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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第1章 少年牧師と、ダークエルフの少女
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03/01. 憧れのまなざし?

「じゃまだから、あっちに行ってなよ」

「いいじゃん、ちょっとくらい」

「魔法見せてよ、リリウお姉ちゃん」


 穏やかな午後のナコタ教会堂。


 リリウは、村の子供たち数人に囲まれていた。

 いつもならすぐに終わる簡単な掃除すら、まだ終わらないくらいに。


「魔法は危ないんだよ。それに、あんまりリクエストに答えると、アミカのやつに、あたしが怒られるんだ」

「当然ですよ、リリウさん。ダークエルフのあなたにとっては当たり前の力でも、そういう知識や能力のない普通の人間からすれば、相手の命すら脅かしかねないものなんですから」


「ちぇっ、リリウお姉ちゃんのいじわる」

「あーあ、アミカお姉ちゃんのわからずや」

「「…………」」


 子供たちに文句を言われながら、リリウとアミカちゃんは渋い顔をしていた。


 この前の一件以来、リリウに対する村の人たちの対応っていうか雰囲気っていうか、そういうものが温かくなっていた。


 特に子供たちにとって、今やリリウはちょっとしたヒーロー。

 新米牧師の俺よりも、ダークエルフの彼女の方が魅力的に映るんだろう。


「リリウお姉ちゃんの胸、すごく大きいなぁ」

「えっちぃから、見ててドキドキするよ」

「ウチのお父さんの持ってるスケベな本の女の人より、おっぱいでっかいぜ、きっと」


 ……中には、違う意味で魅力的に感じている、ませた男子もいるみたいだけどな。


 まぁ、この世代の子供たちに好かれるっていうのは、村全体がリリウを受け入れてくれたと考えても間違いじゃないだろう。


 この子たちの両親は、ダークエルフのリリウがいるとわかった上で、ウチの教会堂に送り出しているはず。

 大人たちも、彼女が危険な魔族じゃないって理解してくれたんだ。


 都市部ならとにかく、ここは田舎。

 みんながみんなアミカちゃんみたいに、魔族に対して冷静な対応ができるわけじゃない。


 けれどこういう光景を見ると、何だかとてもうれしくなる。


 聖職者として?


 いや、違うな。


 たぶん、リリウの友だちとして。


「ねぇ、カッタ。突っ立ってないで、あんたも手を動かしてよ。あたしはあくまで、あんたの手伝いってことで掃除をしているだけなんだからね」

「はいよ、悪い悪い」


 教会堂の雑務にも慣れてきたリリウ。


 毎日ってわけじゃないけど、あれから頻繁に、ただ食事をせびるだけじゃなくて、俺を訪ねてきてくれる。


 時には、その……ウチに泊まることも。


 食事については身勝手に要求してくるくせに、泊まるとなると、ちょっと控えめに俺の許可を求めてくるもんだから、調子が狂うんだよな、実は。


 何気ない感じで聞いてくれれば、俺も普通にうなずけるのにさ。


「……リリウさんは牧師さまのこと、急に名前で呼ぶようになりましたね」


 いつの間にか俺のとなりに来ていたアミカちゃんが、こっちを見ないで言ってきた。


「あ、うん――あいつ、この前まで、俺のことを変な感じで呼んでたからさ。ちゃんと名前で呼べよって、そう伝えたんだ」

「……わ、私も牧師さまのこと、な、名前で呼んでもいいですか、ね?」

「いいよ、もちろん」


 むしろ『牧師さま』なんて、そっちの方が恥ずかしい。

 俺はまだ、半人前の聖職者なんだから。


「じゃ、じゃあ――か、かか、カッ……な、名前で牧師さまを呼ぶのは、また別の機会にさせてもらいます」


 アミカちゃん、何だか不自然に疲れてない?


「……でも、リリウさんもすっかり、子供たちの人気者になりましたね」

「俺より確実にね」

「ふふっ」


 俺が肩をすくめると、アミカちゃんは笑った。


「それでも、牧師さまあってこそです。この村の出身じゃないのに、牧師さまはこうやって、無人だったナコタ教会堂を、こんなにもにぎやかにしてくれたんですから」


 俺は、ナコタ村で育った人間じゃない。

 まったく別の土地で生まれたんだけど、縁あって、この教会堂で牧師として働いているんだ。


「ナコタは田舎ですし、何かあったとしても、王族や貴族に仕える兵士の助けをすぐには期待できません。傭兵だって、なかなか雇えない。大人の人たちが言ってましたよ。もしも牧師さまがいなかったら、今ごろ村は、野蛮な魔族に荒らされていたかも――って」

「村の人が温かく迎えてくれたから、何とかやってこれただけだよ。何より、よそ者で新米の俺を『牧師さま』だなんて言ってくれるアミカちゃんがいたからさ」


「そ、そんな、私は全然……」

「ううん、感謝してる。ありがとう、アミカちゃん」

「……そ、そうですか。な、なら、ご迷惑でなければ、これからも頼っていただいて、だ、大丈夫ですから」


「よろしく頼むよ、アミカちゃん」

「はい、もちろんですよ、牧師さま」


 前にリリウが、俺が一人暮らしなのを気にしていたことがあったっけ。


 どういうつもりなのかはわからないけど、あいつなりに、俺が心細く思っているとか、そう考えたのだろうか。


 でも、そんなことないんだぜ、リリウ。


 お前だってそうだろ?


「ねぇ、リリウお姉ちゃん、ちょっとだけ魔法」

「アミカお姉ちゃんには秘密にするからさぁ」

「だから、ダメだってば、もう」


 ここにいれば、さみしくなんてさせてもらえないんだからさ。

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