05/02. トスロの頭を倒せ(1)
単独行動になってからも、襲撃者たちは、村の中に潜んでいた。
「〈魔法の火球〉」
「ぐわっ!?」
男性キルムーリに殴りかかろうとしていた、トスロ一体を制圧。
「はっ、はぁーっ」
「ごへっ!?」
「のわっ!?」
民家を破壊し、中に入り込もうとしていた二体のトスロを、土の魔力の剣で追い払う。
こいつらの目的は何だ?
コーソ村をめちゃくちゃにして、やつらにどんな得があるっていうんだ。
現在、視界に入る襲撃者はいない。
緊張感は消えないが、辺りに、一瞬の静けさが漂う。
少し遠くから、リリウたちが戦っている気配を感じるが、俺の周囲は落ち着きを取り戻していた。
直後、背後から物音。
とっさに振り返ると、大きな穴が空けられている平屋の壁から、身を縮めてこちらを見ている小さな男の子キルムーリの姿が。
「んんっ!?」
俺に気づかれたことに焦ったのか、彼は建物の奥へ引っ込んでしまう。
「待って、俺は敵じゃない。もう、ここにトスロはいないよ。大丈夫だから」
呼びかけた数秒後、
「「…………」」
さっきの男の子に加えて、おそらくは彼の母親だろう女性キルムーリが、ゆっくりとこちらに出てきてくれた。
「俺のこと、わかりますよね? この前、こちらにおじゃました、ナコタ村の牧師です」
母親に向かって、優しく話しかける。
あのときは、農具片手に、こちらの村人に囲まれてしまったんだ。
俺を直接見ていなくても、そのうわさくらいは、彼女の耳にも届いているに違いない。
「ウダロが俺に伝えてくれたんです。皆さんを助けるために、仲間たちと、ここにやってきました。だから、どうか安心してください」
「…………」
明確な反応はないが、とりあえず、俺の気持ちは伝わっているみたいだ。
「詳しい状況が、まだよくわからないんです。知っていることがあれば教えていただけませんか?」
「……〈んんんんんんん〉」
例の呪文だろう。
女性キルムーリが何かをつぶやいた直後、彼女の『声』が理解できるようになった。
『いきなりのことで、私も、何が何だか……』
小さな男の子を引き寄せながら、彼女が語り出す。
『村が騒がしくなって、家の外に出てみると「女と子供は村の奥へ避難しろ。男は武器を持って戦え」と聞こえてきて……』
なるほど。
だから負傷している村人が、男性キルムーリばかりだったんだな。
『近所の家庭はみんな避難できたようなんですが、私は遅れてしまって……だから、この子と二人、息を殺して家の中に隠れていたんです。
「そうでしたか」
だとすれば、少なくとも女性と幼いキルムーリたちは、無事である可能性が高い。
希望はある。
しかし、のんびりしている時間はない。
早く頭を叩かないと。
「特に体の大きなやつを見ていませんか? あいつらのボスで、ドムタノンという名前なんです」
『じ、自分たちの身を守ることに必死で、そんなことまでは――』
「ん、んんんん」
疲労感のある母親をさえぎって、男の子が何かを言った。
『えっ……』
「んんんんんんんん、んんんんんんんんんんんん。ん、んんんんんんんん」
それを受けて、母親が俺に伝えてくれる。
『お、大きな体の魔族が、村長に話をすると言っていたそうです。この子、窓から様子をうかがっていたみたいで、偶然に……』
あのやろう、カデフさんのところへ行ったのか。
まずい、彼の身が危ない。
「教えてくれてありがとう」
俺は、幼いキルムーリに優しく伝えた。
「俺は、村長の家に向かいます。お二人は、どうか安全な――」
「その必要はねぇぜ」
母親キルムーリへの言葉は、威圧的な声によってかき消された。
「はっ、やっぱりお前か」
キルムーリ母子の表情が、恐怖の色を強くした。
振り返ると、そこには、
「不甲斐ねぇ子分が、泣きついてきたのさ。人間の牧師とダークエルフが、村に乗り込んできたってな」
トスロたちの親玉――ドムタノンが立っていた。
「……おい、その手を放せ」
探していた相手の出現に、俺が真っ先に感じたのは、強烈な怒りだ。
「はっ、いいぜ。お望み通り」
そう言ってやつは、乱雑に担いでいた一人の男性キルムーリを、こちらに向かって投げ払う。
「素直に従えば、痛い目をみることもなかったんだがな、そいつも」
俺はすぐさま、苦しそうな男性キルムーリに駆け寄る。
「……ん、んんんんん、んんん、んんんんん。んんんん、んんん、ん、んんんんん――」
「しゃべらないでください、カデフさん」
そう。
ドムタノンは、あろうことかカデフさんを傷だらけの姿にして、俺の目の前に現れたんだ。
「この村がほしいと、俺はその男に伝えた。だがそいつは、首を縦に振らなかった。仕方なく俺は、そいつの妻と娘を痛めつけることにした。しかし、そいつが反撃してきてな」
怒りが、俺の中で増大していく。
「妻と娘には逃げられた。そいつ、弱いくせに、必死の形相で抵抗してきやがった。めんどくせぇ」
家族を守ろうとしたカデフさんを、こいつは。
「まぁ、俺の要求をのまない以上、そいつも、そいつの妻も娘も、全員殺すがな――もちろん、お前もだ、牧師のガキ」
挑発的に、ドムタノンが俺を見やる。
「……カデフさんをお願いできますか?」
俺は視線を向けずに、母親キルムーリに伝える。
「俺が必ず、あいつを叩きのめします。だから、どうかカデフさんを」
『……わかりました』
「んんんん」
一呼吸の後に彼女、続いて、幼い彼までも。
こちらの近づき、母子がカデフさんに肩を貸す。
浅い呼吸の彼は、二人に助けられながら、ゆっくりと下がっていく。
「今日は逃がさねぇぜ。お前は、これから、ここで死ぬんだ」
「逃げるわけないだろ。お前を、ここで、徹底的に叩き潰さなきゃならないからな」




