02/06. 牧師のカッタ
駆けつけた村の外れには、土汚れた人型魔族――タキシムの姿が。
「オォーウ」
「ウォ、ウォーウ」
「オォウ、オォーウ」
とりあえず、三体。
さらに二体のタキシムが奥の方から出てきたから、合計で五体か。
「あたしの足を引っ張らないでよ」
「お前こそ」
お互いに言葉を交わした俺とリリウは、素早く行動を開始した。
「〈魔法の火球〉」
俺はすぐに、火の魔法を発動。
赤い炎が、タキシム一体を直撃する。
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
魔法耐性のあまりない魔族だから、基本的な攻撃呪文で簡単に対応できる。
まずは、一体撃破だ。
「オゥ、ウォウ」
とはいえ、油断はできない。
すぐに別の一体が、俺に腕を突き出してくる。
こういうタイプの相手じゃなければ体術を使って制圧してもいいんだけど、臭いがきつくて、正直あまり触れたくない。
俺は後退しながら距離をとり、再度、攻撃の呪文を唱えようとすると、
「〈魔法の火球〉」
リリウの放った火の玉が、俺と対峙していたタキシムを焼き払い、その四肢を土へ還してしまった。
「ちんたらしてたから、あたしがやっつけちゃったよ」
挑発的に、リリウが俺に告げる。
「やる気がないのなら、あたしが残りの相手をしてあげてもいいけど?」
見たところ、タキシムはあと二体。
俺が倒したのは一体だから、さっきの以外に、リリウはすでに一体を倒していたってことか。
「……ダークエルフが魔法を得意としているのは認めるけど、タキシムの一体や二体で偉そうにされてもな」
「そういうのって、負け惜しみなんじゃないの? ちゃんとやることやってから言ってよね」
俺をあおってくるような台詞だけど、不思議と悪い気はしない。
リリウが、俺といっしょに戦っていることに喜びを感じてくれている雰囲気が、こっちにもちゃんと伝わってきているから。
「言ってろ、残りは俺が倒してやるさ」
「いいわよ、無理しなくて。あたしが全部焼き捨てちゃうし」
俺とリリウが、それぞれ競うようにタキシムへ向かおうとすると、
「ウォグ、ウォ」
「グゥ、ウォウ」
二体のタキシムが、まるでお互いを食べ合うような行動をして、その体を融合させていく。
「あ、あれは」
「……あたしたちの魔力量の大きさを感じて、本能的に、捨て身の防衛手段に出たってことかもね」
やせた成人男性くらいの体格だった二体のタキシムが、気味悪く一つにまとまっていき、
「グァオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
見上げるような巨体の怪物へと変貌してしまった。
「……もしかして、あんたビビってる?」
「まさか」
「そうだよね。あんなの、ただ大きいだけ。ダークエルフのあたしとしては、魔族だってことでいっしょにされるのすら嫌なくらいの、そういうレベルの低い相手だもん」
「なら、一撃で仕留められるよな?」
「はぁ、誰に言ってるの? 当たり前じゃん」
言い合いながら俺たちは、巨大タキシムを前に構える。
「グォウ、ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
威圧的に咆えたタキシムに、俺たちは同時に魔法を放つ。
「「〈魔法の火球〉」」
俺とリリウの魔力の炎が、混ざり合うようにして一つになり、そのまま怪物を貫いた。
「グォアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
体が大きくなろうと、魔法耐性に乏しい本質は変わらない。
巨大タキシムは、焼かれながら灰となっていった。
「やるじゃん」
「お前もな」
悪くないなって、そう思った。
リリウと、こんなふうにやっていくのも、ちょっとだけ。
「あ、こらっ」
そこに、アミカちゃんの声。
さっき教会堂に駆け込んできた、二人の男の子もいっしょだ。
「ごめんなさい、牧師さま。危ないから行っちゃダメだって言ったんですけど、この子たちが……」
そういうことね。
まぁ、気持ちもわからなくはない。
魔族に対しての恐怖心は確かにあるだろうけど、この子たちみたいな幼い年齢だと、同時に、好奇心もあるだろうからな。
「巻き込まれたら大変だし、牧師さまたちだって、みんなが周りにいたら、攻撃魔法を使いにくくなっちゃうんだから」
年上のお姉さんとして、二人の男の子を諭すアミカちゃん。
けれど彼らの意識は、そこにない。
視線の向かう先は、リリウだった。
「……な、何さ、あんたたち?」
「お姉ちゃん、魔族なの?」
一人の男の子が、リリウに尋ねた。
「そ、そうだよ、何か文句あるの?」
すると男の子は、
「お姉ちゃん、すごくかっこいいね」
キラキラした目で、リリウにそう言った。
「か、かっこ……いい?」
「うん、かっこいいよ――な?」
「うん。強くて、すごくかっこいい」
友だちに聞かれたもう一人の男の子も、はっきりと答えていた。
「お姉ちゃん、いい魔族なんだね」
「僕たちを守ってくれる、いい魔族だ」
たぶんリリウ、こんなふうに言われると思ってなかったんだろうな。
「「ありがとう、お姉ちゃん」」
「あ、そ……んっ」
言葉が出てこないほど、明らかに戸惑っていた。
「ほら、二人とも。危ない魔族はいなくなったんだから、このまま家に帰るよ――じゃあ牧師さま、私はこの子たちを送り届けてから、教会堂に戻りますので」
アミカちゃんは男の子二人を連れて、そのまま去っていった。
残されたのは、俺とリリウ。
「……感謝されるのも、悪くないだろ?」
「そう、だね……う、うん」
「教会堂の仕事、掃除だけじゃないからな。いろいろあるから、結構忙しいんだぞ。本気でやるなら、森に戻る時間なんかなくなっちゃうぜ」
「そ、それって、あたしにあんたといっしょに住めって、そそ、そういうこと!?」
「ば、ばか、ばーか!? そ、そんなこと言ってないだろ、勘違いすんなよなっ」
「な、何さ、スケベ牧師のくせにっ」
「…………」
「い、言い返せないってことは、や、やっぱりあんた、あたしといっしょに暮らして、それで夜は、あの裸婦画集みたいなポーズをあたしにとらせようと――」
「か、勝手に変な想像するなっ!? そうじゃなくてさ……お前、いい加減俺の名前を覚えろよ。『聖職者』とかくらいならいいけど『スケベ牧師』じゃたまんないぞ、俺」
「えっ……そ、それは」
「いいか、俺は『カッタ』だ。牧師のカッタ。前にも名乗ってるんだから、ちゃんと覚えとけよな。忘れたなんて言わせないぞ」
「……カッタ、ね」
おいおい、まさか本当に忘れていた――とか?
顔を少し伏せながら、リリウが俺の名前をつぶやいた。
「カッタ」
「何だよ、リリウ?」
「……何でもないよ、ばーか」
笑いながら、彼女は俺にそう言った。




