04/08. ガーシュ王国のはじまり(6)
激闘が終わった舞台に、たくさんの子供たちが戻ってきた。
新しい語り部となる男の子が言う。
「人間の王さまは、凶悪な黒翼の魔将を倒しました。その勝利に、仲間たちは喜んだのです」
「「「「「やった、やった、やった、やった」」」」」
抱き合う舞台上の子供たち。
けれど、英雄となった若き王は、ゆっくりとひざをつく。
その姿に、彼の妹役の女の子が気づいた。
「ああ、どうしたことでしょう。私の兄は、大変な傷を受けています」
「「「「「えっ」」」」」
歓喜から、一転して衝撃。
仲間たちが固まる。
「時代を決める戦いは、勝った人間の王さまにも、ひどいケガを負わせました。黒翼の魔将を倒した王さまは、本当に命をかけて戦っていたのです」
語り部の男の子に続いて、
「妹よ、あとのことは頼む」
「兄さん……ああ、悲しい。平和な時代のために戦った私の兄は、平和な時代が訪れたと同時に、どこか遠くへ行ってしまうのですね」
若き王と、その妹。
手を取り合う二人。
呪いのせいもあっただろうが、相手は黒翼の魔将。
勇敢な戦士だとはいえ、ただで済むはずもない。
死の間際、駆け寄ってきた妹へ、若き王は未来を託したようだ。
自らの命を代償につかみとった平和な時代を、長く長く守っていくようにと。
「この地に、永遠に平和な国を」
若き王役の男の子がばたりと倒れる。
「王さまが亡くなり、みんなは涙を流しました。でも、泣いてばかりはいられません」
語り部が、物語をクライマックスへ導く。
王の妹役の女の子が立ち上がり、俺たち観客に向かって呼びかける。
他の子供たちも、彼女のうしろに、ずらりと並んでいた。
「私の兄が、この戦乱の時代を終わらせました。そこで、皆さんに尋ねます」
妹役の女の子に続いて、他の子供たちが答える。
掛け合いだ。
「この地は誰のものですか?」
「勝利した、私たちの王さまのものです」
「王さまとは、誰のことですか?」
「あなたさまの兄、彼のことです」
「彼とは誰ですか?」
「我らが英雄――『ガーシュ』さまのことです』
「ならば、この新しい国を何と呼びましょう?」
「『ガーシュ王国』です」
そう、英雄の名はガージュ。
彼の名を冠した王国が、その瞬間に誕生したんだ。
加えて、教会の教えも、また。
「この喜びと、この悲しみを忘れてはいけません。だから私は、この場にいない皆さんにも、大切な想いを伝えたいと思います」
妹役の女の子は、空を仰いでいた。
非力である人間が、凶悪な魔族に打ち勝ち、平和な時代の扉を開いた。
この勝利は、これまでに散っていった数多くの命の上に成り立っている。
偉大なる兄は、そのたくさんの魂に選ばれ、そして応えた――そう、まごうことなき英雄に違いない。
さぁ、英雄王を称えよう。
人間と魔族が手を取り合い、恒久の平和を願おう。
「私の兄は、国の父となったのです。この王国で暮らす、すべての命の父に」
ガーシュの妹である『ニージェ』は、勇敢で誠実だった兄を信仰の対象とする教えを説いた。
それが『国父教』。
建国の父であるガーシュは、戦乱の世にあって、迷える子羊たる人々を導く光であった。
この教えに生きる聖職者は『牧師』と名乗ろう。
父なる英雄の偉業のごとく、道しるべのない子羊たちが、明日を見失わないように。
「これが、私たちの国――ガーシュ王国はじまりのお話。ずっと昔の、そのまた昔のお話です」
語り部が余韻を残すように言うと、大きな拍手が会場を包み込んだ。
「ふーん。この国は、そうやって生まれたのね。よくわかったわ。なかなかおもしろかったじゃない」
「「「ギィ」」」
納得したように拍手をするフィンネとマサンたち。
リリウも満足そうに、子供たちへ声援を送る。
「よかったよ、みんな」
舞台は大成功。
物語は大団円となったが、現代への流れを理解するには、もう少し補足がいる。
ニージェには、男子と女子、二人の子供がいた。
英雄の妹であるニージェは、もちろん新しい王国の幹となる人物だが、彼女自身は王位に就かなかった。
平和な世のためとはいえ、兄を失った悲しみは、やっぱり大きかったんだろう。
代わりに、自分の息子に冠を与え、ガーシュ王国の『二代目の王』にした。
これは、英雄であるガーシュ本人を『初代』ととらえる、ある種の政治的建前。
したがって、我が国の初代国王は、あくまでガーシュとされている。
さらに、自らが起こした国父教、その長としての地位――『教主』に、自分の娘を選んだんだ。
ニージェの子供はどちらもまだ若かったんだけど、つまりはガーシュの甥と姪。
偉大な血族ってことで、周囲はすぐに賛成したようだ。
自らは二人の子供の裏方に徹し、偉大な兄への尊敬と感謝の念を抱きながら、国の基礎を築いたニージェ。
時は流れ、彼女もまた、英雄のいる場所へと召されていった。
現在のガーシュ王家は、ニージェの息子の血筋を汲むものであり、国父教の教主は、彼女の娘の子供たちが代々引き継いでいる。
英雄ガーシュその人は、政治的には『初代国王』であり、宗教的には『国父』となった。
いずれにせよ、この国はその名前が示す通り、偉大なる英雄として生涯を終えた武人に、すべてのはじまりがある。
何より、無数の名もない命が犠牲になった事実を、俺たちは忘れちゃいけないんだ。
平和な時代を生きる、この国の国民として、これからも――。
鳴り止まない拍手の中、子供たち全員が舞台の上に。
笑顔の彼らが手をつないでお辞儀をすると、さらに大きな拍手が、かわいらしい俳優たちに送られた。




