05/04. トスロの頭を倒せ(3)
これで、トスロたちのボスは倒した。
まだ暴れている子分もいるかもしれないが、リリウとイェルクさんに任せておけば、きっと大丈夫だ。
残るは、チョンチョンのムーボ。
戦闘不能になった自軍の長――その突っ伏した巨体を見下ろしながら、やつは表情を暗くしていた。
ムーボは、ドムタノンの力を恐れて、調子よく立ち振る舞っているような雰囲気があった。
俺が勝利した今、あの腰巾着の内心は、ひどく混乱していることだろう。
ここで退くなら深追いはしないが、向かってくるなら相手をするしかない。
敗北に打ちひしがれているようなムーボに、俺は告げる。
「どうする、かかってくるか?」
もちろん、負け惜しみでも残して去ってくれればありがたい。
しかし、自分が従うべき相手に選んだ魔族が、目の前で、俺に倒されたんだ。
冷静な判断ができずに、感情のまま向かってくる可能性もある。
緊張感を保ちながら、俺は軽く構え直した。
ムーボが口を開く。
それは、予想していたような言葉ではなかった。
「……まったく、役立たずもはなはだしいですねぇ」
ドムタノンに怯えていたようなムーボとは、明らかに違う。
「こんな田舎集落の一つも落とせないとは、情けないにもほどがありますよ。無能な魔族だとは思っていましたが、まさか、ここまで無能とは」
平穏に暮らすキルムーリたちの村を、身勝手に襲撃してくるような連中だ。
その結びつきが、利害関係だけの浅いものだとしても、俺はまったく驚かない。
ムーボという魔族の生き方が、常に勝ち馬に乗るというものならば、敗者への態度を変えることも、一応は道理として通るだろう。
だけど、やつの急変から感じるのは、そういうのとは少し違う気がする。
何なんだ、いったい。
「まぁ、こいつが無能なのを差し引いても、あなたの存在は問題でしたねぇ」
こちらの疑念を感じ取ったのか、独りごちていたムーボが、俺に視線を向ける。
「まさか、あなたのような牧師がいただなんて、予期せぬ不幸でした。どうしてくれるんです? こちらの計画が台無しですよ」
「……計画? お前、トスロたちを利用したのか?」
ドムタノンによれば、彼の武勇伝を聞きつけて、ムーボが接触してきたという話だった。
聞かされたのは国盗りの提案。
野望へ第一歩は、外部からの侵入が難しいとされるコーソ村を奪い、拠点とすること。
村の住民であるキルムーリは穏和な魔族で、襲撃は簡単だ――と、それらしい理由を示した上で。
「利用価値、ありませんでしたけどねぇ」
ムーボが否定することはなかった。
つまり、表向きにはドムタノンに従属しているような態度を見せながら、本心では、トスロたちを意のままに操っていたってことだ。
動機は何だ?
強い魔族に取り入ることで、様々な甘い蜜を吸おうとする者は、当然いるだろう。
けれど今のムーボの発言が本心ならば、やつは最初から、ドムタノンたちを『強い魔族』だと考えていなかったことになる。
野蛮な魔族をそそのかして、ムーボにどんな利益があるというんだ?
「……お前、何のために」
「チェチェチェ、あなたにお話するつもりはありません」
だろうな。
簡単に教えてくれるわけもない。
「ただ、一つだけ」
不気味な顔を怪しくゆがめて、ムーボが面白がるように言う。
「望もうが望むまいが、いずれあなたも知ることになりますよ。この国で生きている限り、チェチェチェ」
「それは、どういう意味だ?」
問いかけても、やつは答えない。
「チェチェチェ、チェチェチェチェチェ」
不快な笑い声を残して、そのままムーボは飛び去り、俺の前から消えてしまった。
倒れたドムタノンは、意識を取り戻す様子もない。
戦いには勝利した。
だが、すっきりしないものが、俺の心を曇らせる。
ムーボ。
なぜ、お前は――。




