふっふ、戸惑っているみたいね、リリウ」
立ち上がったリリウに、フィンネは満足そうに笑う。
「あなたの言葉を信じるなら、カッタは別に彼氏とかじゃないんでしょうけど、少なくともあなたにとって、彼が親しい男の子だってことはわかったわ」
「そ、そんなこと……」
「カッタが私に夢中になれば、私をこけにしたリリウにも復讐できるでしょ? それに、カッタを取られたのが悔しくなって、もしかしたらあなたも、私の勢力に加わることになるかもしれないし」
うわぁ、ずいぶんと都合のいい計算だな、フィンネ。
「勝手なこと言わないでよっ。あたしたちに対してならまだしも、あんたさっき、アミカや子供たちにさえも、召喚したマサンを仕向けたじゃない。村の中で呪文を唱えるような、そんな――」
「あれはたまたまよ。別に、狙ってやったわけじゃないわ。だいたい、聖剣士がいたんだから、結果的に問題なかったじゃない」
「あ、あんたねぇ」
「本当に丸くなっちゃったわね、リリウ。自分から人間を襲うようなことはしなかったまでも、他の魔族がどうしようと、いちいち文句なんか言わない感じだったのに」
確かに、リリウは変わってきたかもな。
最初から凶暴な魔族ではなかったけれど、何ていうか――『悪くはない』から『心優しい』になってきたって感じ。
「私はね、この国を支配してやろうとしている、崇高なダークエルフよ。たとえ同族だからって、そもそも私に、あなたの考えを押しつけようとするのが無理な話なんだから」
「……なら、もしもあんたが、本当にこの村の人に手を出すようなら、あたしは――本気であんたと戦うよ」
にらみ合う、ダークエルフ二人。
一瞬、身を刺すような空気が教会堂を包み込んだ。




