02/02. 騒がしい朝(後編)
「だ、大丈夫? 体調が悪いなら、すぐに休んだ方がい――」
「牧師さまっ」
手を貸そうとした俺に、血走った目のアミカちゃんが言う。
「しょ、正直に答えてください――り、りり、リリウさんを昨日……こ、この家に、お泊りさせましたか?」
「と、泊めたけど」
「くっはぁーっ!!」
「あ、ああ、アミカちゃん!?」
爆発魔法をくらったみたいに、アミカちゃんは仰け反りながら倒れてしまった。
「ふぁーあ……ねぇ、フルーツまだぁ?」
「それどころじゃないってのっ」
いつの間にかテーブルについていたリリウを、今はかまってなんかいられない。
こんなアミカちゃんは初めてだし、俺の知らないところで、本当に何か悪い魔法にかけられてたりとか?
「も、もしもーし、アミカちゃ――」
「ぬるぬるしたんですか?」
「え?」
むくっと立ち上がったアミカちゃんが、語気を強める。
「昨日は、ぬるぬるして楽しんでたんですか、牧師さまっ!?」
「し、してませんけど!? 全然まったくしてませんけど!?」
ってか、何でそんな話になるのかな、アミカちゃん!?
「や、やっぱり、いくら誠実な牧師さまでも、ぬ、ぬるぬるの誘惑には勝てなかったんですね……」
何、その悲しさと怒りが混ざったような表情!?
「リリウさんっ!!」
「ふぁーあ……何?」
今度はアミカちゃん、寝ぼけた顔のリリウに視線を向けた。
「わ、私はわかってますよ。あなたが、ぼ、牧師さまがぬるぬる好きなのを利用して、そ、その……ハレンチぬるぬるボディで迫ったってことを!!」
「……はぁ?」
当然ながら、意味不明といった感じのリリウ。
「と、とぼけないでくださいっ。あ、あなたが強引に、牧師さまの家に転がり込んで、それで……ふ、不潔な一夜を過ごしたってことですよ!!」
なぜか半分泣きながら、アミカちゃんが訴えていた。
なるほどね。
ものすごく誤解しているようだけど、やっと彼女の言動の意味がわかったよ。
「あ、あのさ、アミカちゃん。ちょっといろいろ勘違いしているようだから、とりあえず俺の話を――」
「ち、違うしっ!? あ、あいつが誘ってきたから、あ、あたしは、仕方なく……つ、付き合ってやっただけだし!?」
ちょっと待て、リリウ。
その言い方だと、誤解が上塗りされちゃうんですけど!?
「な、何か、い、いきなり『じゃあ、とりあえず一晩くらい泊まってく? げへへへへ』とか言ってきたから、まぁ、一回くらいならいいかなって、そ、そそ、そう思っただけだしぃ」
「…………」
うわぁーっ。
アミカちゃんが、ものすごい軽蔑したような目で俺を見てるぅーっ!?
「ち、違うんだよ、アミカちゃん!? 今アミカちゃんがどういうふうに理解しているのかが俺にも十分伝わってきてはいるけど、それは全然まったくの誤解で――お、おい、リリウ。お前が変なことを言うから、話がややこしくなっちゃったじゃないか。勘弁してくれよ」
「な、何さ。泊まってもいいって言ったのは、あ、あんたの方じゃん。だ、だから、あたしは――」
「そりゃ言ったけど、それはおとといの夜の話だろーが。それで昨日、夕食までウチで食べたお前が『せ、せっかくだし、きょ、今日は泊まっていっちゃおうかな……』とか言うから、だから――」
「ちゃ、ちゃんとあたしだって確認したじゃん。夕べだって『昨日の泊まってけってやつは、本当?』って聞いたら、あんた『もちろんだぜ、げへへへへ』って」
「言ってない。少なくとも、その『げへへへへ』は、ぜったいに言ってない!!」
「か、顔がそうだったのっ。あ、あたしをスケベな目で見ていた顔が『げへへへへ』って感じだったのっ」
「何だそりゃ!? 言いがかりもいい加減にしろよなっ」
「言いがかりじゃないよっ。あ、あんた『そ、そんな格好で、ずっと家にいられるのは落ち着かないから、その……これ着ててくれ』って、この服を渡してきたんじゃん。それってつまり、あ、あたしの体に、す、少しはムラムラしちゃってたってことじゃん」
「ば、ばば、ばーか、ばーか、そんなことあるかっ!?」
「何さっ、む、胸の大きな女の子が好きなくせにっ!!」
「お、俺は別に、そういう趣味嗜好は――」
「あんたの本棚に巨乳ばっかりの裸婦画集が入ってるの、あたし昨日見て知ってるんだからねっ!!」
「なっ……」
悲しいかな言い返せなくなってしまった俺に、まるで地の底から聞こえてくるような呼び声が。
「ぼ・く・し・さ・まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
「ひ、ひぃ!?」
とりあえず、ものすごくこんがらがってしまった話を、アミカちゃんには正確に理解してもらわないといけないな、こりゃ。




