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ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
109/114

05/02. トスロの頭を倒せ(1)

 単独行動になってからも、襲撃者たちは、村の中に潜んでいた。


「〈魔法の火球フレイツボール〉」

「ぐわっ!?」


 男性キルムーリに殴りかかろうとしていた、トスロ一体を制圧。


「はっ、はぁーっ」

「ごへっ!?」

「のわっ!?」


 民家を破壊し、中に入り込もうとしていた二体のトスロを、土の魔力ダーノの剣で追い払う。


 こいつらの目的は何だ?

 コーソ村をめちゃくちゃにして、やつらにどんな得があるっていうんだ。


 現在、視界に入る襲撃者はいない。

 緊張感は消えないが、辺りに、一瞬の静けさが漂う。


 少し遠くから、リリウたちが戦っている気配を感じるが、俺の周囲は落ち着きを取り戻していた。


 直後、背後から物音。

 とっさに振り返ると、大きな穴が空けられている平屋の壁から、身を縮めてこちらを見ている小さな男の子キルムーリの姿が。


「んんっ!?」


 俺に気づかれたことに焦ったのか、彼は建物の奥へ引っ込んでしまう。


「待って、俺は敵じゃない。もう、ここにトスロはいないよ。大丈夫だから」


 呼びかけた数秒後、


「「…………」」


 さっきの男の子に加えて、おそらくは彼の母親だろう女性キルムーリが、ゆっくりとこちらに出てきてくれた。


「俺のこと、わかりますよね? この前、こちらにおじゃました、ナコタ村の牧師です」


 母親に向かって、優しく話しかける。

 あのときは、農具片手に、こちらの村人に囲まれてしまったんだ。

 俺を直接見ていなくても、そのうわさくらいは、彼女の耳にも届いているに違いない。


「ウダロが俺に伝えてくれたんです。皆さんを助けるために、仲間たちと、ここにやってきました。だから、どうか安心してください」

「…………」


 明確な反応はないが、とりあえず、俺の気持ちは伝わっているみたいだ。


「詳しい状況が、まだよくわからないんです。知っていることがあれば教えていただけませんか?」

「……〈んんんんんんん〉」


 例の呪文だろう。

 女性キルムーリが何かをつぶやいた直後、彼女の『声』が理解できるようになった。


『いきなりのことで、私も、何が何だか……』


 小さな男の子を引き寄せながら、彼女が語り出す。


『村が騒がしくなって、家の外に出てみると「女と子供は村の奥へ避難しろ。男は武器を持って戦え」と聞こえてきて……』


 なるほど。

 だから負傷している村人が、男性キルムーリばかりだったんだな。


『近所の家庭はみんな避難できたようなんですが、私は遅れてしまって……だから、この子と二人、息を殺して家の中に隠れていたんです。

「そうでしたか」


 だとすれば、少なくとも女性と幼いキルムーリたちは、無事である可能性が高い。

 希望はある。


 しかし、のんびりしている時間はない。

 早く頭を叩かないと。


「特に体の大きなやつを見ていませんか? あいつらのボスで、ドムタノンという名前なんです」

『じ、自分たちの身を守ることに必死で、そんなことまでは――』

「ん、んんんん」


 疲労感のある母親をさえぎって、男の子が何かを言った。


『えっ……』

「んんんんんんんん、んんんんんんんんんんんん。ん、んんんんんんんん」


 それを受けて、母親が俺に伝えてくれる。


『お、大きな体の魔族が、村長に話をすると言っていたそうです。この子、窓から様子をうかがっていたみたいで、偶然に……』


 あのやろう、カデフさんのところへ行ったのか。

 まずい、彼の身が危ない。


「教えてくれてありがとう」


 俺は、幼いキルムーリに優しく伝えた。


「俺は、村長の家に向かいます。お二人は、どうか安全な――」

「その必要はねぇぜ」


 母親キルムーリへの言葉は、威圧的な声によってかき消された。


「はっ、やっぱりお前か」


 キルムーリ母子の表情が、恐怖の色を強くした。


 振り返ると、そこには、


「不甲斐ねぇ子分が、泣きついてきたのさ。人間の牧師とダークエルフが、村に乗り込んできたってな」


 トスロたちの親玉――ドムタノンが立っていた。


「……おい、その手を放せ」


 探していた相手の出現に、俺が真っ先に感じたのは、強烈な怒りだ。


「はっ、いいぜ。お望み通り」


 そう言ってやつは、乱雑に担いでいた一人の男性キルムーリを、こちらに向かって投げ払う。


「素直に従えば、痛い目をみることもなかったんだがな、そいつも」


 俺はすぐさま、苦しそうな男性キルムーリに駆け寄る。


「……ん、んんんんん、んんん、んんんんん。んんんん、んんん、ん、んんんんん――」

「しゃべらないでください、カデフさん」


 そう。

 ドムタノンは、あろうことかカデフさんを傷だらけの姿にして、俺の目の前に現れたんだ。


「この村がほしいと、俺はその男に伝えた。だがそいつは、首を縦に振らなかった。仕方なく俺は、そいつの妻と娘を痛めつけることにした。しかし、そいつが反撃してきてな」


 怒りが、俺の中で増大していく。


「妻と娘には逃げられた。そいつ、弱いくせに、必死の形相で抵抗してきやがった。めんどくせぇ」


 家族を守ろうとしたカデフさんを、こいつは。


「まぁ、俺の要求をのまない以上、そいつも、そいつの妻も娘も、全員殺すがな――もちろん、お前もだ、牧師のガキ」


 挑発的に、ドムタノンが俺を見やる。


「……カデフさんをお願いできますか?」


 俺は視線を向けずに、母親キルムーリに伝える。


「俺が必ず、あいつを叩きのめします。だから、どうかカデフさんを」

『……わかりました』

「んんんん」


 一呼吸の後に彼女、続いて、幼い彼までも。


 こちらの近づき、母子がカデフさんに肩を貸す。

 浅い呼吸の彼は、二人に助けられながら、ゆっくりと下がっていく。


「今日は逃がさねぇぜ。お前は、これから、ここで死ぬんだ」

「逃げるわけないだろ。お前を、ここで、徹底的に叩き潰さなきゃならないからな」

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