02/05. やはり、二秒では終わらない
「ふぅ……」
満足そうに、リリウが息を吐く。
意外なことに彼女は、なかなか掃除の手際がよかったんだ。
床にはもう、目立つようなちりやほこりが見当たらない。
「やってみると、結構気持ちいいもんだね、こういうのって」
自分の仕事を確認するみたいに、きれいになった教会堂を、リリウがながめていた。
自然と、素直な感想が口をつく。
「いや、何かさ……俺はお前を見くびってたよ、リリウ」
ダークエルフかどうかってことじゃなくて、リリウ個人の性格的に、人間が普通に生活する上での必要な家事みたいなものは、どうせいい加減にしかできないのだろうと思っていた。
けれど彼女は、すごくていねいに――何なら普段の俺以上に、完璧に掃き掃除をこなしてくれたんだ。
「だから言ったじゃん、二秒で終わるって」
「……まぁ、二秒では終わってないけどな」
もちろん、本当に二秒で終わるなんて期待してなかったからいいんだけど。
「見直した?」
「見直した、本当に」
「そ、そう……わかればいいんだよ、うん」
恥ずかしそうにしながらも、胸を張るリリウ。
それから、俺の様子をうかがうようにして、
「こ、これくらいなら、手伝ってやってもいいよ……あんたが、そうしてほしいならさ」
彼女は、自ら申し出てくれた。
「おおっ、いいじゃん、それ。それならお前も、ウチで食事をするのに気後れしたりしないだろ? 教会堂の役に立つ仕事をしてるわけだからさ」
「べ、別にあたしは、き、気後れとかしてないし。あんたが、一人で食事をするのが哀れだから、し、仕方なく付き合ってやってるだけだし」
「そうかよ、そりゃどうも」
とりあえず、俺がリリウに恐れをなして食事を提供しているっていう設定は、完全に消えたらしい。
今後は、魔法で脅される心配はなさそうだ。
「い、いけませんよっ!!」
そこに入ってきたのは、同じく掃除を手伝ってくれていたアミカちゃん。
「い、いや、まぁ、いけなくはないんですけど、その……や、やっぱりいろいろといけないですっ」
「えーっと……アミカちゃんだって、リリウが村に馴染めればいいかなって、思ってくれたんじゃないの? もちろんこれからも、アミカちゃんにはウチの手伝いをしてもらいたいけど、人手が多くて困ることはないからさ」
アミカちゃんは、リリウが魔族であること自体について強く反応したりしてないし、リリウ個人が邪悪な存在じゃないことも理解してくれたはず――なんだけどな。
「そ、そうですけど……うぅぅぅっ、はぁ、もう」
なぜかアミカちゃんは、がっくり肩を落としていた。
すると、教会堂の扉が勢いよく開く。
何となく既視感のある光景だけど、入ってきたのは二人の村の男の子たちだ。
「牧師のお兄ちゃんっ」
「臭い魔族、あっちに出てきたよっ」
うわっ、またかよ。
じゃあ、さっさと対応しないとな。
「よし、教えてくれてありがとう。今から、すぐにやっつけて来るからな」
子供たちに答えて、俺が飛び出そうとすると、
「待って――あたしも行くよ」
リリウが、俺を呼び止めた。
「……あ、あんただけじゃ、頼りないからね」
「わかった。なら協力してくれよ、リリウ」
俺が伝えると、彼女は小さくうなずいた。




