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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第1章 少年牧師と、ダークエルフの少女
20/114

03/02. 予想外の訪問者(前編)

 みんなが帰った夜。


 もはや当たり前のように、俺はリリウと食卓を囲んでいた。


「まったく、子供たちには困っちゃうよ」


 今夜はクリームシチュー。

 村の人からいただいた野菜が、たくさん入っている。


「あたしにかまってもらいたくて、すぐに寄ってくるんだ」


 やれやれ――みたいな雰囲気を出してはいるけど、リリウの表情はどこかうれしそうだ。


「『明日も来る? 来てくれるよね?』って、いつもいつもあたしに――ん、何で笑ってるの、カッタ?」

「いや、別に」

「な、何さ……嫌な感じっ」


 ぷいっとしたリリウは、付け合わせのパンを勢いよくかじっていた。


 最近のリリウは、村の子供たちの話をよくする。

 それだけ、彼らと交流しているってことだ。


 基本的には教会堂の中で遊ぶ子供たちだけど、時にはリリウの手を引いて、村中を駆け回ったりもしている。


 今はもう、リリウがいるナコタ村の風景が自然になりつつあるんだ。


「……あのさ、アミカに聞いたんだけど」

「ん?」


 さっきまでとは違う声のトーンで、リリウが尋ねてくる。


「カッタは、この村で育ったわけじゃないんだってね」

「ああ、うん」

「あたし勝手に、あんたはナコタの男の子なんだって、そう思ってたよ」

「……俺、孤児だったんだ」


 別にリリウは、俺の過去を探ってやろうとか、そういうつもりじゃなかったと思う。

 世間話みたいな感じで、何となく話題に出しただけなんだ。


 けれど俺は、特に抵抗もなく、自分のことを口にしていた。

 するりと、迷いなく。


「今でこそ平和なガーシュ王国だけど、俺が生まれた頃は、こんなふうに落ち着いた時代じゃなかったから……だから俺みたいな子供は、全然めずらしくはなかったんだ」


 悲しいことだけど、たぶんこの世界から、争いがなくなることはないと思う。

 戦争とか、そういう規模の大きなものだけのことを言ってるんじゃなくて、いろいろな、広い意味を含めて。


 人間対魔族――なんて、わかりやすい構図だけなら物事は簡単なんだろうけど、実際はもっと複雑なんだ。

 人間同士、魔族同士での対立だって、考えるまでもなく無数にあるのだから。


「四歳とか五歳とか、そんなくらいだったかな……今でこそ牧師なんてやってるけど、俺は生きるために、人殺し以外のいろんなことをしたよ。だまして、盗んで、奪って、殴って、噛みついて――まぁ、リリウのような女の子とはもちろん違うけど、いわゆる『下劣な魔族』と変わらないくらいにさ」


 五年前に聖剣士に討伐されるまで、国内を恐怖で支配していた狂獣人ケルギジェ。


 しかしケルギジェが、ある種の魔族の長として台頭するまでには、魔族同士の激しい争いがあったんだ。


 邪悪な精神と強大な力を持つ魔族たちは、それぞれがこの国を征服してやろうと、次々に名乗りを上げていった。

 そんな中で勝ち残ったのが、あのケルギジェだ。


 今になって考えてみれば、ケルギジェを中心に国内の魔族がまとまる以前の時期の方が、それ以後よりも混乱した時代だったのかもしれない。


 単純な『人間対魔族』ではなく、人間対魔族対魔族対魔族対魔族――のようなものだったから。


 さらに付け加えるなら、当時の俺みたいな孤児だって、数え切れないくらいに――。


「俺は運良く教会の施設に拾われて、物事の考え方や魔法の知識、ただの暴力とは違う身を守るための体術なんかを、そこで学んだ――そんなこんなで、今はナコタで半人前の聖職者ってわけ」

「……そう、だったんだ」


 別に俺は何とも思ってないのに、リリウは申し訳なさそうな表情になっている。


 お前って、やっぱり優しいんだな、本当に。


「牧師なんてやらせてもらってはいるけどさ、俺は正直、清らかなる祈りだとか何だとか、そういうことはよくわかっていないんだ。けれど、俺にできる範囲で、助けが必要な人には――それが人間だろうと魔族だろうと、必ず手を伸ばしたいって、そう思ってる……少なくとも俺は、人の手の温もりに救われた一人だから」


 あの人の愛情に、生かされた人間だから――。


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