03/12. 白銀の刃(後編)
「ナコタにダークエルフがいるって耳にしたから来てみたけど、やっぱりあなただったのね」
「…………」
「どういうつもりか知らないけど、こんな田舎にいて何が楽しいのよ?」
「…………」
「私といっしょに、もっと大きなことしたいって、あなただって本当はそう思っているでしょうに?」
「…………」
一方的に語る彼女に、リリウは無言のまま。
答えたくないのか、あるいは――答えられないのか。
「……知り合いなのか、彼女と?」
俺のとなりに立つリリウに尋ねると、
「ううん、知らない娘、全然」
リリウは、はっきりそう言った。
「な、ちょ、ちょっとあなた、それはないんじゃないかしら!?」
悠然とした態度だった彼女が、リリウの返事に慌てふためく。
「わ、私よ、私!? ほら『フィンネ』よ、フィンネっ」
「……さぁ?」
「な、何よ、それっ。前に会ったでしょ!? それで私があなたに――」
「カッタ、ああいう女の子に関わるのはやめた方がいいよね、きっと。最近、何かと物騒だから――うぅぅ、怖い怖い」
「無視してるんじゃないわよ、リリウっ!!」
他人の振り(?)をしているリリウに、自分のことを『フィンネ』と名乗った女の子。
彼女の妄想とかじゃなければ、リリウの名前を知っている以上、まったくの見ず知らず――というわけじゃないと思うんだけど。
「お、おい、いいのか、リリウ? あの娘、お前に用があるみたいだぞ。ダークエルフ同士、友だちとかじゃないのか?」
「友だちのはずがないじゃん、あんな娘」
「その台詞だと、知り合いくらいではあるんだな。だったらさ、事情はわからないけど、とりあえず――」
「いいわよ。だったら、思い出させてあげるわっ!!」
リリウの反応に怒ってしまったのか、ダークエルフの少女――フィンネは、またしてもあの呪文を唱える。
「〈灰魔力による召喚――マサン〉」
複数の小さな爆発の中から現れたのは、くすんだ灰色のマサンたち。
けれど今回は数が多くて、ざっと十体くらいは確認できる。
くそっ、やっかいなことを。
「とりあえず――何、カッタ?」
「とりあえず、こいつら全部制圧しようぜってことだよ」
リリウにそう答えた俺は、素早くマサンの群れに飛び込んでいく。
「ギィーッ」
「ギ、ギィ」
ジャンプしながら、右左の拳――ヒット。
さらに、
「ギギィーッ」
横から向かってきた別の一体に回転蹴り。
これで、まずは三体。
「リリウっ」
「わかってるよ――〈魔法の火球〉」
俺の呼びかけに応えてくれたリリウが火の魔法を放ち、
「ギィーッ!?」
四体目のマサンも撃破だ。
「な、何やってるのよ、あなたたち!? もっとシャキッとしなさいよっ」
術者であるフィンネに背中を押されたからか、なおもマサンたちは攻撃の手を緩めてはくれない。
「ギッ」
「ギギッ」
「ギィーッ」
俺とリリウは協力しながら、さらに三体を倒すも、それでも灰色の怪物の姿は消えない。
あと二体ほど、俺の視界で確認できるんだ。
「カッタ、下がって――〈魔法の火球〉」
俺が横に跳ねると、リリウの魔法が、さらに一体のマサンを貫く。
これで、残りのマサンは一体――そう思った時だった。
「うわぁーっ、魔法だ」
「うん。火の玉が、ぶわーってなってた」
「やっぱ、リリウお姉ちゃんってすごいんだね」
教会堂にいた子供たちが、なぜかすぐ近くに来ていたんだ。
「だ、ダメだよ、みんなっ」
必死に駆けてくるのはアミカちゃん。
きっと、好奇心で飛び出してきちゃった子供たちを、この前みたいに追いかけてきたんだろう。
その後ろには、マルセラ姉さんの姿も。
「牧師さまとリリウさんは、この村のために――あっ!?」
次の瞬間、
「「ギギィーッ」」
見逃していたのか、俺の正面にいたのとは違う別のマサン二体が、子供たちに襲いかかる。
「みんなっ!!」
とっさにアミカちゃんは、子供たちをかばうように覆いかかる。
自分の体を盾にして、彼らを守ろうとしたんだ。
同時にリリウが、手をかざして呪文を唱えようとしたのを――俺は、腕をつかんで止めた。
「な、何するの、カッタ!? このままじゃ、アミカやあの子たちが――」
「大丈夫、その必要はないから」
「ふ、ふざけないでよ、カッ――」
「我が声に応えよ、イープノス」
まぶしい輝きが、俺たちの周囲を照らした。
そして、強く清らかな魔力が――。
「はぁーっ」
アミカちゃんと子供たちに飛びかかろうとしていたマサン二体に、鋭く剣が走る。
小柄で奇怪なモンスターは、もはや嘆きすら残さない。
まるで蒸発するようにして、風の中へと消えていった。
「……えっ」
その光景を目の当たりにしたリリウは、驚きの表情を隠せていない。
アミカちゃんと子供たちの前に立ち、直立した細身の刃が伸びる美しき白銀の剣を携えた、マルセラ姉さんの姿に。
「も、もしかして、カッタの姉ちゃんって……」
「うん、そうだよ。神秘の力を宿す聖剣を操る特別な存在――聖剣士さ」
そして五年前、あのケルギジェを倒して王国を平和に導いた、ガーシュの英雄――。




