02/03. 秘密の裸婦画集
「では、牧師さまは確かに、おとといの夜、リリウさんに『じゃあ、とりあえず一晩くらい泊まってく?』と尋ねたたんですね?」
「は、はい」
「だからリリウさんは昨日、その言葉に甘えて、牧師さまの家に宿泊したんですね?」
「だから、そうだって言ってるじゃん」
一通り理解してくれたっぽいアミカちゃんが、俺とリリウの説明を、彼女なりに確認していく。
別に悪いことは何もしてないつもりなんだけど、俺は何だか怒られているような気分だ。
対して、俺のとなりのリリウは、不機嫌そうに腕を組んでいた。
「ほ、ほら。この家は古い平屋だけど、部屋数は多いし、一応牧師をやらせてもらっている以上、何らかの理由で帰る場所がなかったり、行く先がなかったりする誰かが、ナコタ教会堂を訪れる可能性もね……だ、だから、客間もちゃんと用意してあるんだ」
「ええ、それはわかってます」
俺の手伝いをしてくれているアミカちゃんなら、当然知っていること。
険しい表情ながら、彼女はうなずいてくれた。
「そ、そういうことだからさ、リリウを泊めるのは、むしろ聖職者としての務めというか……もちろん、俺と彼女の間にやましい関係なんかないよ。だいたい、もしも俺がエッチなことをリリウにしようとしたら、きっと魔法で反撃されてるはずだろ?」
「そ、そんなことしてきたら……あたしはあんたのこと『〈火の魔力〉』で、く、くく、黒こげにしちゃうよっ」
「ほら、ほらね、アミカちゃん。こいつは、そういうタイプの女の子じゃないから、まったく心配ないんだよ――な、リリウ?」
「(で、でもまぁ、どうしてもっていうなら、は、初めてだけど、そういうことも……し、しし、真剣に考えてあげなくもないごにょごにょ――)」
「何か言いましたか、リリウさん? ん? ん、ん、んっ?」
「べ、べべ、別に、何も言ってないよっ」
……何だかアミカちゃん、妙にリリウを問い詰めるよな、今日。
「と、とにかくさ、リリウはウチに泊まったけど、本当にただそれだけだから。部屋だって、当たり前だけど別々。何ていうか、その……そ、そういう行為なんてまったくしてないから」
「……同じベッドで寝たりとか、そんなことはしてませんよね、牧師さま?」
「し、してないしてない――な、リリウ?」
「(そ、そういう可能性もあったり……したんだね、うん)」
「何だか、リリウさんの顔が赤くなっていますけど」
「い、いや。こう見えてリリウは、かなり純情なところがあるから、そ、そういう話に免疫がないだけだよ、あはははは……」
「その言い方だと、牧師さまはずいぶんと『免疫』がおありのようですけど、すでにたくさんのご経験でも?」
「お、俺はモテないから、全然、本当に全然っ」
真実だけどさ、自分の口で年下の女の子に『モテない』発言をしなくちゃいけないって、すごく悲しいことだよ、これは。
「……なら、牧師さまの『免疫』は、本棚に置かれている『胸の大きな女性たちの裸婦画集』によってつちかわれたものなんですね?」
「それに関しては、どうかスルーしてもらえませんかね!?」
泣くよ。
俺、泣いちゃうよ。
「はぁ……まぁ、いいです」
俺の反応を哀れに思ったのか、アミカちゃんは納得したように息を吐いた。
「と、とりあえず、その……私の勘違いだったようですし」
「あ、う、うん」
「ですから、その……ごめんなさい、牧師さま」
「い、いや、わかってもらえればいいんだよ」
「……リリウさんも、すみませんでした」
「別に気にしないけどさ、あたしは」
謝ってくれたアミカちゃんのことを、俺やリリウが責めるわけがない。
まぁアミカちゃんには、ずいぶんと予想外な誤解をされちゃったようだけど、何とか落ち着いてよかった。
俺的には、聖職者として何一つ恥じるようなことはしていないけど、場合によっては、不本意なとらえ方をされてしまうこともあるんだな。
とにかく、アミカちゃんが許してくれたのなら、俺としては満足だよ。
「それはそれとしても、です。聖職者の務めうんぬんは置いておいて、男性としては……う、疑われても仕方がないと思いますよ、牧師さま」
「……な、なのかなぁ?」
どうやら牧師の行いとしては認めてくれたアミカちゃんだけど、男子の行いとしては少し不満があるみたい。
「牧師さまは、む、胸の大きな女性が大好きみたいですからねっ」
「んぐっ……」
「きっと、そういう女性の裸婦画ばかり見ているからいけないんです。いい機会ですから、この際すべて捨ててしまいましょう」
アミカちゃんは恐ろしいことを言いながら、俺の本棚がある部屋に向かっていこうとする。
「ちょ、ちょっとそれは、いくら何でもや――」
「何ですか、牧師さま」
「……い、いや、何でもないよ、うん」
この状況で抵抗できるわけがない。
俺は静かに、アミカちゃんを見送った。
「あははっ、いい気味♪」
二人だけになった部屋で、リリウは俺を笑っていた。
「お、お前が変なことを言うからじゃないか、まったく……まぁいいさ、もう――じゃあ今度こそ本当にフルーツを切るから、三人で朝食な」
あらためて俺が準備を始めようとしたら、
「あんたの持ってる裸婦画集の中には、だ、ダークエルフのやつもあったけどね……す、すごく、すごくえっちぃやつ」
「なっ!?」
ぼそぼそと、リリウがとんでもないことを言ってきた。
おいおいおい!?
存在だけじゃなく、中身まで見てたのかよ!?
「……スケベ」
顔を赤くして、縮こまるように自分の胸を抱いたリリウに、俺は何も言い返せなかった。




