02/04. たぶん、二秒ではできない
朝食を済ませて、ナコタ教会堂に移動した俺たち。
「はい、リリウさん」
「えぇーっ」
アミカちゃんが、まだ少し眠そうなリリウにほうきを差し出した。
「あたしは、掃除なんて面倒なことはしないよ」
「牧師さまにはあなたもお世話になっているんですから、これくらいは働いてください。昨日なんて……お、お泊まりまでしちゃったわけですからね」
「……ぶぅーっ」
まじめなアミカちゃんに、リリウは口を尖らせていた。
「いいよ、アミカちゃん。どうせこいつ、掃除とかていねいにできないだろうから」
「はぁ、何言っちゃってるの!?」
俺の言葉に、リリウが噛みついてくる。
「できるし、楽勝だし。こんな小さな教会堂の掃除くらい、二秒で終わらせられるしっ」
俺に吐き捨てながら、アミカちゃんからほうきを奪い取ったリリウ。
そのままそそくさと、教会堂の隅へと歩いていった。
「た、単純ですね、リリウさん……」
まるで幼い子供のような彼女に、アミカちゃんは苦笑い。
「でも、牧師さまの言っていたことが、私にもわかりました。リリウさんは、危険な魔族ではないみたいですね。もしも人間を襲うようなダークエルフだったなら、それこそ本当に、牧師さまはベッドの上で黒こげにされていたでしょうから」
「さすがに俺も、本気で攻撃を仕掛けてくるような相手を、無防備に泊めたりしないよ」
何ていうか、俺はあいつのことを信じているから、そういう不安なんてなかったんだ。
「リリウはさ、森に出現した魔族がナコタの人に悪さをしないよう、彼女なりに対応してくれてるみたいなんだ」
「……そう、だったんですか」
「もしかしたらだけど、あいつのおかげで、俺の仕事が、少しくらい楽になってたりするのかもしれない」
「そういうことを村の人たちが理解すれば、リリウさん、この村に馴染めるかもしれませんね」
「まぁ、そんなことを、ちょっとは考えなくもないんだけどなぁ、俺としては」
別に、リリウに感謝されたいだとか、聖職者としての手柄にしたいとか、そういう気持ちなんてないんだ。
けれど、自分が受けた恩くらいは、他の誰かに、その十分の一でも百分の一でも分け与えることができたらなって、そんなふうには思っている。
自己満足と言われたら、それはそれで否定できないけどさ。
「のどかな田舎の教会堂にダークエルフがいるっていうのも、悪くないと思わない、アミカちゃん?」
「(……や、やっぱり、リリウさんは危険です。魔族としてではなく、女性として)」
ぼそぼそと何かをつぶやいたアミカちゃんが、目を細めて俺を見上げてきた。
「私が処分した裸婦画集の中に、も、ものすごく胸の大きなダークエルフの女性のものがありましたよ……しかも、い、一冊じゃありませんでしたし」
「なっ!?」
「……牧師さまの、は、ハレンチ」
照れながら俺を咎めたアミカちゃんは、逃げ出すようにして掃除に取りかかっていた。




