03/10. お姉さんは人気者
「うわぁ、牧師のお兄ちゃんのお姉ちゃん?」
「お姉ちゃん、すごくきれいだね」
「ねぇ、僕たちと遊ぼうよ」
ナコタ教会堂。
「はいはい、みんなで遊ぼうね」
マルセラ姉さんは、さっそく子供たちの人気者だ。
施設での経験があるから、こういう場面にも慣れているしね。
「あのお姉ちゃんも、すごく胸が大きいなぁ」
「僕、またドキドキしちゃう」
「ウチのお父さんの持ってるスケベな本の女の人より、やっぱりでっかいな、ぜったい」
うん……人気者だな、確かに。
まぁ、俺がこの子たちくらいの頃を考えると、何も文句は言えないな。
「大好きな姉ちゃんが取られて、カッタくんはかわいそうでちゅねぇ」
「……何だよ、その言い方は」
教会堂の掃除をしている俺を、リリウのやつがからかってくる。
「お前こそ、今日は子供たちに注目されなくて、すねてるんじゃないのか」
言われっぱなしはしゃくだから、ちょっと反撃。
「はぁ? あたしは別に、村の子供たちに好かれたいわけじゃ――」
「リリウお姉ちゃん、今日こそ魔法」
「かっこいい、火の魔法が見たいぃ」
俺には強がって見せたリリウだけど、子供たちが集まってきたら態度を変えて、
「悪いね、カッタ。あたしはモテるからさ、あんたに構ってなんていられないんだよ――ほら、こんなスケベなカッタなんかほっといて、向こうに行くよ」
俺をあしらうように、ここから離れていった。
くそう、何かむかつく。
「り、リリウさん、魔法はダメですよ、魔法は」
アミカちゃんは掃除をしながらも、リリウや子供たちの行動に目を光らせている。
もしかしたら、この中で一番お姉さんなのは彼女かもしれないな。
一人残された俺は、あらためて、見慣れた空間をながめてみる。
小さな田舎の教会堂も、いつの間にか、多くの人が足を運んでくれる場所になってきた。
自分の手柄だ――なんて言うつもりはないけど、誇ってもいいんじゃないかなって、少しくらいは。
祈りとか、厳かにとか、そういう難しい場所じゃなくていいんだ。
ただ、もしも、あの日の俺と同じような境遇にある誰かがここに駆け込んできたとして、その誰かがほんの一瞬でも笑顔になってくれるような、そんな場所ではあってほしいと、それだけは思っているんだ。
「……さて、やることをさっさと終わらせますか」
一息吐いて、俺が独り言をつぶやくと、ゆっくりと教会堂の扉が開く。
入ってきたのは、先日、ここにタキシムの出現を伝えに来てくれた村の中年女性だ。
「……やっぱり、あの娘じゃなかったんだね」
この前みたいに取り乱したような様子はないけど、どうも女性は不安そうな顔をしていた。
「どうされました? 何か困りごとでも?」
牧師として、訪ねてきてくれた相手に対応しないわけにはいかない。
俺は、村の女性に聞いてみた。
「さ、さっきちらっとね、ダークエルフっぽい人影を見かけたんだよ。牧師さんが仲良くしている娘かなって思ったんだけど、どうにも様子が違うみたいだったから。それで確認のために、教会堂に立ち寄ってみたんだけど……」
「見ての通り、リリウなら今、ここにいますよ。今日は朝から、彼女は俺といっしょなので」
「そ、そうみたいねぇ……」
タキシムのような野蛮な魔族じゃないから、女性もまだ冷静さを保っているようだけど、素性のわからない相手が村に入ってきているかもしれないということは、やはり気がかりなようだ。
「一応、俺が村の周囲を見回ってみましょうか?」
別に魔族がいたからといって、彼らが必ず人間に害をなすわけじゃない。
断るまでもないけど、リリウがそうであるように。
けれど、村の人がむやみに魔族を恐れないようにするためにも、警備というか、俺の聖職者としての仕事が大切になってくるんだ。
「万が一ってこともあるからねぇ、そうしてもらえると助かるわ」
「わかりました、任せてください」
村の女性に、俺は笑顔でうなずいた。




