03/05. にぎやかな夜
「あらためて自己紹介――私は『マルセラ』。カッタくんの姉で、十九歳です。よろしくね、リリウちゃん」
「ど、どうも……」
落ち着いたところで、テーブルを囲んだ俺たち。
俺とリリウが横並びで、正面がマルセラ姉さん。
紅茶を淹れたから、ちょっとした食後のティータイムって感じだ。
「姉さんと俺は、教会の施設で出会ったんだ――ほら、さっき話しただろ?」
「う、うん」
いきなりの姉さん登場で戸惑い気味のリリウに、俺は説明する。
「やんちゃ坊主――なんて言葉じゃ表現できないような当時の俺を、先に施設で暮らしていた姉さんだけは気にかけてくれて……それから俺は、少しずつ、周りの人たちとも交流できるようになっていったんだ」
「じゃ、じゃあ……」
「うん。俺と姉さんは、血のつながった姉弟じゃない。教会の儀式と手続きによって認められた、そういう家族なんだ」
前に、リリウにも伝えたはずだ。
姉が一人いる――それが、マルセラ姉さん。
「カッタくんがね『お姉ちゃんと離れたくない。ずっと、ずーっといっしょにいる』って言って、私の胸に顔をうずめてくるから」
「…………」
「ち、小さい頃の話だぞ、リリウ!? 村の子供たちよりも幼いくらいの、そういう時代の話だからなっ」
「当時は辛い経験のせいで夜が苦手だったカッタくんなんだけど、私のベッドに入ってきて、それで胸を触らせてあげると、なぜだか安心して眠ってくれたの」
「…………」
「お、お前は勘違いをしているぞ、リリウ!? 今の俺と姉さんで、当時の光景を想像したらダメだからなっ」
「先生の言うことを聞かないことがあったカッタくんも、私が『悪い弟には、お姉ちゃんの胸をふにふにさせてあげないよ』って叱ると、すぐに素直になって――」
「胸に関する思い出以外のエピソードを話してくれないですかね、姉さん!?」
あくまで幼くて小さな頃の話だけど、我ながらさすがに悲しくなるので。
「……スケベ、ドスケベ」
「うっ……当時は本当に、やましい気持ちなんて一切なかったんだけど、事実は事実だから、お前の指摘は甘んじて受け入れるよ、リリウ」
「(……カッタの巨乳好きは、きっと、この姉ちゃんのせいなんだね)」
何かつぶやきながら、リリウは姉さんの胸の辺りをながめていた。
「(う、うーん……ぎ、ギリギリ勝って、る? どうだろ?)」
おい、リリウ。
何がしたいのかわからないけど、俺のすぐとなりで、自分の胸を持ち上げたりもんだりするのはやめてくれ。
ここまでの流れもあるから、もう、どういう表情でここにいたらいいのやら……。
「と、とにかく、施設を卒業した俺たちは、それぞれに聖職者として働き始めたってわけなんだ」
「私は、与えられた役目から、各地を転々としなくちゃいけなくて……だからカッタくんのいる場所が、私の帰る家ってことなの」
胸の話題から話を変えようとした俺に続いて、姉さんがリリウに伝えてくれた。
そこで、意を決したように、
「……あ、あんたは」
リリウが口を開く。
「弟のカッタがあたしと、ダークエルフであるあたしと、その……し、親しくしてても平気、なのか、よ?」
まったく、お前は。
変なところで、妙な気を遣ったりする。
「……あのな、リリウ。姉さんは――」
「リリウちゃん」
俺の言葉をさえぎって、マルセラ姉さんが言う。
「私は、相手が誰であろうと、その人の内なる本質を評価したいって思っているの。たとえ人間だって、誰かを傷つけるような人は大嫌いだし、仮に魔族だとしても――」
リリウの目を見て、優しく。
「自分以外の誰かを思いやれる心を持っているなら、私は大好きになるの」
姉さんは、まったく変わってない。
出会った頃から、今日までずっと。
「そ、そうか……なら、いいけど、別に」
「ただしっ」
少しホッとしたようなリリウに、姉さんは語気を強めて付け加える。
「リリウちゃんが、カッタくんと『特別に』親しくなるようなことは、お姉ちゃんとして認めませんけどね」
「ど、どういう意味だよ、姉さ――」
「カッタくん、言ってましたからぁ。私に『俺はね、大人になったら、お姉ちゃんと結婚するよ』って、ずっと言ってましたからぁ」
俺なんか無視して、姉さんはリリウだけに視線を向けていた。
「……あ、あのなぁ。いったい、いつの話をしてるんだよ、姉さん。俺と姉さんはもう家族なんだから、結婚とかそういうのは――」
「お姉ちゃんは、昔からずっとそのつもりだよ」
今度は俺にかよ……ってか近いって、姉さん。
「また、カッタくんに胸をふにふに――今度はちゃんと『大人のふにふに』をしてもらえるように、清い体を今日まで守り続けています」
「お互い聖職者で、しかも姉弟なんだから、そんな発言は慎んでください!?」
「お姉ちゃんの初めては、多少強引に奪ってくれても大丈夫だからね。ウェルカム、ウェルカム♪」
「やめて姉さん!? 姉にウインクされながら誘われる弟の身にもなって!?」
「…………」
「頼むからリリウ、せめて何か言ってきてぇーっ!!」
一人暮らしの俺の家が、今夜は予想外ににぎやかになっていた。




