03/11. 白銀の刃(前編)
アミカちゃんに一言伝えた俺は、散歩がてら村を見て回る。
周囲を森に囲まれているナコタ村。
タキシムの例があるように、魔族が出現すること自体はめずらしくない。
けれどダークエルフは、強力な魔力を有する知的な存在だ。
理性なき野蛮なモンスターとは違う。
もしも本当に、リリウ以外のダークエルフが村を訪れているのなら、何か特別な目的でも?
そんなことを考えながら歩いていると、見慣れない女性の姿が目に飛び込んできた。
褐色の肌に、若いぶどう酒のような色合いの、長い赤髪――もしかして。
俺は慎重に、彼女に近づいていく。
旅でもしているのだろうか。
昨日の姉さんみたいな裾のあるローブを、ラフに羽織っている。
フードを被ってはいないから、特に人目を忍んでいるわけじゃなさそうだ。
あらためて観察してみると、リリウと同様の特徴的な耳の形。
間違いない、彼女はダークエルフだ。
年齢も、きっと俺と近いな。
別に武器を装備している様子はないし、攻撃的な魔力を放っているわけでもない。
とりあえず、危険な魔族ではなさそうだ。
俺は何気ない感じで、ダークエルフの女性に声をかける。
「どうも、こんにちは」
「……何あなた、馴れ馴れしいわね」
ていねいにあいさつをしたつもりだけど、彼女は不快感を示してきた。
「あ、あの……ナコタ村に何か用でも?」
「どうして私が、あなたにそんなこと話さなくちゃいけないのよ」
「お、俺はこの村で牧師をやっているんですよ。もしもお困りなら、何か力になれるかと思いまして」
「……牧師」
俺が伝えると、彼女の様子が少し変わる。
「あなた、私と戦いたいの?」
俺の発言を、すいぶんと極端に解釈してしまったらしい。
彼女は魔族として、聖職者の俺に攻撃的な態度をとってきた。
「い、いや、ただ俺は――」
「いいわよ、相手してあげる。けど、命の保証はできないからね」
ローブをひるがえした彼女は、俺に向かって、いきなり呪文を唱えてきた。
「〈灰魔力による召喚――マサン〉」
すると空中で小さな爆発が三回起きて、粉塵のようなものが漂う。
それが個々にうねり出し、三体の奇妙な魔族が現れた。
「「「ギィーッ、ギィ」」」
幼い子供のような体格。
けれど目には瞳がなく、髪の毛はその身長よりも長い。
くすんだ灰色の皮膚をしていて、小さな手足から生えた爪は鋭かった。
『灰の魔力』による召喚魔法か。
その宣言通り、あいつらは『マサン』というんだろう。
「やっちゃって、お前たち」
「ギィーッ」
まず、彼女の魔力によって創り出されたマサン一体が、俺に向かって飛び込んできた。
ちっ、仕方ない。
素早く構えた俺は、近づいてきたマサンに拳を叩き込んだ。
「ギッ!?」
カウンター気味に俺のパンチを受けたマサンは、地面を転がり、そのまま砂ぼこりのように消える。
どうやら、体術だけでも十分に対応できそうだ。
「ギィ」
「ギ、ギィーッ」
休む間もなく、残りの二体が俺を襲ってくる。
けれど、恐れる相手じゃない。
「ふっ、はっ」
右左と、二連撃。
すぐに二体のマサンも消滅し、術者であるダークエルフの彼女だけになった。
「くっ……面倒な聖職者ね、あなた」
「俺に戦う意思はないんです。ただ、ちょっと話を――」
「〈灰魔力による召喚――マサン〉」
説得を試みるも、彼女は聞く耳を持たない。
また呪文を唱えると、再び三体のマサンが出現した。
しかも今度は、
「「「ギィーッ」」」
三体同時に迫ってくる。
「くっそ」
一瞬ひるんでしまった俺が体を引くと、背後から別の呪文が。
「〈魔法の火球〉――はっ、はっ、はぁーっ」
三発の火の玉がそれぞれマサンに直撃し、まさに灰となって消滅してしまった。
「……お、お前」
俺を助けてくれたのはリリウ。
どうやら、教会堂から駆けつけてきてくれたらしい。
「アミカに聞いて、ちょっと気になってね」
「そっか。悪いな、ありがとう」
「いいよ、そんなの」
俺の言葉にうなずきながらも、リリウの視線は、同族であるあの女性に向かっていた。
「……見つけたわよ、リリウ」
俺に攻撃を仕掛けてきた彼女は、リリウを見やりながら『リリウ』と呼びかけた。
それって、つまり――。




