表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークエルフの女の子が、聖職者と仲良くしたらダメですか?  作者: 渋谷 恩弥斎
第2章 少年牧師と、風を奏でる森の民
108/114

05/01. 荒らされた森の集落

 風の魔力ウインゾが導くままに、俺たちは森の中を走った。

 今は、一秒一秒が惜しい。


 緑の中をひたすら進むと、不意に見覚えのある風景が。

 目の前の茂みの中に、小さな白い花を確認。

 間違いない。

 あれはシロオドニオバナ。

 部外者を遠ざける香りを放つ、この地域特有の草花だ。


「カッタ」


 シロオドニオバナに気づいたらしいリリウが、脚を止めることなく呼びかけてくる。


「ああ、このまま駆け込むぞ」


 俺が彼女に返すと、


「ほう、ここなのか……」


 リリウとのやりとりで察したらしい。

 イェルクさんが、それとなくつぶやく。

 意外なほどあっさりたどり着いてしまったことに、もしかしたら拍子抜けしているのかもしれない。


 彼はコーソ村を探していた。

 だが、この瞬間まで、それが叶うことはなかった。

 なのに、いきなりの目的地訪問だ。

 望んでいたこととはいえ、シロオドニオバナの特性を知らなければ、どこか腑に落ちないものだろう。


 イェルクさんのことは、もちろん気がかりだ。

 しかし今は、目前のことに集中。

 考えている場合じゃない。


 俺は、茂みの中に突っ込んだ。


 緑の壁を抜ける。


 そこに広がっていたのは、記憶に残っている以前の景色とは大きく違っていた。


 壊された民家、農具を片手に倒れ込む数名の男性キルムーリ――コーソ村は、まるで戦場のように荒らされていた。


「ひどい……」


 俺に続いて村に入ってきたリリウが、悲しそうに言う。

 一度訪れている彼女にしてみれば、この状況は信じられないものだろう。

 俺だって同じだ。


「どうやら、加減を知らない相手のようだな、これは」


 イェルクさんは冷静。

 もちろん衝撃は受けているだろうけど、まずは牧師として、この惨状の犯人へ、その意識を向けているようだ。


「んんーっ!?」


 半壊した民家から、キルムーリの男性が飛び出してきた。

 脚がもつれてしまったのか、その場に倒れる。


 直後、彼に迫る、トゲを持つ魔族――トスロの姿。

 くっ、やっぱりあいつらか。


 加速した俺は、呪文を唱えながら接近。


「〈魔法の火球フレイツボール〉」


 手のひらから放たれた火の玉が、野蛮な魔族に炸裂する。


「ぐわっ!?」


 敵がひるんだところで、俺は男性に駆け寄る。


「大丈夫ですか?」

「……ん、んん」

「とにかく安全なところへ」


 キルムーリの男性は混乱している。

 加えて、魔法を介さなければ、そもそも『会話』ができない。

 急かすような形にはなるが、俺は彼に避難をうながした。


「ん……んん」


 少なくとも敵ではないとわかってくれたのか、彼は小さくうなずき、ここから離れていった。


「く、くそう……」


 ダメージを受けながらも、俺をにらんできたトスロ。

 こいつらが、のどかな村を荒らしたのは間違いない。


「よくもいきなり……ん? お前、どこかで」


 どうやら、先日のことを覚えているらしい。

 野草摘みの最中に、ちょっと絡まれたあれだ。

 こっちは、どれがどいつか、判別できてなかったけどな。


「あっ、お前、この前の牧師!?」

「ああ、そうだよ」


 自己紹介の時間がはぶけた。

 俺は、単刀直入に尋ねる。


「おい、お前らのボスはどこだ?」


 こいつが先日のトスロなら、首謀者は決まっている。

 他の連中より体格のいい、あのドムタノンってやつだ。


「はっ、うるせぇ。この前は逃げられたが、お前なんか、この俺が串刺しにしてやるぜ」


 俺の質問に答えることもなく、目の前のトスロは、体のトゲを突き出して向かってきた。


「死ねぇーっ」


 さすがに、素直に教えてはくれないよな。


「〈土魔力による具現化ダーノクリスタライズ――ソード〉」

「ぐっ……」


 土の魔力ダーノの剣でトゲを払った俺は、防御の甘いトスロの腹部へ、再度魔法を叩き込む。


「〈魔法の火球フレイツボール〉」

「がはっ!?」


 熱と衝撃をくらったトスロは、背中からばたんと倒れた。


 安心しろよ、火力は抑えておいたから。


「へぇ、やるじゃねーか」


 一連の流れを見ていただろうイェルクさんが、品定めするようにうなずいていた。


「カッタ。これって、やっぱり……」

「ああ、前にウダロを襲ってたやつだ」


 近づいてきたリリウに、俺は答える。


 こいつらも、コーソ村を探していた。

 どうしてなのかは不明だけど、ここを襲撃してきた理由としては十分だ。


「負傷しているのは、見たところ男ばかりのようだな」


 周囲を見渡しながら、イェルクさんが言う。


 確かに、目に入るのは傷ついた男性キルムーリばかり。

 女性や子供は確認できない。


「重傷のやつも多いが、とりあえず息はある。今、彼ら一人ひとりを手当てしている時間はない。さすがに、一体二体で襲撃してきたわけじゃないだろうし、まずは、このトゲの魔族を倒すことが先決だ」


 イェルクさんによる的確な意見。


 そこで聞こえたのは、ずいぶんと耳障りの悪い声だった。


「おっ、人間だ。人間が来てるぞ」

「ダークエルフの女までいるぜ」

「ん? あれは、この前の牧師たちじゃねーか?」


 俺が、さっきの一体を倒したからだろうか。

 気配に気づいたらしいトスロたちが、奥からずらずらとやってきた。


「……まったく、大所帯なこった」


 両手の指では数え切れない魔族に、苦笑いのイェルクさん。


「お前ら、何しに来たんだ?」

「バカやろう。俺たちのじゃまに決まってるだろ」

「なら、やっちゃわなきゃならねぇな」


 戦う気満々のトスロたち。


 くそっ、面倒だな。


 カデフさんは無事だろうか?

 ナナンザさんとポポちゃんの安否も気になる。


「お前、こいつらのボス、わかってるんだよな?」

「ええ」


 イェルクさんに、俺は小さくうなずく。


「なら、ここは俺たちが引き受ける。こういうときは、頭を叩くのが一番早い――いいよな、リリウ?」


 彼の提案に、


「行って、カッタ」


 リリウはすぐさま同意を示した。


「いいんですか? これだけの数ですよ?」

「下っ端なんか、何体いようが楽勝だっての」


 ずいぶんな軽口。

 けれどイェルクさんは、もうトスロたちから視線を外しはしなかった。


「そういうこと。だから頼んだよ、カッタ」


 リリウも戦闘モードに入る。

 その横顔は、すごく凜々しい。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 一言残した俺は、そのままトスロたちの中に突っ込んでいく。


「なっ、いきなりきやがった!?」

「ひるんでんじゃねぇ、ぶっ殺せ」

「牧師を倒したなら、きっとボスにほめられるぜ」


 俺に反応して、トスロ三体が向かってきた。


 すると背後から、二つの呪文詠唱が。


「「〈魔法の風圧ウインゾストリーム〉」」


 重なる風のうねりが、トゲの魔族を押しやる。


「うっ……」

「くそっ」

「ち、ちくしょう」


 風に飲まれたトスロたちを尻目に、俺はその脇を走り抜ける。

 ちらりと背後を確認すると、腕を掲げたリリウとイェルクさんが立っていた。


 さぁ、狙うはトスロのボス、ドムタノン。


 どこだ、どこにいる?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ