05/03. トスロの頭を倒せ(2)
緩やかな風が村の木々を揺らした直後、ドムタノンが突進してきた。
「ふんらぁーっ」
重い衝撃を、土の魔力の剣で防ぐ――が、その威力の大きさに、結晶化した魔力が耐えられない。
「ぐあっ!?」
剣の刀身が破壊され、消滅。
俺は後方へ弾き飛ばされてしまった。
「はっ、口だけだな、牧師のガキ」
「……ちっ」
言い放つドムタノンをにらみながら、俺は立ち上がる。
今の攻撃によるダメージは浅い。
だが、確かに子分たちより力がある。
あのでかい図体は、無意味に肥えているだけではなさそうだ。
これは、ばっちり気合い入れないとな。
すると、
「チェチェチェ、さすがはドムタノンさん」
奇妙な笑い声を響かせて、チョンチョンのムーボが現れた。
「あんな牧師なんて、敵じゃありませんよねぇ」
「ふん、そんなの当たり前だ」
おだてるようなムーボに、まんざらではないドムタノン。
「さぁ、ドムタノンさん。すぐさまあの牧師を倒して、この村をいたたきましょう。そして今日から、ここはあなたの根城。玉座へ至る道が、ここから始まるんですよ」
「……玉座?」
「ああ、玉座だ」
ムーボの言葉を聞き捨てられなかった俺に、ドムタノンが答える。
「俺は、この国をもらう。ガーシュの子孫である人間の王の首を落とし、俺の支配する『ドムタノン王国』にするのさ」
この国を?
つまり、あいつがしようとしていることは、現代の国盗り――。
「おやおや。どうやら、驚いて声も出ないようですよ、ドムタノンさん」
「ははっ、無理もない。未来の王たる俺を、牧師のガキは目の前にしているんだからな」
巨体の魔族が、上機嫌に語り出す。
「俺は昔から、気にくわないやつらを潰してきた。敵なんかいねぇ。好き勝手に暴れてきた。気づけば、同族のやつらが子分として集まってきた。俺は強い。そんな俺のウワサをどこからか聞きつけてきたこいつが、話を持ちかけてきた――『この国を支配してみませんか』とな」
背後に漂うムーボを軽く示して、ドムタノンは続けた。
「おもしろいと思った。ケルギジェのやろうは失敗したが、俺はあいつとは違う。下手は打たねぇ。なんたって、俺は強い。だが、いきなり玉座のある城に突っ込むようなバカじゃねぇ。何事にも準備ってもんがあるからな」
ケルギジェは野望は、聖剣士であるマルセラ姉さんが止めた。
ドムタノンは、五年前にやつがやろうとしていたことを、またこの国で――。
「ムーボが教えてくれた。東の森の中に、小さな村がある。そこは妙な植物の力で、外から簡単には入れない。村人は魔族だが、非力な連中だ。そこを奪えば、野望のための根城のできる、とな」
「はい、その通りでございますよ」
「この国には、お前のように厄介な牧師がいる。それだけじゃない。魔族のくせに、人間の王が偉そうにしているのを何とも思ってねぇフヌケも多い。この村のやつらのようにな」
ドムタノンが、両腕を開く。
「ケルギジェだって、従う者の数を増やしながら名を響かせていった。俺はここから、俺の名を轟かせる。力でねじ伏せ、領土を広げ、奪って奪って奪い続けたその先で、俺はこの国の王になるのだぁーっ」
高らかに宣言したドムタノン。
ムーボも満足そうに、口元をゆがめていた。
「……何だ、牧師? 何がおかしい?」
だが、どうやら俺の反応は、やつの期待と違っていたらしい。
「何がおかしいと聞いてるんだっ」
「いや、悪い悪い。ただまぁ、ずいぶんな小物だと思ってさ」
「こ、小物、だと?」
怒りをにじませるドムタノン。
「お、お前、ドムタノンさんに何てことを!?」
一方でムーボは、焦りの表情になっていた。
「だってそうだろ? 森の中のこの村を襲い、自分たちの拠点にする。その理由は、キルムーリが戦いを好まない魔族で、集落を囲む植物の効能で外部からの侵入を防げるから――だなんて、まったくあきれる話だ」
「お、お前、この俺を侮辱し――」
「弱い相手ならば、自分でも勝てるだろう。敵に攻め入られる可能性が低いから、身を潜めるのに安心な場所だ――そんな考えのやつが、玉座を奪えるはずがない」
「い、言わせておけば……」
巨体が震えていた。
だが、断言できる。
「お前は、ケルギジェの足下にも及ばない、ただの三流魔族だよ」
もちろん、あいつの肩なんて持つ気はないけどな。
「や、やっちゃいましょう。今すぐ、あいつをぶちのめすんですっ」
ムーボの声が聞こえているのか、いないのか、
「うおぉぉぉぉぉーっ」
冷静さを欠いたようなドムタノンが、さっきより増した勢いで迫ってきた。
「〈土魔力による具現化――盾〉」
俺は、土の魔力の盾を創り出す。
武器ではなく、防具。
これなら、やつの威力にも耐えられる。
とはいえ、相手は重量級。
まともに受けては弾かれるだけだ。
だから、素早く受け流す。
「な、何っ!?」
盾を滑らせるように移動して、ドムタノンの背後へ。
「〈魔法の火球〉」
「ぐっ……」
ダメージはある。
しかし、有効打ではない。
わかってるさ。
「そんなの、何でもねぇーんだよぉぉぉぉぉーっ」
太い腕を振り回し、強引に俺の首を狙ってくる。
盾を前にして防御――から、突き出すようにして、すぐさま放棄。
魔法を解除して、もう一度結晶化。
「〈土魔力による具現化――剣〉」
今度は、再びの剣。
畳みかける。
「〈魔法の火球〉」
「ぐっ……くそがっ」
顔面付近に、火の玉。
ダメージは浅くても、目くらましくらいにはなる。
そこから、剣による乱打だ。
「はっ、はっ、はぁーっ」
「こっ、かっ、こ、こざかしい」
俺の動きに、やつはついてこられない。
荒い息のまま、力任せに拳を繰り出すのが精一杯になっていた。
「くらいやがれぇーっ!!」
大振りのパンチは、ただ、空を切るのみ。
トゲのある巨体の側面に向けて、俺は呪文を唱えた。
「〈魔法の炎波〉」
火球を超える魔力の炎。
赤い波が、大きな体に直撃した。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
全身を焼かれたドムタノンは、黒こげになりながら、ばたりと倒れた。
「……ふぅ」
ドムタノン、制圧。
タフな巨漢魔族でも、あれだけの炎だ。
熱で意識を持っていかれる。
やつが起き上がるには、相当の時間がかかるだろう。




